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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第二十三章 国家犯罪編

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第七話 仕事が増えそうですので

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 重い鉄扉が閉じられる。


 地下応接室。

 豪華な絨毯。

 暖炉。

 高価な調度品。


 そして中央。


 元宰相が静かに微笑んでいた。


「ようこそ」


 老人は椅子へ腰掛けたまま言う。


「アメリア・フォン・アルフォード」


「ご機嫌よう」


 アメリアは答えた。


 拘束されたまま。


 だが表情は変わらない。


 アルフレッドは隣で不機嫌そうだった。



「君は優秀だ」


 元宰相が言う。


「だからこそ話がしたかった」


「そうですか」


「私も昔は君と同じだった」


 老人は笑う。


「不正を嫌い」


「無駄を嫌い」


「数字を重視した」


 アメリアは何も言わない。


 ただ聞いている。


「だがな」


 老人の顔から笑みが消えた。


「理想だけでは国は動かない」


 一拍。


「今の王国には国力が足りん」


 領主が口を開いた。


「労働力不足だ」

「開拓も進まん」

「鉱山も掘れん」

「道路も整備できん」

「辺境の開発も進まん」


 机を叩く。


「人が足りないのだ」


「……」


「人が足りないから国が衰える」


「人が足りないから豊かになれない」


 領主は地下施設の方向を指差した。


「だが奴隷は違う」


「労働力になる」

「開発もできる」

「税収も増える」

「国も豊かになる」


 一拍。


「我々は王国のためにやっている」


「ふざけるな」


 アルフレッドが吐き捨てた。


「どの口で」


 さらに続けようとする。


 だが。


「お待ちください」


 アメリアだった。


 アルフレッドが振り返る。


「アメリア?」


 元宰相も領主も視線を向けた。


 そして。


 アメリアは静かに頷いた。


「一理ありますわね」


 沈黙。


 室内が止まった。


 元宰相が笑った。


「そうだろう」


「やはり君なら理解できる」


 領主も満足そうだった。


「数字が分かる人間なら当然だ」


「労働力不足は事実です」


 アメリアは頷く。


「開発を進める手段にもなります」


「そうだ」


「短期的な税収増加も可能でしょう」


「その通りだ」


 元宰相が身を乗り出す。


「だからこそ」


 一拍。


「我々と共に来い」


「国をより良くしよう」


「君ほどの人材なら歓迎しよう」


「監査局程度ではなく」


「君なら国を動かせる」


「今の王国を作り変えられる」


 アメリアは首を傾げた。


「ですが」


 元宰相の笑顔が止まる。


「理論上の話ですよね」


「何?」


「短期的には有効かと」


 そして。


 監査が始まった。


「まず供給不足です」


 静かな声だった。


「奴隷制度は継続的な供給を必要とします」


「……」


「ですので人身売買が発生します」


「……」


「次に人口減少」


「……」


「市場縮小」


「……」


「出生率低下」


「……」


「技術停滞」


「……」


「労働効率低下」


「……」


「反乱対策費増加」


「……」


「監視費用増加」


「……」


「軍事負担増加」


「……」


「汚職増加」


「……」


「国際信用低下」


「……」


「税収停滞」


「……」


「経済成長停止」


 延々と続く。


 一時間。


 二時間。


 完全にアメリアによる講習会。


 こんな状況なのに。

 アルフレッドは既視感を覚えて頭を抱えた。


 最初こそ領主は余裕の表情を浮かべていた。

 だが三十分後。

 一時間後。

 その顔は完全に引き攣っている。


 一方で。

 元宰相だけは違った。

 老人は途中から一言も発していない。

 ただ黙って聞いている。


 人口減少。

 市場縮小。

 技術停滞。

 経済成長停止。


 アメリアが挙げる論点を一つも聞き逃すまいとするように。


 それは敗者の顔ではない。


 学ぶ者の顔だった。


「まだあるのか」


 領主が顔を引き攣らせた。


「あります」


 即答。


「更に申し上げますと」


 アメリアは地下施設を指差した。


「北西領が実例です」


 領主の表情が変わる。


「人口減少」


「失踪者増加」


「商業停滞」


「出生率低下」


「治安悪化」


「産業構造の固定化」


 一拍。


「そして組織維持のために更なる誘拐が必要になる」


 静寂。


「つまり」


 アメリアは結論を告げた。


「維持できません」


「馬鹿な」


 領主が震える。


「成果は出ている!」


「出ておりますね」


「なら」


「短期的には」


 アメリアは頷く。


 そして。


「長期的には失敗です」


元宰相はしばらく黙っていた。


北西領。


人口減少。


商業停滞。


出生率低下。


確かに。


全て北西領で起こっている現実だった。


「……なるほど」


 老人が呟く。


「だから君は私達の失敗へ辿り着いたのか」


「そうなりますね」


「短期的には成功、長期的には失敗……か」


「そこまで見ていたとはな」


「惜しいな」


 元宰相は苦笑した。


「本当に惜しい」


「そうでしょうか」


「君ほどの人間がこちら側なら」


「あまり興味がありませんので」


 即答だった。


「なぜだ」


「仕事が増えそうですので」


 元宰相。


 領主。


 アルフレッド。


 全員が黙った。


 あまりにも。


 アメリアらしい理由だった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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