3日目:希望
希望の反対は絶望です。
希望の類語は志望です。
希望の定義は願望です。
【12時になりました。戦線終了です。これ以上の攻撃は、こちらへの敵対と看做します】
さて、結局その日(戦線にとって)大きな事態は特に無く、1日を終えた。
遅めの夕食(最近はこれが普通なわけだが)を済ませて皆は就寝準備を済ませた。
そしていつもならばこのまま寝るつもりなのだが、どうも寝れる気分ではなく、教室をでて僕は1階に降りた。そしてソファーに座った。
が、そこには先着が居た。
「・・・・・・よう」
「や」
神道と木戸だった。
「何やってんだ?」
「貴様も同じだろう」
僕の発言に神道はそう答えた。
「どうも気に食わん。俺と木戸だけで今行動している事項がある」
「何?」
「ヒラオカの存在だ。アイツの正体が全く分からん」
なるほど・・・。確かに主催者側の行動が分からない。
「まあ、僕と神道君でしばらくは行動してみるよ。力が必要になったら皆も誘うからさ」
「そうか」
「本当は教師連中と連携して警察を探すことも出来るが・・・・・・裏切りの危険性がある」
まあそうだよな。簡単に協力なんかできないはずだ。
「では、俺は寝る」
そう言って神道は僕がソファーに座る前に先に教室へと戻った。
僕は木戸の横・・・さっきまで神道が座っていたところに座る。
「本当は僕も殺すのは怖いんだ」
木戸が突然そう言った。
「でも君のおかげで皆、立ち上がることが出来たよ」
「・・・・・・いや」
僕はお礼を言われるのに慣れていない。だからこれが最大の反応だった。
ちなみに言うのも慣れていない。
「じゃ、僕もそろそろ寝るよ。如月君も落ち着いてから寝なよ」
と木戸は立ちあがってその場を去ろうとした。
「・・・・・・不思議じゃないのか?」
僕は思わずそう呟いた。
「・・・?何が?」
木戸は僕の言葉に反応する。
「僕は人を2人も殺した。なのに冷静なのはおかしい。待機部隊の奴らにそういわれた」
「・・・・・・」
「その所為で殺人鬼じゃないかとも言われた」
これは本当だけど。
「お前はおかしいとは思わないのか?」
「・・・・・・」
しばらく黙っていたが、木戸は
「ふむ」
と一言言うと、もう一度ソファーに座った。
「確かに冷静なのはおかしい。殺人鬼だって疑う気持ちも残念だけど僕も分かる」
「・・・・・・そうか」
僕は肩を落とした。
「でも、いいんじゃないか?」
木戸はそう言った。僕はその木戸に目を向ける。多分訝しんでいる顔をしていると思う。
「君がどんな状態であっても、君が殺人鬼でも、君は僕らを救ってくれた。立ち上がらせてくれた。前を見せてくれた。だから君は100%ヒーローなんだよ。殺人鬼とかそういうのだとしても関係なくね」
そう言って笑った。
「・・・・・・」
「それに殺人鬼だとしてもそれは今は僕らの力だ。一々考える必要は無い」
「・・・なるほどな」
「あ、別に、殺人鬼だと思ってるわけではないけど」
と、手を振って弁明する。いや、そんなに必死にならなくても。
「・・・落ち着いた?」
「ああ」
「じゃ、僕は寝るよ。君も上がるかい?」
「僕はもう少しここで外を見てるよ。出れない以上、見るくらいはしたいから」
「そうか。じゃ、おやすみ」
そして、また階段に向かった。
「あ、木戸」
僕はもう一度引き止める。今回は対象に向けて。しかも思わず立ち上がってしまっている。
「何?」
「えっと・・・・・・」
どういえばいいのか分からない。得意じゃないし慣れてない。から、取り敢えずストレートに言う事にした。
「ありがとう」
「・・・・・・どういたしまして」
そう言って木戸は笑うと、階段を上がっていった。
それにしても、まさか退屈だと思っていた現状から逸脱して、戦線が始まって、皆を絶望にたたきつけたつもりが、どうして僕が希望を持たされているのだろう。
と、僕は思わず笑った。
願望 果たされしときより 希望となり、
希望 打ち拉がれしときより 絶望と化す。
絶望 打ち破りし者のみ 世界の望むべき者となり得る。