6日目:1:5
さて、今回は珍しく、物語の進行状況ではないですよ。
無花果の話ー。
いつだったろう。
私が初めて武器を取ったのは、確か、私の母が死んだ時だった。戦死でもなんでもない、ただの病気である。が、若いうちになくなったのは間違いない。私はまだ幼稚園に通っていた。
しかし、残念ながら私の父は不明である。生きているだろうけれど、母とは一夜を共にしただけの言わば『遊び』だったのだろう。それはお互いに、である。だから私は両親を恨んでもいないし、憎んでもいない。ともかく、たった1日だけで母は子どもを身ごもった。それが私。母は若かった。今生きていたとしても、恐らく35くらいだろう。私が今15だから、20で産んだことになる。
閑話休題。
母親は私と同じ、殺し屋という職業をしていた。ただ、私が母のお腹に住み着いた時に、やめることを決意したのだ。もちろん、条件があった。
それが私。
母の命が尽きた時、後継者として私を育て上げる・・・・・・すなわち、死んだ時の親権を、その正義の軍隊の組織の聖母に誓った。
その時、私を救いに来たという、シスターに私は手近の果物ナイフを突き立てたのだ。
そのシスターは、身軽な動きで私を拘束した。明らかに手加減していなかった。
その人は私の良き相談相手となり、私にその頃の話をするときは、
「貴方を一人前に育て上げる以上、初歩から全力で叩き込もうとしたのが1つ。また、貴方のお母様から、『全力であの子を守りぬけ』と命令されていたので、私の強さを教えておく事が大事だと思ったのが1つ。そしてもう1つは貴方の突き立てようとしたナイフは、明らかに素人とは思えないほど、人間の急所を的確に、しかも初対面の相手を危険と判断して狙ったこと」
といっていた。つまるところ私には才能があったのだろう。
ああ、また脱線したわ。
それ以来、私は武器を取っていない。そのシスターの教えでは、犯罪者を殺す殺し屋という組織にした以上(したのは母親だが)、私達は犯罪者であるそのものに、そのものの犯した過ちを良く知っている武器で殺すのが、礼儀である・・・・・・と。
つまり凶器で殺せということだった。
相手をそいつ自身の『他人を痛めつけた武器』で相手を殺すこと。それはつまり、私達は人殺しを考えている人は殺さないのだ。また、殺人以外の犯罪者は殺さない。そして、正当防衛的殺人は許容する。それが私達のやり方。
さっきも出てきたがこの手法をとったのは『母親』だった。私の母親が、この軍隊をそういうものに変えたのだった。
それには理由があった。らしい。私は直接聞いていないので、それを信じている。
母の父母と兄妹は殺された。殺人者に。名前を『如月 零』と言う。私の調べでは、あの如月君の家系の人間。彼の家系の人間は、ほとんどが殺人鬼や殺し屋などであるが、そのうちでも、こうして名前が割れているのは一部である。彼らの家系は、教授されたわけでもないのに、ほとんどがそうなっているらしい。そして、そのうちのほとんどが、名前が世間に知られる事は無い。この『如月 零』が珍しいタイプである。
どうしてこんな話をしたかというと、私が初めて殺した相手がその人たちだったから。母の意志を引き継いだ気になっていた。その当時、私は9歳だった。
私が如月君に『殺人鬼』と言ったのには、当然理由はある。
1つはさっきのように『如月』という苗字が気になっていたから。もしかしたら、如月の人間ならば犯罪を犯しているかもしれない。
そしてもう1つはこの辺りで起きている殺人は同一犯だった。
この2点から、私は彼を観察し続けた。そう、明確な根拠なんて無かった。だから彼に何度も鎌を掛けたり、脅したり、プレッシャーを掛けてみた。
しかし彼には何の反応も無かった。だから彼は違うのだと思っていた。私と同じ『禁句』を考えられていたのも、彼は冷静な『正義』なのだと思っていた。殺すテクニックの手際のよさには少し疑問があった
けれど、それは別次元として処理した。
違った。彼は如月の人間として忠実だったのだ。
殺しの才能とそれに準じた冷静さ。自らを完全に客観的に見ることの出来る人間性。そのパーソナリティーが存在していたのだ。
だから私はそれに騙されていた。むしろ、しばらく行動を共にするうちに、少なからず好意を持っていたのは明らかだった。
それに気付いたのは、昨日。
私が心臓部に銃弾を撃たれて倒れた時。私はあいまいな記憶の断片で見た。
明らかな怒りと悲しみ。涙を流したその目から聞こえてきたような気がした。そしてそんな中での、冷静な殺人。
間違いないと思った。
彼は間違いなく『殺人』のプロだと。
以上、回想終。
「・・・・・・で?」
そんな私は今、1階・・・・・・保健室に向かう途中の道で5人の先生方に囲まれていた。
1対5。
面倒だ・・・・・・と。
今まで喜ばしかった殺人を、初めてそう思った。