第三話 始まりです
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
監査局。
特別会議室。
長机の上には報告書が整然と並べられていた。
アメリアは席に着く。
副局長。
監査官達。
アルフレッド。
全員が揃っていた。
「始めましょう」
静かな声だった。
◇
最初に立ち上がったのは現地調査を担当した監査官だった。
「戦災孤児支援事業について報告します」
「登録人数二百三十四名」
「現地確認人数百九十七名」
「差異三十七名です」
会議室が静まり返る。
「移送記録は存在します」
「物資調整も行われています」
「支援金も帳簿と一致します」
「職員配置にも問題はありません」
一枚ずつ資料をめくる。
「また、施設への聞き取りも実施しました」
「子供達、職員共に、移送された三十七名の存在を確認しています」
副局長が腕を組む。
「つまり」
「三十七名は実在していた」
「はい」
監査官が頷く。
「帳簿上だけの存在ではありません」
◇
報告が終わる。
アメリアは資料へ視線を落としていた。
しばらく沈黙。
そして。
「ありがとうございます」
報告書を閉じる。
「現地調査については理解しました」
誰も口を挟まない。
アメリアが考えている。
そう思ったからだ。
だが。
違った。
「では次にこちらの報告を行います」
◇
別の資料が配られる。
副局長が眉をひそめた。
「これは?」
「過去事例の調査結果です」
アメリアだった。
「今回の案件を確認した後」
「過去の孤児保護記録」
「養子縁組記録」
「教会運営施設台帳」
「保護施設移送記録」
「支援事業履歴」
淡々と並べる。
「全て確認しました」
会議室が静まる。
副局長が資料を見る。
そして顔色を変えた。
◇
「過去五年間」
アメリアが言う。
「同様事例七件」
「被害人数十五名」
ページをめくる。
「さらに遡ると十五件」
「被害人数四十二名」
さらに。
「二十年間では三十八件」
「被害人数百二十七名」
副局長が息を呑む。
「そんなに……」
「はい」
アメリアは頷いた。
「今回が初めてではありません」
◇
アルフレッドが資料を読む。
しばらくして口を開いた。
「妙だな」
「何がですか?」
副局長が尋ねる。
アルフレッドは数字を指差した。
「件数はそこまで増えていない」
「だが」
「人数が違う」
アメリアが頷く。
「その通りです」
一枚の資料を机へ置く。
「従来の事例は一件あたり一名から三名程度」
「多くても五名です」
沈黙。
「ですが今回は三十七名」
空気が重くなる。
「異常値ですね」
◇
さらにページをめくる。
アメリアの指がある箇所で止まった。
「また」
静かな声。
「興味深い傾向もあります」
全員が資料を見る。
「三年前を境に被害人数が急減しています」
副局長が眉をひそめる。
「三年前……」
アルフレッドが口を開いた。
「元宰相派が失脚した時期か」
アメリアは即答しなかった。
資料を見る。
数字を見る。
そして。
「時期は一致しています」
それだけだった。
◇
「つまり元宰相派が関与していると?」
若い監査官が尋ねる。
アメリアは首を振る。
「現時点では分かりません」
即答だった。
「確認できているのは事実のみです」
一拍。
「件数は継続しています」
「ですが人数は減少しています」
「そして」
資料を閉じる。
「今年だけ急増しています」
◇
会議室が静まり返る。
アメリアはその全員を見渡した。
「結論です」
副局長が背筋を伸ばす。
アルフレッドも視線を向ける。
「戦争が原因ではありません」
静かな声だった。
「戦争によって発見された可能性があります」
そして。
「ですので」
監査局長として指示を出す。
「調査を継続します」
「共通する移送先」
「共通する関係者」
「共通する承認者」
「全て洗い出してください」
監査官達が頷く。
◇
会議終了後。
アルフレッドが尋ねた。
「何を見ている」
アメリアは資料を閉じる。
そして静かに答えた。
「三十七人ではありません」
「じゃあ何だ」
一拍。
アメリアの視線が数字の並ぶ頁へ落ちる。
「始まりです」
アルフレッドが眉をひそめる。
アメリアは続けた。
「この最初の一人を見つけます」
「そうすれば」
静かな声。
「何が起きているのか見えるかもしれません」
その目は。
もう三十七人を見ていなかった。
もっと昔。
この事件が始まった場所を見ていた。
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