大貫山茶花 その5
そういえば、ここはどこなんだろう。見た感じは誰かの部屋みたいな・・・。
それにしても、えらくファンシーな部屋だな。
「ここってもしかして、渡瀬さんの部屋?」
「そうだよ。あの河川敷から近かったから、休ませようと思って。」
なるほど、そういうことか。部屋の時計を見ると、既に8時を回っている。
もうそんな時間か、そろそろ帰らないと。
「じゃあ、僕はそろそろ帰ろうかな。もう遅いしね。」
そう言うと、渡瀬さんは物凄い力で僕の体をベッドに押さえ付けた。
目が血走っているような気もする。
「ダメよ、山茶花くん!私の手料理を・・・、じゃなくて、
まだダメージが抜けてないと思うから、もう少し休んでいって!」
今、本音出てましたけど?まぁ、こういうのも偶にはいいかもな。
渡瀬さんは料理を作るために下へ降りていった。
しばらく休んでいこうと決めるが、携帯電話の着信音が鳴り響く。
しかも、これは特定の相手でしか鳴らないものだった。
「なんてタイミングの悪い・・・。霊でも憑いてんのか?」
ディスプレイに表示された相手の名前を見て、思わず眉間にしわが寄った。
彼から電話が掛かってきて良いことがあった試しがない。
「“侘助”・・・、お前って奴はどこまで疫病神なんだ・・・?」
もちろん、隠密治安維持部の仕事だろう、断るわけにはいかない。
深い溜め息を吐きながら通話ボタンを押した。
「おう、出んのが遅ぇんだよ、山茶花。まぁ、それはいい。
テメェ今どこにいんだよ、家に居ないのは分かってるぞ?」
「はぁ、お前は僕の母親か?いちいち僕が出掛ける場所を言わなければ
いけないのか?過保護にも程があるぞ。」
普段はあまり言うことのない文句を言うと、侘助は相当苛立っているのか、
言い返すこともなく要件だけを簡潔に伝えてきた。
「山茶花、緊急事態だ。どうやら敵に先手を打たれたらしい。
詳しいことは“月神”に聞かなければ分からんが、さっさとテメェを
連れて来いとの仰せだ。で、テメェ今どこにいる?」
なるほど、確かに緊急事態らしい。僕は侘助に少し待つように言った後、
渡瀬さんに事情を伝え、近所の目印になるような場所を聞いた。
「えっと、確か近所に〇〇公園っていうのがあるんだけど・・・、
山茶花くん、本当に大丈夫?まだ少し休んでたほうが・・・。」
「いや、もう大丈夫だよ。友人が危篤状態らしくてね、急がないと。
・・・侘助、〇〇公園だ。そこで落ち合おう。僕もすぐに向かう。」