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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第二十章 地方回遊編再見

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幕間 別に大した事してないよ

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 マリヤは少し離れた場所から見ていた。


 声は掛けない。

 掛ける必要もない。


 夕暮れの街角。

 一人の女性が泣いていた。


 そして。

 もう一人の女性を抱きしめていた。


 誰が見ても分かる。


 再会だった。


 長い時間を経て。

 ようやく辿り着いた再会。


「……」


 マリヤは小さく息を吐く。

 思っていた通りだった。


 やはり。

 あの子はアメリアだった。


 アメリア・フォン・アルフォード。


 公爵令嬢。

 監査局長。

 王国中を振り回した問題児。



 そして。

 もう自分の手の届く場所にはいない人間だった。


「元気でやりなよ」


 ぽつりと呟く。


 聞こえていないだろう。

 聞こえなくて良い。


 それで良い。


 マリヤは踵を返した。

 宿へ戻る。


 これで終わりだと思った。


 二人旅も。

 役目も。

 全部。



「で?」


 マリヤは真顔だった。


 目の前には二人。


 一人はアメリア公爵令嬢。


 もう一人は。

 ミリア・フォン・レイナード王太子妃殿下。


 さらに後ろには護衛達。


 酒場は静まり返っていた。


 完全に。

 見事なほど。


 客はいるにはいた。


 だが。

 王太子妃と護衛達が入ってきた瞬間。


 全員帰った。


 ものすごい勢いで。


 だから今。

 広い酒場には。

 自分達しかいない。


「なんでこの状況なのでしょうか?」


 マリヤは率直な感想を口にした。


 ミリアが苦笑する。


「言葉を崩して構いませんよ、マリヤさん」


 いや。

 そんな事を言われても。


 目の前には王太子妃。


 緊張する。

 普通に。

 当たり前に。


 すると横から声がした。


「大丈夫ですよ」


 アメリアだった。


 平然としている。

 いつものように。

 何事もないように。


「何が大丈夫なんだい」


「ミリアですし」


「理由になってないよ」

「なっています」


 即答だった。


 ミリアが吹き出した。


「どこにいても変わらないのですね、このやり取り」


「笑い事じゃないんだけどね」


 マリヤはそう返しながら。

 ふと気付く。


 正確には。

 さっきから気付いていた。


 ミリアが。

 アメリアの服を掴んでいる。


 本当に少しだけ。

 指先で。


 ぎゅっと。


 離さない。


 全然離さない。


 逃げないように。

 消えないように。

 確かめるように。


 ずっと掴んでいる。


 アメリアは気付いていない。


 あるいは。

 気付いていても気にしていない。


 だが。

 マリヤには分かった。


(ああ……)


 この人。


 よっぽど心配したんだね。


 アメリアがいなくなってから。


 ずっと。


 だから。

 何も言わない。


 言ってはいけない。


 これはたぶん。

 触れてはいけないやつだ。


 マリヤは何事もなかったように酒を飲んだ。


「……」


 視界の端では。

 相変わらずミリアの指がアメリアの服を握っている。


(見なかったことにしよう)


 そう決めた。


「マリヤさん」


 アメリアが頭を下げる。


「ありがとうございました」


 真っ直ぐだった。


 いつものアメリアだ。


「別に大した事してないよ」


「していただきました」


「そうかい」


「そうです」


 即答だった。


 記憶が戻っても。

 立場が戻っても。


 やっぱり変わらない。


 だからマリヤは少しだけ笑った。


「なら、ご馳走でもしてもらおうかね」


「構いません」


「あら」


 ミリアが笑う。


「経費で」


「駄目です」


 即答だった。


 沈黙。


 そして。

 心の底から。

 マリヤは笑った。


 その間も。


 ミリアの手は。

 ずっとアメリアの服を掴んだままだった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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