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5日目:鬼の霍乱

 鬼の霍乱とは

 いつもは極めて壮健な人が病気になることのたとえである。


 それは一体誰なのか。


 飛んでいった銃弾は時雨の肩にヒットした。

「当り」

 発砲したのは僕からすれば誰でもない、クラスメイトだった。彼も戦いで成長するタイプか。今、誰を真っ先に撃つべきか分かっていたようだ。しかし、頭を狙えていないのが痛いところである。

 ともかく、その発砲を筆頭に、敵味方共々、銃を発砲し始めた。


「こんなカオスな予定だったのか!?」

 僕は神道に向かって、叫びながら訊く。

「口を動かす前に手を動かせ!」

「お前の責任だろう!」

「他人に責任を押し付けている時こそ、無様な人間は居ないぞ」

「それはそうかもしれないけれど、少なくともお前よりはマシだな!」

 ふざけているわけでもなく、そう言い合いながら銃を連射する。


「狙うのは神道、無花果、如月、木戸だ!羽賀の身体能力と橋田の目には対応できないから、そいつらは諦めろ!!」

 時雨の叫び声は、教師連中に届いたのか届いていないのか、結局全員を狙うように弾は教師と生徒の間を飛び交う。

「何をしている!」

 そう言って、時雨は自分のポケットから、手榴弾を取り出してこちらに向かって投げた。

「伏せろ!」

 統率の取れている僕らは、木戸のその声を合図に伏せる。そして羽賀はそれに目掛けて、クナイを投擲とうてきした。結果、本来到達すべき地点より少し後方で手榴弾は炸裂し、僕らと教師たちの間に煙とその匂いが充満した。


「くっそ!」

 僕は言いながら、銃を構える。

 狙いは定まらないが、向こう側には教師連中しか居ない。

「逃げられる前に仕留めろ!」

 僕はそう叫んで銃を発砲し続ける。少し遅めの反応で、他の面子も銃を撃ち始めた。


 お互い、防弾チョッキは常備しているようだ。こちら側には、警察が使うような盾もあり、死者は出ていない。向こう側からは多少、悲鳴も聞こえる。

 これなら何とかなる。今日一日でどうにかできる。


 そう思っていた。


 1発の銃弾が、木戸の左胸近くに当った。

「・・・・・・!!」

 木戸は倒れる。

「木戸!!」

 委員長の木戸が倒れ、統率が乱れたのか、全員が木戸に駆け寄る。

「大丈夫・・・・・・だ。防弾チョッキがあるから・・・・・・」

 確かに出血はしていないようだ。しかし、その乱れを向こうが見逃すはずも無かった。

 木戸に駆け寄った数人に銃弾が貫通する。

 叫び声が上がり、さらに、乱れが生まれる。

「貴様ら!落ち着け!」

 神道が叫ぶがその声虚しく、届くことなく乱れが生じた。


 撃たれる。防弾チョッキの穴を抜くように、足や掌を。

「大丈夫だ!まだ対応でき――――」

 僕は叫びながら皆を見渡していた。

 その時だった。


 無花果の左胸を銃弾が貫通した。


「・・・・・・は?」

 何だ。何だ・・・・・・。左胸だぞ?防弾チョッキは・・・・・・!?弾丸が・・・・・・貫通・・・・・・。

 思い出した。無花果は早く移動するために、防弾チョッキを着用していない。


「・・・・・・なんだよ」

 何なんだ。この感覚は。大切な物が消える。


 僕の家族が消えた時のように。母が。父が。妹が。兄が。

 全て奪われたときの感覚がよみがえった。


「あああぁぁぁぁあああああああぁああああアアアアアアアアアアアアア!!」

 なりふりかまってられない。


 僕が僕であるにはそうするしかないのだ僕は僕として生きるために殺す殺す殺す好きでやっているわけじゃないかもしれないこともないのだ分かっている全ては自分のためだああ漢字が面倒臭くなってきたというか感じるのも面倒だああなんだろうあの肉塊は先ほどまでときあめだったような気がする名前なんか一々覚えていられるかそんな事僕には関係ないんだ僕が僕として生き抜くためには僕は自分のために最善の努力をするしかない。


 銃弾を撃ちつつ、馬鹿ども突っ込む。銃弾が右足、右肩、頬をかすめる。かすめるだけって、お前らほぼゼロ距離で何やってんだばーか。とか思いながらナイフはさっさと数人の皮膚をかすめて、血液の赤に濡らす。おいおい、僕も馬鹿なのか。もしかして僕もゼロ距離で殺せないのか。


 殺す。ココに居る人間を。全て。見境。ある。なし。しるか。ばか。

 奪う人間は奪われる覚悟を持たなきゃならないんだよ奪うことはそれは神の物を全て手に入れようとしている愚かな人間と同じまぁ僕は愚かだけどねーあー面倒だだからさっさと殺せば良かったんだほらその気になれば1人でも全員殺せそうじゃないかだからさっさとやっちまえばよかったのに殺すコロスころすKOROSU頃州比巣殺す――――。


「如月ぃぃぃ!!」

 僕の名前が呼ばれた。

「落ち着け!君1人で全て背負うな!」

 ああ。木戸だ。いつも僕を助けてくれる。この学校で見たとき、こいつだけは人間として見られた。ああ、後、数少ない友人と無花果だ。

 意識が少し復帰できた。木戸ありがとう。と、口が動かない。

 せめて向こう側に思いを伝えるために僕は安堵の表情をし、顔をほころばせて、木戸を見る。


 あ、向こうの誰かが何か叫んだ。でも聞こえない。見えない。わからない。








 僕は今度は確かな痛みを間違いなく左胸に感じて、意識をプッツリと切る事になった。








 ああ。じごくってどんなきぶんなんだろう。



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