幕間 平和ですね、アメリア
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王城の一室。
午後の日差しが窓から差し込んでいた。
静かな部屋。
温かな紅茶。
そして二冊の本。
ミリアは椅子へ深く腰掛けながら頁をめくった。
向かいにはアメリア。
同じく本を読んでいる。
時折。
紅茶を飲む。
頁をめくる。
そして。
思い出したように本の感想を言い合う。
それが二人の読書会だった。
「この主人公は好感が持てますね」
ミリアが言う。
「そうですか?」
「はい」
頷く。
「困っている人を放っておけないところが」
「なるほど」
アメリアも頁を閉じる。
「ですが」
「はい」
「経営能力に問題がありますね」
ミリアは空を見上げた。
「またですか」
「商会経営と冒険者活動を同時並行しておりますので」
「はい」
「人員不足です」
「そこなんですね」
アメリアは真面目だった。
本当に真面目だった。
ミリアは苦笑する。
そして紅茶を口にした。
しばらく。
本の話が続く。
好きな人物。
展開予想。
続刊への期待。
穏やかな時間だった。
やがて。
話題は自然と北西領事件へ移った。
「無事でよかったです」
ミリアが言う。
アメリアは少しだけ考える。
「そうですね」
静かな声だった。
「助けていただきましたので」
ミリアの目が輝いた。
面白そうな話が始まりそうだった。
「アルフレッド様にですか?」
「はい」
「どのようにです?」
前のめりになる。
アメリアは少しだけ考えた。
「水路の後ですね」
「後?」
「はい」
ミリアは首を傾げる。
水路の話は聞いている。
地下水路で立ち止まりそうになったことも。
恐怖と向き合ったことも。
しかし。
その後とは何だろう。
「事件解決後です」
アメリアが続ける。
「私は」
一拍。
「もっと早く発見できた可能性を考えておりました」
ミリアは頷いた。
容易に想像できた。
きっと。
何人助けたかではなく。
助けられなかったかもしれない人を考えていたのだろう。
「その時」
アメリアは静かに言う。
「アルフレッド様が」
一拍。
「仲間だろ」
と。
ミリアが固まった。
「……」
「……」
「それだけですか?」
「はい」
「本当に?」
「本当です」
ミリアは紅茶を置いた。
そして。
頭を抱えた。
(違うでしょう!?)
おそらく。
他にも話していることだろう。
監査以外のことでは。
一言も二言も足りないアメリアだ。
それはいい。
わかっている。
けれど。
(違うでしょう!?)
そこではないらしい。
(そこは!)
『俺がいるだろ』
(でしょう!?)
『お前は一人じゃない』
(でしょう!?)
『これからも側にいる』
(でしょう!?)
(なんですか)
『仲間だろ』
(って)
(第二王子)
(へたれですか?)
(へたれですね)
(間違いなくへたれです)
ミリアは心の中で全力でアルフレッドを罵倒した。
だが。
その時だった。
「ですが」
アメリアが言う。
ミリアは視線を上げた。
そして。
ほんの一瞬だけ。
本当にほんの一瞬だけ。
アメリアが柔らかく笑った。
優しい表情だった。
「救われました」
静かな声だった。
ミリアは何も言えなくなった。
(ああ、そうですか)
(そういうことですか)
言葉の問題ではない。
あの時。
アメリアに必要だったのは。
側にい続けてくれる人だった。
だから。
それで十分だった。
ミリアは小さく息を吐く。
(まあ、仕方ありませんね)
(へたれですが)
(へたれ以外認めませんが)
(今回は許しましょう)
ミリアは紅茶を一口飲んだ。
「次は何を読む予定ですか?」
話題を戻す。
アメリアも頷いた。
「歴史書ですね」
「小説ではなく?」
「歴史書も面白いですよ」
「アメリアらしいです」
二人は笑う。
窓の外では風が揺れていた。
紅茶は温かい。
本は面白い。
事件は終わった。
穏やかな時間だった。
ミリアは静かに呟く。
「平和ですね、アメリア」
アメリアは穏やかに頷いた。
「そうですね」
二人は再び本を開く。
午後の読書会は。
静かに続いていった。
お読み頂き、ありがとうございます。




