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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第二十一章 帰還編

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第二話 ご心配をおかけしました

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王都へ到着したのは昼過ぎだった。


 巨大な城壁。

 人の波。

 荷馬車の列。

 往来する商人達。


 すべて見覚えがあった。


 けれど。

 どこか遠い。


 知っているはずなのに。

 長い夢から覚めた後のような感覚だった。



 馬車は公爵邸へ向かう。


 窓の外を眺めながら。

 アメリアは静かに街を見ていた。


「変わっておりますね」


 ぽつりと呟く。

 隣ではミリアが頷いた。


「はい」


 嬉しそうだった。


「ですが」


 一拍。


「変わっていないものも沢山あります」


 優しい声だった。


 アメリアは視線を移す。


 そして。

 ようやく気付く。


 まだ服を掴まれている。


「ミリア」


「はい」


「服を掴んでおります」


 沈黙。


 ミリアが視線を逸らした。


「はい」


「離された方がよろしいかと」


「嫌です」


 即答だった。

 アメリアが瞬きをする。


「そうなのですか」


「そうなのです」


 即答だった。


 アメリアは目を丸くした後。

 少しだけ微笑む。


「では、仕方ありませんね」


 その言葉を聞き。

 ミリアは嬉しそうに笑う。


 護衛達が必死に空気になる。


 馬車の中は静かだった。

 本当に静かだった。


 誰も触れない。

 これ以上は駄目だと全員が理解している。



 やがて。

 公爵邸が見えてきた。


 アメリアは無意識に息を止める。


 大きな門。

 広い庭園。

 白い屋敷。


 見覚えがある。

 確かにある。


 けれど。

 懐かしいという感情よりも先に。

 奇妙な緊張が込み上げた。


「……」


 知らない。


 知っている。


 知らない。


 知っている。


 その両方が胸の中で混ざっている。


 門が開く。

 馬車が進む。


 その瞬間だった。


 アメリアは目を見開いた。


 人がいた。

 大勢の。

 使用人達が。

 整列していた。


 執事。

 侍女。

 料理人。

 庭師。

 警備員。


 全員が並んでいた。


 静かに。

 まるで誰かを待つように。


 馬車が止まる。

 誰も動かない。


 風だけが吹いている。


 ミリアが先に降りた。


 そして。

 アメリアへ手を差し伸べる。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 その手を取る。

 馬車から降りる。


 その瞬間だった。


「…………」


 誰も喋らない。

 使用人達が固まっている。


 目を見開いたまま。

 息をすることすら忘れたように。


 ただ。

 見ている。


 銀髪の少女を。

 帰ってきた主人を。


 アメリアは少し困った。

 何か言うべきなのだろう。


 だが。

 言葉が見つからない。


 だから。

 一番自然な言葉を選んだ。


「皆様」


 静かな声。

 全員の肩が震える。


「ご無沙汰しております」


 小さく頭を下げる。


 誰かの嗚咽が聞こえた。


 続いて。


 また一人。

 また一人。


 堪えていたものが崩れていく。


「お嬢様……」


 震える声。

 前へ進み出たのはハロルドだった。


 白髪の老執事。


 アメリアの記憶にも残っている。


 何度も見た顔。

 何度も声を聞いた人。


 ハロルドは震えていた。


 普段の冷静さなど欠片もない。


 目は真っ赤だった。


 アメリアは少しだけ安心する。


 知っている。

 この人は知っている。


 思い出せる。

 完全ではないけれど。


「ハロルド」


 名前を呼ぶ。


 それだけだった。


 それだけで。

 ハロルドは崩れた。


「お嬢様……!」


 その場へ膝をつく。

 涙が止まらない。


「ご無事で……」


 震える声。


「本当に……」


 言葉にならない。


 半年。


 探した。

 祈った。

 諦めなかった。


 それでも。

 見つからなかった。


 だから。

 目の前にいる人が。

 本当にそこにいることが。


 信じられなかった。


「申し訳ありません」


 アメリアが言う。

 静かに。


「ご心配をおかけしました」


「違います!」


 珍しく大きな声だった。


 全員が驚く。

 アメリアも驚く。

 ハロルド自身も驚いていた。


 そんな声を出した記憶がない。


「謝らないでください」


 涙声だった。


「帰って……」


 喉が詰まる。


「帰ってきてくださっただけで十分です」


 その瞬間。

 堰が切れた。


「お嬢様ぁぁ!」

「良かったぁ……!」

「本当に……!」

「帰ってきた……!」


 使用人達が泣く。

 侍女達が泣く。

 料理長も泣く。

 庭師まで泣いている。


 アメリアは呆然とした。


 なぜ。

 そこまで。


 そう思う。


 けれど。

 胸の奥が少しだけ温かかった。


 記憶の断片が浮かぶ。


 仕事。

 改革。

 監査局。

 王城。

 学園。


 そして。

 仕事が終わって帰るたび。


 この屋敷があった。

 この人達がいた。


「……」


 初めて気付く。

 ここは公爵邸ではない。


 帰る場所だった。


 アメリアは小さく微笑む。


 本当に小さく。

 穏やかに。


「ただいま戻りました」


 一瞬。

 沈黙。


 そして。


「おかえりなさいませ!」


 屋敷中に響く声。


 歓声。

 涙。

 笑顔。


 その光景を見ながら。

 ミリアはそっと目元を押さえた。


 泣いているのは。

 自分だけではなかったから。


 アメリアはようやく一歩踏み出す。


 公爵家の玄関へ。


 半年ぶりに。

 自分の家へ帰るために。

お読み頂き、ありがとうございます。

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