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スナッキーな夜にしてくれ  作者: 火夢露 by.UMEBOSHI-P
第3夜 DRAMATICでDRASTIC!
11/17

第2話 黒光り!水原部長

 【スナック ミホーク】


 その店からは、楽しげな歌声と女の子の笑い声が聞こえてくる。


(なんだよ、カラオケがメインの店なのかよ)


 一瞬、スナック不二子での失態が頭をよぎる。

 いやな想い出だった。


「常松さん!入りますよ」


 辻野が店の扉を開ける。


 店内に入ると比較的に広めのホールが目に飛び込んでくる。

 店の名前が某人気漫画のキャラクターと同じではあるものの、どうやら“鷹の目”とはまったく関係がなさそうだ。


 3つある大きなボックス席のひとつには団体客が陣取っている。一見するに真面目そうなサラリーマン軍団のように見える。


 10人ほど座れそうな一直線に長いカウンターも満席に近い状態で、カウンターの一番手前に席がひとつだけ空いている。


「あら~、辻野さーん! いらっしゃ~い!」


 ベテランっぽい、しっかりした感じの女の子が迎えてくれた。


 ちょっと夜のプロって感じのする美人タイプの彼女は、一番手前に座る二人組のサラリーマンに声をかける。


「ねえ、松田さ~ん、もう少しつめてもらっていいかしら」


 すると松田と呼ばれる男は、快く笑顔で対応してくれた。

「了解! 部長、もうひとつ向こうへつめましょう」


「水原ぶちょ~ぅ♡ ごめんなさいね~」


 ゴルフが大好きそうな真っ黒い顔をしている水原も笑顔で席をつめてくれた。


「どうも、すみません。ありがとうございます」常松は優しいサラリーマン二人組に頭をさげた。


「俺たちは、もうそろそろひけるから気にしないでくれよ」そう常松達に声をかけてくれた。


(最近のリーマンにしては、凄くイイ感じの人たちだなー)


 そう思いながらカウンターに座ると目の前にジャックダニエルがおかれた。

 

 先程、出迎えてくれた女の子がお酒の準備をしながら声をかけてくる。

 辻野は後輩のくせに洒落たボトルを入れている。


「辻野さんが、人を連れてくるなんて珍しいわね~」


「ああ、こちらは俺の先輩の常松さん! 俺が連れてくるんだから、まあ、それなりの人だと思ってよ!」


(なーにが、偉そうに! “それなり”ってなんなんだっつーの!)


「はじめまして、ここのチーママの里奈でーす♡」


 里奈は、そう言うと名刺を差し出した。


 “スナックミホーク 美月里奈”


 名刺にはそう書いてある。たぶん源氏名というやつだろう。

 キャバクラのお姉ちゃんの名刺とは違って修正バリバリの顔写真が印刷された名刺ではない。


「あっ、どうも、常松と言います」

「あら、珍しいお名前よね~。ねえねえ、常松さんってぇー♡ 彼女いるんですか~?」

「えっ!!?」


(おーっと! これってどういう意味だろう? もしかして……♡)


 何故か、うれしそうに照れてしまう常松を横目で見ていた辻野が割って入る。


「ちょっと、ちょっとー! 里奈ちゃん、こんなオッサンに興味あるわけ~?」

「おいおい! “オッサン”はないだろうが!」

「あっ、つい、ペロッとでちゃいました。すいません!」

「ペロッと、じゃねえよ!この野郎は!」

「そんなことより里奈ちゃん、俺より、常松さんに興味あるわけ!」


(そんなことより? そんなことになっちゃってるよ!)


「辻野さん、なんだか、こわ~い! いつものニヤケ顔じゃないし~」


 まったく怖がってるようには見えない里奈が辻野の話の腰をへし折る。

 常松も里奈のセリフにかぶせて反撃。


「ホント、辻野さんって“まこと”って名前が似合いすぎてて、こわ~い!」

「おっさんは、黙っててくださいよ!!」


 反撃は一蹴されてしまった。


 常松にとって、“オッサン”呼ばわりされることは一番キツイ仕打ちであった。


 しかも、会社の後輩に言われるということは想定外であったし、女の子の前で言われるのが更に腹立たしい。


(くそーー! こいつ調子こいてるなー! でも、ここは怒らず我慢だな。余裕の笑顔で対応しておこう)


「まこっちゃーん、オヤジ呼ばわりはそのくらいにしとけよー!」


 顔面が半分ひきつりながらも辻野に注意を促す。


「まこっちゃん??? いつも俺のこと“辻野”って呼ぶはずなのに…っすか?.」


 辻野は、その奇妙なセリフに不自然さを感じるが、どうでもいいといった様子。


「はいはい、まこっちゃん、このくらいにして乾杯しようぜー!」


「まこっちゃん? …もしかしたら、あの有名バンドの伝説のドラマーの名前なのではないでしょうか? まあ、いいか。そうですね。楽しく飲みましょう!」


 辻野が平静を装うのと同時に、里奈はタイミングよく水割りを差し出した。


「ハーイ、おまたせしました~」

「じゃあ、まこっちゃんの明日のプレゼン大成功を祈って!」


「カンパーーーイ!!!」


 辻野は一口飲んでグラスを置くと、よせばいいのに里奈に声をかける。


「ねえ、里奈ちゃんって年上好みなの?」

「うん! そうよ~。ダンディなオジサマが超好みなのよ~」


 里奈はそう言うと、隣に座るサラリーマン二人組に向かってウインクをした。


「里奈ちゃん、やっぱり俺にホレたのかー!」ゴルフ焼けの黒光りオヤジが嬉しそうだ。


「うん♡ 水原ぶちょ~、大好き~♡」


 真横でポカーーンと口をあけて固まる辻野。


 そんな辻野に、どうでもいい悲哀を感じてしまう常松は、やはり優しさの塊のような男.........なわけがなかった。


「ちょっと、ちょっと、部長! ダメですよ!」隣に座る部下の松田がなだめる。


「ん? ヒデ、何がダメなんだ」


「あっちこっちに手をだしちゃいかんですよ!」


「ガッハッハ! なーにを言ってるんだ、ヒデ。俺は、手なんか出してないだろうがー!」


「でも、なんだか、里奈ちゃんとイイ感じじゃないですか!

「おいおい、里奈ちゃんに手なんか出してないぞー! 手は出してないけど・・・下半身の方は出しちゃってたりしてなーー!! ガッハッハ!」


「「えええええーーーーーーーーーっ!」」


 松田、常松、辻野の三人が同時に叫んだ。


「も~ぅ♡ やだ~♡ 水原ぶちょ~ぅったら~♡」


(おいおい! このオッサン、股間のあいつを出しちゃったってのかーーい!)


 水原のオヤジーなシモネタに衝撃と笑撃を受けて、あいつのあいつも黒光りなのかと想像する3人。


 と、その時、そんな3人の間抜け面を何者かの鋭い視線がどこからか突き刺してくるのを感じた。


 そして、まるで2億4千万のあれっぽいレーザービームのような視線をまともにくらった常松に戦慄が走る。


(―――この威圧感。 鷹の目か??)


「うわっ! なんか一瞬、寒気がしたぞ」隣で身震いする辻野が呟いた。


 果たして、謎の視線のそいつは、本当に“鷹の目”なんだろうか?


 んな、訳はないけど。

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