1日目:無花果
2階の3年生用の教室(とは言え、生徒はもう3-2だけなんだが)を出て、別館3階の娯楽室に行こうと、渡り廊下に差し掛かった時だった。
「待って」
と無花果がやってきた。
「私も行くわ。量が多かったら大変でしょう?」
「・・・ああ」
取り敢えず、女子の誘いを断るのは失礼だと思ったので、同意した。
渡り廊下では一言も喋らずに別館にわたって、彼女は口を開いた。
「あなた、どうして最後まで立たなかったの?」
「・・・無花果はどうなんだ?」
「話を変えないで。質問しているのは私」
「僕は戦いたくなかっただけだ。本心はこれだけ」
「嘘ね。あなたは私と同じ考えのはず。さっき神道君に向かって言った発言で確証を得たわ」
「じゃあ聞かなくても分かるだろう」
俺は突き放すようにそう言った。
「・・・・・・そうね」
そして結局、娯楽室まで何の話もしなかった。
その後は、娯楽室で、持って行くべきものを整理している最中だった。
「チェスってルール分かるか?」
「私は分かるわ。羽賀君は分からないでしょうけど、橋田さんは知っていそうね」
「羽賀は将棋の方は知ってそうだな。将棋も持っていくか」
「やっぱり荷物は多そうね。段ボールにでも入れましょうか」
「そうだな」
とは言え、上のように本当に他愛も無い話だった。
「トランプは定番だよな?」
「そうね」
「そういえば、トランプのマークって意味があったよな?」
「専門的には、スートというらしいけれどね。確か、スペードが「剣」で軍隊や王侯、クラブが「棍棒」で農民、ハートは「洋杯」で聖職者、ダイヤは「貨幣」で商人だったわね。また、スペードが冬、ハートが秋、ダイヤが夏、クラブが春よ」
「詳しいな。何か宗教的なものか?」
彼女の動きが止まった。
「・・・・・・どうして?」
「首につけてるネックレス。ハートとスペードとクロスだから、ハートは聖職者だろ?クロスはキリスト教だと思うからさ。3つもつけてたから気になってな」
そして、彼女は動きを作動させて、こちらを向いた。そして、その3つに触れながらこう言った。
「そうよ。私の家系は聖職者でありながら正義の軍隊・・・らしいわよ」
「軍隊・・・なのか?」
「昔はね。今は・・・そうでもないわ」
そうでもない?どういうことだ?と聞こうとしたが
「もうこのくらいでいいでしょう。帰りましょう。彼は怒らせると怖そうよ」
と、先に部屋を出た。俺もそこに有ったものを手当たり次第に段ボールに入れた。
どうやら、娯楽室での件は長く時間がかかったようで、既に9時をまわっていた。