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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第二十四章 知識信仰編

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第六話 人々の知識が

 翌朝。

 監査局長室。


 アメリアは一枚の書類を書いていた。


 内容は簡潔だった。


 教皇への面会申請。


 二度目のものだ。


 署名を終え、封筒へ入れる。


 それを見たアルフレッドが尋ねた。


「答えは出たのか?」


 アメリアは少し考えた。


「いいえ」


「出ていないのか」


「はい」


 アルフレッドが眉をひそめる。


 ならばなぜ会いに行くのか。

 その疑問が顔に出ていた。


 アメリアは続ける。


「ですが、自分なりの考えはまとまりました」


「それが正しいかは?」


「わかりません」


 即答だった。


「証拠がありませんので」


「だろうな」


 予想通りの返答だった。


 アメリアも否定しない。


 宗教。

 信仰。

 人の心。


 どれも帳簿のようには扱えない。

 数字で証明することもできない。


 だからこそ。


「それでも話をする必要があります」


 静かな声だった。


「私の考えを」


「教皇様へお伝えしなければなりません」



 返事は翌日に届いた。


 面会承諾。

 日時指定。


 あまりにも早い返答だった。


「本当に気に入られているな」


 アルフレッドが呆れる。


「そうなのでしょうか?」


「そうだと思うぞ」


 アメリアは首を傾げる。


 よく分からなかった。



 教会本部。

 二度目の訪問だった。


 前回と同じ部屋へ通される。


 ほどなくして教皇が姿を見せた。


「ようこそ」


「お久しぶりです」


「二週間ぶりですね」


 穏やかな笑み。


 アメリアとアルフレッドは席に着く。


「さて」


 教皇が言った。


「お考えはまとまりましたか?」


「はい」


 アメリアは頷く。


「自分なりの考えはあります」


「ですが」


 一度言葉を切る。


「それが正しいかどうかはわかりません」


「証拠がありませんので」


 教皇が小さく笑う。


「なるほど」


「変わりませんね」



 アメリアは話し始める。


「私達大人は」

「子供達がこれから生きていく上で」


「何を選び」

「何を捨てるか」


「その選択を行うための知識が必要だと考えています」


 教皇は黙って聞いていた。


 急かすこともない。


 否定もしない。


 ただ聞く。


「私は様々な人を見てきました」


 アメリアは続けた。


「孤児達のために働くシスター」

「人々を笑顔にする料理屋の夫婦」

「困っている人へ物を届ける商人」

「領民達を支える領主」


 思い出す。


 この二週間で見てきた人々を。


「皆」

「未来を良くするために今を生きています」


「誰かに命じられたからではなく」


「自分の意思で」


 教皇は静かに目を閉じる。


 アメリアは続けた。


「私は」

「子供達が将来」


「同じように誰かのために生きようと思った時」


「より良い選択肢を持っていてほしいのです」


「そのために知識は必要だと考えています」


 長い沈黙。


 やがて教皇が目を開く。


「先日の私の問いについてはいかがでしょうか?」


 部屋の空気が少しだけ変わる。


 あの日。

 教皇が投げかけた問い。


 知識が信仰を弱めるのではないかという問い。


 アメリアは少しだけ考えた。


 そして。

 不敵に笑う。


 珍しい表情だった。


 アルフレッドが思わず目を丸くする。


「それは」


 静かな声。


「その時の人間達が考えることだと思います」


 教皇が目を瞬く。


 予想外だったのだろう。


 アルフレッドは頭を抱えた。


「投げたな……」


「違います」


 アメリアは即座に否定する。


「未来ではまた別の問題が発生します」


「それは誰にも止めることはできません」


「教皇様のおっしゃる通り」


「知識によって神への信仰が薄れることもあるかもしれません」


 教皇の目が鋭くなる。


 アルフレッドが嫌な予感を覚える。


「アメリア、それは……」


「ですが」


 アメリアは続けた。


「知識がなくても」


「悪意ある者が教会を揺るがそうとすることもあるでしょう」


 沈黙。


「知識がなくても争いは起きます」

「知識がなくても人は他者を傷付けます」

「知識がなくても信仰が歪められることもあるでしょう」


 教皇は黙って聞いていた。


 アメリアは微笑む。


 本当に僅かに。


「その時に」

「人々の知識が」


「神への信仰心を救うかもしれませんよ?」


 沈黙。


 長い沈黙だった。


 誰も口を開かない。


 やがて。


「ははははは!」


 教皇が大きく笑った。


 部屋中に響くほどに。


 アルフレッドは呆気に取られる。


 アメリアだけが首を傾げていた。


「これは一本取られました」


 教皇は楽しそうに言う。


「知識が信仰を救うですか」


「その発想はありませんでした」


 そして。


 しばらく笑った後。


 教皇はゆっくり頷いた。


「監査局長殿」


「はい」


「私もお付き合いいたしましょう」


 アメリアが目を瞬く。


 教皇は微笑んだ。


「未来を見届けることにいたします」


 こうして。


 教育制度創設へ向けた最初の一歩が踏み出されたのだった。

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