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スナッキーな夜にしてくれ  作者: 火夢露 by.UMEBOSHI-P
第2夜 FRIDAY NIGHT
7/17

第2話 常連と常松

挿絵(By みてみん)

 ナナメ45度の姿勢でマイクを握る気取ったニヘイちゃんを冷ややかに見つめる常松。


「JOOWYのバラードナンバーが十八番だ」と言い張る常連2号(注)ニヘイが満を持して歌い始める。

 

 しかし、いきなり歌い出しのタイミングを外してしまった常連2号を目の当たりにして、何とも言えない哀しい気分になってしまう。


 そんな状態にしたのにも飽き足らず、常連2号の歌声がさらに襲いかかる。


(注:常連1号とは第1夜で登場したガースー。二人目の常連ニヘイを常連2号と呼ぶ)



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 常連2号ことニヘイは、気を取り直して歌い始めた。

 その姿勢は変わらず、ナナメになっちゃったままだ。


 改めて、注目の歌い出し。


~♪~「つくり↝わ~ら××◆し~べ、チョーじゃ★↘☇」~♪~


(んっ!? なーんか音程が違ってないか?? かなり不思議な音階になっちゃってるぞ! っつうか、聴いたことがない音階を駆使しちゃってるよ。これって、最早、雑音じゃねえのかー?)


 常松は、聴くに堪えないといった感じで、カウンターの中の二人の様子を探る。


 すると、この曲が大好きなはずの香奈ちゃんは、冷めた表情で携帯のメールチェックをしはじめている。


 しかもママに至ってはいつの間にか、まだ臭いが残っていそうなトイレのドアを開けて入ろうとしていた。


(こいつら歌を聴く気がまったくないし!! っつうか、常連2号のカラオケ対処法を習得しちゃってるみたいだぞ。しっかし、バラードが下手ってのはカッコ悪すぎだなー。下手くそな奴はバラードをチョイスしちゃあいけないんだよなー)


 常松が心の中でディスっているところを、まるで不意を突くかのように容赦なく襲いかかる歌声。

 必死になって笑いを堪える常松。


(こいつ、確か、この歌が十八番とかなんとか言っていたはずだよな。音痴ってのはよくあるオチだけど、最早こいつのは完全に別の曲になっちゃってるんだよな!)


 常松は、怪音波が店中に響き渡る中、笑いを堪えるために顔を下に向けてギリギリ耐えていた。

 ようやく歌が終わって、なんとか拷問に耐えきった常松は、頭をあげて周囲を見渡す。


 すると、香奈ちゃんは「ずうっと聴いていましたー。素敵な歌でした♡」と言わんばかりにニヘイを見つめながら拍手を送っている。


 そしてママは、既にトイレから出てきて手を叩いている。


 二人のあまりに見事な変わり身と防御解除のタイミングの絶妙さには、驚くとともに感動さえも覚えてしまう。


 常松は、心の底から惜しみない称賛を二人に贈っていた。


(これがプロの接客なのか。いいものを見せてもらったよ、さすがだよ。。。)



 常松の拍手をチラ見した常連2号は、“俺の歌に感動したのだろう”とでも言いたそうな表情で、誇らしげにマイクをテーブルに置いた。


「いやーー、今日はなんだか、喉の調子がいまひとつだったな!」


(おいおい、喉じゃあないでしょ! もっと致命的な問題があるんだっつうの!!)


 その時、カウンター内の所定位置に戻ってきたママが常連2号ニヘイにロックオン!


「相変わらず、聴いているといろんな意味で哀しい気分になる歌ね~」


(おおっ! ママの攻撃が炸裂だ!)


