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スナッキーな夜にしてくれ  作者: 火夢露 by.UMEBOSHI-P
第1夜 初体験
2/17

第2話 怪!スナック不二子【改訂版】

この世の中に存在する

“チョイ悪オヤジ”と“平平凡凡なオッサン”、

これからオヤジーな世代に突入するであろう次世代中年層、

それらすべての残念な男たちに贈る夜の物語。

『ミドルエイジー&ミッドナイト・ファンタジックストーリー』


挿絵(By みてみん)

 仕事帰りの常松は、残業で疲れているくせに、何故か足取りは軽かった。

 最寄駅を出ると、いつものBar「フェローズ」へ向かう坂道を上る。


 だが――。


 ― 本日臨時休業 ―


「……マジかよ」


 上り坂を15分歩いてこの仕打ち。ついてない夜は、とことんついてない。


 店の扉に背を向けて思わず空を仰いだ。


 トボトボと坂を下りながら、ふと目に飛び込んできたのは、場末感のあるネオン。


  ― スナック不二子 ―


 紫がかったネオンの光が、夜気ににじんで見える。それは、まるで常松を誘っているかのようだ。


 妖しく揺らめくネオンを見ていたら、勝手に足が止まっていた。


 「……スナック、ねえ」


 常松は、独りでスナックに入ったことなど一度もなかった。先輩に連れて行かれて何度か飲んだくらいである。


 なんとなく“オヤジの社交場”というイメージしかない。


 それでも――なぜか今夜は、ちっぽけな心がざわついた。


 いつものBarに入れなかった淋しさもあるが、それとは違う何かが湧き上がる。


 たまには違う世界を覗いてみるのも悪くないと思ったが、それよりも気になることがあった。


(ママの名前が“不二子”なのか? それとも世界的大泥棒の仲間で有名なセクシーキャラに肖ったのか? 店の名前とママの名前が違うというパターンもあるというし・・・う〜ん、何故か妙に気になるなぁ)


 もし、ママの名前が有名キャラに肖っていたとしたら、やっぱり名前を呼ぶ時は、

ちょっと伸ばしながら“ちゃん付け”した方が良いのかな、と思考回路はどうでも良いシミュレーションをしてしまう。


 正直、そんなどうでもいい謎を抱えつつ、気がつけば看板の前に立っていた。


 エイヤッ、と勢いで重い扉を押し開ける。


 ――ガチャリ。

その瞬間、妙に艶っぽい声が響いた。


「いらっしゃ~~~い♡」


ーー“ミッドナイト・アドベンチャー”のはじまりを告げる声だった。



 店内は暗めの照明に軽快なジャズが流れ、カウンター席がメインの造り。

奥にボックス席が2つ。

どこにでもありそうだが、どこか懐かしい空気が漂っている。


 カウンターの中には、派手めでぽっちゃり、そして巨乳――どう見てもママだろう。

 その隣に、20代前半くらいのOL風美女。恐らくアルバイトだろう。


「お客さん、おひとり?」

ママが笑顔で声をかける。


(見ればわかるだろ……某CKBの歌にもそんなフレーズあったよな)


「はい、おひとりでした!」

言いながら、自分で噛んでしまう。


(過去形だし、“お”をつけちゃってるし、やっちまった。最悪だ)


「ウフフ♡ おもしろい方ねぇ。そんな返しをする人、久しぶりよ!」

ママは楽しそうに笑う。


 常松は平静を装いながら、カウンター中央に腰を下ろした。


 ふとカウンター右奥に目を遣ると――

淋しげにグラスを傾ける女が独り。

落ち着いた雰囲気、たぶん三十前だろうか。

キャリアウーマン風で、どこか影がある。クールビューティという言葉が頭を過ぎる。


(ああいうタイプは、自分が“イイ女”だってわかってるんだよな。下手に話しかけたら速攻でアウトー! ってやつだな)


 独りシンキングタイムに没入していた、その時。


「美人に見惚れているところ悪いんだけどぉ♡」

ママの声が耳に突き刺さる。


 鋭いツッコミ・・・というか、容赦ない。そして、目の前に豊満な胸が飛び込んでくる。

「えっ!? いや、見惚れてたわけじゃ……」


「仕方ないのよね~。イイ女にはみんな釘付けになるの。もちろん、ワ・タ・シにね♡」


(お前かよっ!!)

心の中で全力ツッコミ。


 ひきつった笑顔になる・・・が、目の前の巨乳に目がいってしまう。

 なんとも複雑な想いが脳内を巡り巡って、思考回路が停止寸前になった。


「もうママったら~。お客さんドン引きしてるじゃあないですかぁ」

ママの隣に張り付くアルバイトらしき女性が明るく笑っている。


(この子、ナイスなツッコミするなぁ)


「あら香奈ちゃん、人聞き悪いこと言わないで。うちの店ではねぇ、みーんな私の大きなオッパイに釘付けになるのよぉ♡」

ママはそう言って、自慢の胸を両手で持ち上げた。


(……おいおい、現実でやる人いるんだ)

あいた口がふさがらない常松。


 それでも、なぜか心のどこかが少しだけ、温かくなっていた。


(……ま、悪くないかもな)




 哀れなワーカービー常松は、こうして甘い蜜の香りに吸い寄せられて、スナックへ

フルダイブした。


 それは、常松にとっての『嬉し恥ずかしいスナック初体験』。


 ――しかし、この瞬間から彼の夜が少しだけ狂い始める。


(つづく)


 ~次回予告~


 ママの名前は本当に“不二子”なのだろうか?


 さらにカウンターの奥に座る“謎の美女”は常松と絡むことになるのだろうか?

 そして常松は、スナックデビュー初夜を無事に乗り切れるのか――!?


 次回、『馬場のトランクスの色』

 .........飲んで、笑って、たぶんやらかす!

毎回無理して読んでいただいている方々には感謝感謝でございます。

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