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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第二十章 地方回遊編再見

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第十話 気にするだけ無駄な気がします

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 七日目。


 三日間本を読み続け。

 三日間休み続け。


 そして今日。

 シルバは再び図書館を訪れていた。


 いつもの席。

 いつもの窓際。

 いつもの景色。


 なぜだろう。


 少しだけ安心する。


 席へ座る。

 本を積む。


 一冊。

 二冊。

 三冊。


 そしてページを開く。


 読む。

 ひたすら読む。


 ページをめくる。

 内容を理解する。


 本を閉じる。

 次を開く。

 また閉じる。


 次。

 さらに次。


 時間は静かに流れていった。


 何冊目だっただろう。

 ふと手が止まる。


「……?」


 表紙を見る。


『十年計画概論』


 著 アルフレッド・フォン・レイナード


 第四章 教育改革第一項


 その下。


『原案 アメリア・フォン・アルフォード』


 見慣れた名前だった。


 本当に。


 何度も見た。


 何冊も見た。


 どの本にも出てくる。


 税制改革。


 監査制度。


 労働環境改善。


 行政管理。


 教育制度。


 そして今回も。



「またあなたですか?」


 思わず呟く。


 アメリア・フォン・アルフォード。


 知らない女性。


 けれど。


 最近は妙な親近感すら覚え始めていた。


「……」


 少し考える。


 そして首を傾げる。


「原案ばかりで、自分では書かなかったのでしょうか」


 不思議だった。


 何冊も見ている。


 けれど。


 著者になっていることが少ない。


 大抵は原案。


 考案。


 発案。


 そんな立場ばかりだった。


「確かに」


 少し納得する。


「考案するまでは楽しいかもしれませんが」


 そこで一度区切る。


「それを整理するのは面倒ですね」


 うん。


 納得できる。

 非常に納得できる。


 だからきっとそうなのだろう。

 そう結論付けた。


 ページを開く。


 その瞬間。


 視界が揺れた。



「私は別に殿下を嫌っておりません」


 言葉が出る。


 自然に。

 当たり前のように。


 目の前の男性が固まった。

 本当に固まった。


「……嫌ってないのか」


「はい」


 即答する。

 なぜそんなことを聞くのだろう。

 意味が分からない。


 だから正直に答える。


「有害物質だとは思っておりますが」


 沈黙。

 長い沈黙。


 目の前の男性は頭を抱えていた。



 視界が戻る。


「有害物質……」


 シルバが呟く。


「なぜでしょう?」


 本当に分からない。


 そこまで言われる相手が何をしたのか。

 知りたくなった。


 だから読み進める。


 再び視界が揺れる。



「こちらです」


 どん。


 机の上へ書類が置かれる。


 分厚い。

 かなり分厚い。


『ルーカス殿下による業務妨害一覧』


「待て」


 声が聞こえる。


「生徒会時代」

「待て」


「男爵令嬢問題」

「待て」


「東方留学生問題」

「待ってほしい」


「投獄後謝罪訪問十四回」

「十四回も行ってたのか俺」


 沈黙。


 周囲から哀れみの視線が向けられている。



 視界が戻った。


「これは……」


 シルバはしばらく考える。

 本当にしばらく考える。


 数秒。

 十数秒。


 そして。


「確かに有害物質ですね」


 結論を出した。


 妥当だった。

 非常に妥当だった。


 さらにページをめくる。


 また視界が揺れる。



 静かな部屋だった。

 人払いされているらしい。


 目の前の一人以外。


 誰もいない。


「何だ」


 男性が尋ねる。


 だが。

 何か様子がおかしい。


 言葉を探しているようだった。


 やがて。

 一つだけ口にする。


「俺は合格か」


 少し考える。

 本当に少しだけ。


 そして結論を出す。


「まだですわね」


 男性が崩れ落ちそうになる。


 だが。

 続きがある。


「ですが」


 一拍。


 そして微笑む。


 自然に。

 柔らかく。


 本当に珍しく。


「以前よりは遥かに良くなりました」


 男性の表情が変わる。


 どこか安堵したような顔だった。



 視界が戻る。


 本を閉じる。


「何が良くなったのでしょうか?」


 シルバは考える。


 少しだけ。

 本当に少しだけ。


 だが。

 結論は出なかった。


 そもそも状況が分からない。


 登場人物も。

 前後の流れも。

 何も分からない。


 分かるのは。

 誰かが喜んでいたことだけだ。


「……」


 さらに考える。


 そして。

 結論を出した。


「気にするだけ無駄な気がします」


 ばっさり切った。


 分からないものを考え続けても仕方がない。

 情報が足りないのだから。



 シルバは本棚へ向かう。


 次の本を取る。


 さらに次。


 その次。


 気付けば。

 またアメリア・フォン・アルフォードの名前を探している自分がいた。


 理由は分からない。


 けれど。

 読めば何かが分かる気がした。


 だから。

 シルバはページをめくり続けるのだった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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