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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第二十二章 孤児消失編

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第三話 始まりです

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 監査局。

 特別会議室。


 長机の上には報告書が整然と並べられていた。


 アメリアは席に着く。


 副局長。


 監査官達。


 アルフレッド。


 全員が揃っていた。


「始めましょう」


 静かな声だった。



 最初に立ち上がったのは現地調査を担当した監査官だった。


「戦災孤児支援事業について報告します」


「登録人数二百三十四名」


「現地確認人数百九十七名」


「差異三十七名です」


 会議室が静まり返る。


「移送記録は存在します」


「物資調整も行われています」


「支援金も帳簿と一致します」


「職員配置にも問題はありません」


 一枚ずつ資料をめくる。


「また、施設への聞き取りも実施しました」


「子供達、職員共に、移送された三十七名の存在を確認しています」


 副局長が腕を組む。


「つまり」


「三十七名は実在していた」


「はい」


 監査官が頷く。


「帳簿上だけの存在ではありません」



 報告が終わる。


 アメリアは資料へ視線を落としていた。


 しばらく沈黙。


 そして。


「ありがとうございます」


 報告書を閉じる。


「現地調査については理解しました」


 誰も口を挟まない。


 アメリアが考えている。


 そう思ったからだ。


 だが。

 違った。


「では次にこちらの報告を行います」



 別の資料が配られる。


 副局長が眉をひそめた。


「これは?」


「過去事例の調査結果です」


 アメリアだった。


「今回の案件を確認した後」


「過去の孤児保護記録」


「養子縁組記録」


「教会運営施設台帳」


「保護施設移送記録」


「支援事業履歴」


 淡々と並べる。


「全て確認しました」


 会議室が静まる。


 副局長が資料を見る。


 そして顔色を変えた。



「過去五年間」


 アメリアが言う。


「同様事例七件」


「被害人数十五名」


 ページをめくる。


「さらに遡ると十五件」


「被害人数四十二名」


 さらに。


「二十年間では三十八件」


「被害人数百二十七名」


 副局長が息を呑む。


「そんなに……」


「はい」


 アメリアは頷いた。


「今回が初めてではありません」



 アルフレッドが資料を読む。


 しばらくして口を開いた。


「妙だな」


「何がですか?」


 副局長が尋ねる。


 アルフレッドは数字を指差した。


「件数はそこまで増えていない」


「だが」


「人数が違う」


 アメリアが頷く。


「その通りです」


 一枚の資料を机へ置く。


「従来の事例は一件あたり一名から三名程度」


「多くても五名です」


 沈黙。


「ですが今回は三十七名」


 空気が重くなる。


「異常値ですね」



 さらにページをめくる。


 アメリアの指がある箇所で止まった。


「また」


 静かな声。


「興味深い傾向もあります」


 全員が資料を見る。


「三年前を境に被害人数が急減しています」


 副局長が眉をひそめる。


「三年前……」


 アルフレッドが口を開いた。


「元宰相派が失脚した時期か」


 アメリアは即答しなかった。


 資料を見る。


 数字を見る。


 そして。


「時期は一致しています」


 それだけだった。



「つまり元宰相派が関与していると?」


 若い監査官が尋ねる。


 アメリアは首を振る。


「現時点では分かりません」


 即答だった。


「確認できているのは事実のみです」


 一拍。


「件数は継続しています」


「ですが人数は減少しています」


「そして」


 資料を閉じる。


「今年だけ急増しています」



 会議室が静まり返る。


 アメリアはその全員を見渡した。


「結論です」


 副局長が背筋を伸ばす。


 アルフレッドも視線を向ける。


「戦争が原因ではありません」


 静かな声だった。


「戦争によって発見された可能性があります」


 そして。


「ですので」


 監査局長として指示を出す。


「調査を継続します」


「共通する移送先」


「共通する関係者」


「共通する承認者」


「全て洗い出してください」


 監査官達が頷く。



 会議終了後。


 アルフレッドが尋ねた。


「何を見ている」


 アメリアは資料を閉じる。


 そして静かに答えた。


「三十七人ではありません」


「じゃあ何だ」


 一拍。


 アメリアの視線が数字の並ぶ頁へ落ちる。


「始まりです」


 アルフレッドが眉をひそめる。


 アメリアは続けた。


「この最初の一人を見つけます」


「そうすれば」


 静かな声。


「何が起きているのか見えるかもしれません」


 その目は。

 もう三十七人を見ていなかった。


 もっと昔。

 この事件が始まった場所を見ていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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