「何故か、私もママと同じで哀しくなっちゃうんですよー」香奈ちゃんも同調しているようだ。


「やっぱり二人ともわかってるねー! 俺って、歌に気持ちが入っちゃうからね~、最高のバラードだったでしょー」


(おいおーーい! こいつ、イラッとするなー! こいつのことは、最早ニヘイではなくニへーラと呼ぼう)


「ホ~ント、哀しい気分になっちゃうのよね~。ニヘイちゃんの歌は、気持ちが入りすぎてるからなのかしら、歌の原型がわからないくらいオリジナリティあるし~」


 なおも続くママの攻撃を自分への賞賛だと捉えてしまう常連2号ニヘーラは完全に調子に乗っているようだ。


「まあね! 特にこの歌って、俺のためにあるようなバラードだからなー。ママがオリジナリティを感じちゃうのは仕方ないでしょうねえ」


(JOOWYファンが聞いたら、殴り殺されるっつうの! いったい、こいつの自信はどのへんから出ちゃってるんだろうな? ニヘーラのくせに!)


 常連2号ニヘーラのどーだー的なセリフに、カウンターの中の二人の顔は、素のような、無表情に近い表情になっている。おそらく一切の感情を表に出さないために生み出された彼女たちの防御なのだろう。


 常松がママの表情を観察していると、視線に気がついたママが目線をあわせてニッコリ微笑んだ。


「あら~、今の歌を聴いて、ツネマーも私に求愛の歌でも聴かせたくなっちゃったの~?」

「えっ!? いや、ちょっと、突然、何を言っちゃってるのかな? まったくそんなこと思ってないって!」


「遠慮しなくて、いいのよ~、私にいろ~んな♡欲求をぶつける感じで歌ってちょーだい!」

「いや、いや、ホント別に欲求とか、変なものもぶつけたいと思ってないですから」


「ええ~、またまた~♡・・・あっ! またと言っても、“股”のほうじゃないのよ~」


「“股”とかも思ってないって!!」


「わかってるのよ~。ニヘイちゃんのバラードに対抗したくなっちゃったんでしょう! でも、お股の方は対抗心燃やさなくてもいいんだけどぉ♡ ネ♡!!」


「『ネ♡』じゃないでしょ!! いやいや、だから、股も何も対抗心はないって!!」


「うっそ~~♡ 『俺の歌の方が100倍はうまいんだぜ』ってセリフが股に・・・じゃなくて、顔に書いてあるわよ~」


(おおーーい! このドS女は、何を言っちゃってくれてるのかな! マジで!! 一番、言ったらまずいセリフを堂々と言っちゃったよ!! ......股には書いてないけどね)


 あまりに非情なママの罠にはまって、あいちゃった口がふさがらない。


「おいおい、そんなに歌がうまいのかー。そーんなに歌がお上手だったら、早くママに捧げる歌でも歌ったらいいんじゃないの! 100倍もうまいっていうんだからさー!」


 ママのセリフを聞いた常連2号が、ニヘーラのくせに偉そうにムッとしている。

 冷静を装っているかのような中途半端な台詞が逆に敵意丸出しだ。


(ニヘーラの野郎〜! 長ーーいこと、う○こしていたお前に怒られる筋合いはないっつうの!)


 そうは思いつつも常松は誤解を解くべく口を開いたが、それよりも一瞬早く、香奈ちゃんがしゃべりだしてしまう。


「私もツネマーの歌が聴きたーい! なまじっかイイ男って、歌がうまかったりするんですよねーー」


(えぇぇ~っていうか、香奈ちゃんはドサクサまぎれに何てことを言っちゃうわけー? しかも、“なまじっかイイ男”って.........)


「ほぉ~ら〜、香奈ちゃんも聴きたがっているみたいよ。早く愛を感じられる歌を聴かせて~♡」


 そう言ってママは、カラオケのリモコンを常松に手渡した。


 常松は、言い訳をするタイミングを見失ってしまう。


「しっかし、この俺より100倍もバラードがうまいっていうんだから楽しみだよなー。どれだけ、うまいのかねー! 早く聴きたいよなーー!」


 常連2号ニヘーラが、かなりのイライラを発散しながら嫌味全開で挑んでくる。しかも何故か、ナナメ45度の姿勢は変わらないのが不思議だ。


 その嫌味なセリフに反応した常松は、溜まりに溜まったイライラが漏れ出して、思わず口撃開始。


「いやいや、心配しなくてもお前なんかよりは確実にうまいから!!」

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