2日目:勇気
あれからすぐに1階に下りた。残り時間が30分程度になっていたため、そこには2人しか先生がいなかった。
「おい。何かするんだろ?如月」
負傷者の1人が僕に向かってあざ笑うように言う。
「一体何をしてくれるんだか・・・・・・」
「いや、僕は何もしない」
面と向かって僕はそいつに言い放った。
「何言ってんだ?」
「やるのは君達だよ」
僕がそう続けると、
「あんた、馬鹿じゃないの?」
と別の女子が言った。
「お前何考えてんだよ!」
「頭行かれてんじゃねえのか?」
「アホだな。相手にするのも馬鹿らしい」
と、ざわざわと騒ぎ始める。敵が目の前に居るのによくそんなのんきに居られるなあと、責任転嫁と他人事というあわせ技を使うことで現状を見ない方向性を確立した。
「皆落ち着いて・・・・・・」
木戸が皆を制すように説得をするが、勢いは留まる事を知らない。
「黙れ」
一言神道が言った。その勢いに全員の勢いが負ける。
「・・・・・・おい。如月。貴様何考えている」
「そうだ!お前何を――」
「俺は如月と話している。お前は黙っておけ」
もう一度神道がそう言って彼らをいなした。
「・・・・・さっきもいっただろ?やるのは僕じゃなくてさっき、数で押すとか言ってた君ら」
「意味が分からん。何を考えているのだ」
「だから言っただろ?神道には分からないよ。僕の思っていることは」
そう言って、僕は先生を見る。こちらを睨んで銃器を構えている。
「羽賀。手伝ってくれ」
「あいよ。なんとなく、俺にも分かったぜ。お前が何がしたいのか」
羽賀は俺の隣にやってきた。
「如月くん・・・・・・」
橋田がこちらをみる。うーむ・・・小動物を思わせる。
「・・・多分だけど・・・・・・私も分かるけど・・・・・・気をつけてね」
「あぁ。分かったよ。ありがとう、橋田」
僕はそう言って、もう一度羽賀と一緒に先生を見る。
何の合図も無く僕らは走り始めた。
「如月。乱射の危険があるから気をつけろよ」
言ってから羽賀は煙球を投げた。
「僕は右側の人のほうへ行く」
「了解。もう1人は俺が止めておく」
羽賀は空を飛ぶように空中を舞って、視界の左側へと消えていった。
煙球によって見えなくなった視界で「チッ」と舌打ちをした先生の方向から銃撃音が響く。僕は一々それらをよけるのが面倒だからそのまま真っ直ぐ走る。
嘘だよ。よけれないし、よけるほど怖くも無いからだ。
「すみません。先生。実験台にさせていただきます」
律儀にもお願いしてから、僕は胸と右肘の間で首を絞めるようにしてから、左手でナイフをその先生に首筋に当てた。
「ガ・・・・・・」
息が止まり、恐怖で動きを止める。
「羽賀、下がれ」
「了解!」
そして僕は後ずさりで下がる。煙が晴れてこちらに銃を向けてきたもう1人の先生に
「はい。撃ったら彼が死にます」
と、宣言してそのまま下がる。
「羽賀・・・・・・よく無事だったな」
「まぁな。俺は忍者だから」
そう言って2人でそのまま下がる。
「如月君?一体何を・・・・・・」
木戸が僕にそう言って疑問をぶつける。が、俺が答える前に
「まぁ、見てろって」
と、羽賀が答えた。
「さてと」
俺はそのまま地面に座り込み、ナイフを首に突きつけたまま、肘から腕に変えて首を絞める。
「羽賀。僕のポケットから拳銃とって」
「あいよ」
俺の指令をすぐさま実行に移して羽賀は銃を手にした。
「おい。お前」
俺はさっきの負傷者を呼ぶ。
「な、何だよ」
少しビクッとしながら俺の発言に答える。
「銃。持てよ」
「は・・・はぁ?」
「ほい」
羽賀がその負傷者に銃を持たせる。
「ほら。殺せよ」
「え・・・・・・?」
「数で押せば殺せるんだろ?さっさとやれよ」
「い・・・いや、俺は――」
僕はナイフを首を絞めていた腕を放す(同時に羽賀が代わりに先生の動きを止める)。そしてその負傷者の腕を引っ張って、先生の額に向けさせる。銃口が先生を向く。
「き・・・如月君!?」
木戸が止めようとする。が、
「待て」
と神道がその木戸を止める。
「なるほど・・・。貴様のやりたいことがわかったぞ」
と神道が僕に言うが、知ったこっちゃ無い。
「早くやれよ」
「う・・・・・・」
「殺せるんだろ!やれるんだろ!勝てるんだろ!さっさとしろよ!」
僕はそいつを責めるように言う。
「・・・・・・嫌だ!」
と、そいつは銃から手を緩めた。
僕は銃をもって立ち上がる。
「おい。さっき好き勝手言ってた奴ら・・・。お前だったな」
適当に指差す。
「あ、いや・・・・・・」
「さっさとやれよ。誰でもいい。早くしろ」
誰も動かない。
「早くしろ!!!」
神道、木戸、羽賀、橋田、無花果以外が下がる。まるで逃げるように。
「・・・・・・如月君。どういうことだ?」
木戸が僕に聞く。
「彼はこう考えているのよ。『お前ら・・・人を殺せるのか』って」
無花果が答える。
そして
「お前らにその覚悟はねぇだろ?」
と羽賀が続けた。
「彼は・・・だから待機部にいるんだよ。君らが殺せない以上、ただの足手まとい・・・・・・だから」
橋田も続けていう。
「ふん・・・・・・。俺には分からんわけだな。お前らは同意見だったようだが」
神道は俺達にそう言った。
「お前らは偉そうに自分が戦える。あいつらは戦わないって、見切りをつけて優越感に浸って、現実に目も向けずに虚構に走る。本当は僕ら待機部隊が覚悟が出来ていたって言うのにさ」
僕は彼らにそう言った。
「言っとくが、最初に約束したとおり今更待機部隊にはいけねぇぞ。最初に如月が言ってたろ?あ、もしかしてここまで読んでたのかな?」
と、羽賀が言う。僕は暗黙の了解で受け流す。
「お前らに勇気があるのか?僕らみたいに、アイツらと戦う勇気が。楽観視するな。僕らの戦いは殴り合いや不良の喧嘩じゃない」
僕はさっき撃たれた銃弾の跡の部分を思い切り手で叩いてから、皆に見せ付ける。
肩から血が流れていく。血だまりが出来る。手に赤さが残り、悲愴感を際立たせ、怒りと恐怖を煽る。
「初めから殺し合いなんだよ」
書いた当時の実情により、あとがき前書きは省略させていただきます。