短編2 『テトフルクバンドクラブ』の活動録 後編
「…ここが、奴らの拠点かしら…」
フェリス達5人は軍からの依頼で帝国領土内に不法入国した連邦の一団を検挙すべく、奴らが潜んでいると思われる拠点らしき洞窟を発見。近くに車を止め歩いて侵入しているのだ。洞窟内は人為的に明かりが設置されており見渡しやすいもののかなり入り組んだ作りになっている。
「でもトモエ、外で襲ってきた残党達は捕まえなくてよかったのか~?」
「最終的には捕まえる。だけど外の連中をとっ捕まえている間に拠点にいる仲間に物資を持って逃げられたら外にいる奴らを捕まえるよりもさらに検挙が長期化する可能性がある…残党兵がこうして活動をするための物資を没収さえすればおのずと長期的な隠密が出来なくなって自分達から尻尾を出さざるを得なくなるんだ」
「んー…そういうものなのか~…?」
「どんな時もケースバイケース、今回はとにかく拠点を制圧して外に逃げれなくするのよ」
そんな風に話していると、徐々にトモエの足元がふらりとよろめきティラにもたれかかる。その表情はどこかうとうとしているようだった。
「っとぉ、大丈夫かトモエ?」
トモエはこくりと頷くが明らかに気が抜けている。そんなトモエとは対照的にティラは外で戦闘をしている時よりも明らかにしゃきっとしている。
「あんた達…相変わらず苦労する体質してるわね。トモエは日に当たってないと眠気に襲われるし、ティラは日に当たるとぼんやりした性格になるし」
「そ…、しゃーねーだろ、あたしはそう言う人種だし…トモエだって」
不貞腐れてそうに答えようとするティアの前に手を向け静かにするように指示するフェリス。すると曲がり角から小さな音が響き聞こえ全員が武器を手に構える。フェリスが静かに曲がり角まで近づき手のひらに収まるサイズの手鏡で慎重に壁の向こう側を確認する…すぐに手を引っ込め三本指を立てる。他のみんなも黙ってうなずく。
「(いくわよ…っ!)」
フェリスの合図とともにフェリスとルミナとティアが飛び出す。曲がり角の先には黒づくめの残党兵が3人、銃器を構えていたが油断からか不意の登場に反応が遅れ接近を許し、3人がほぼ同時に一人一殺とばかりフェリスがボクシングばりのファイトスタイルから強烈な右ストレートをお見舞いし、ルミナが鉄の爪で体を掻っ捌き、ティアは一番遠くにいた相手目掛け高くジャンプして1回転しそのまま両足を首に巻き付け背中側に倒して締め上げた。ほぼ相手に何もさせずあまり騒がしくさせずに残党兵を無力化させたのだ。
「っしゃおらぁ、サービス料は今回特別タダにしておいてやるぜ」
「そろそろ急がないとまずいかしら…ここからは多少騒ぎになっても強引に制圧しに行くわよ」
「がってんしょうちなのだ~」
突撃しなかったククルーとトモエも合流し、3人の残党兵を簡単に拘束したのちに全員で駆け足で奥に進んでいく。すると洞窟内にはかなり似つかわしくない人工的な大きな鉄扉が進路を塞いでいた。
「おい!貴様ら何者だ!!止まれ!!」
「まっじぃ…見張りかよ」
「このまま一気に突撃するわよ!」
「扉は?」
「私が、ぶっ飛ばす!」
鋼鉄扉の前にいた見張り役二人が銃器で乱射するのを物陰に隠れてやり過ごしながら作戦を打ち合わせる。そんな時にどこからともなくルミナがカホンを、ククルーが葦笛を取り出すと銃声音にも負けないほどの音を響かせ音楽を作り出す。その演奏に見張りは銃撃をピタリと止め様子を伺う。その音楽は心すらも激しく揺さぶる闘気を鼓舞する音楽の魔法だ。
「ビートは、逆境に負けない力!!」
「なのだー!」
そんな演奏を奏でながら葦笛を吹くククルーが水の壁を作り出し、見張りが再度発砲するがその弾を防ぎながらティラとフェリスの2人と共に止まることなく突撃する。トモエは眠そうな表情のまま後衛からティラから借りた弓を2射放つと水の壁の隙間をすり抜け見張り2人の銃を持つ手に命中、発砲が収まるとすぐさま水の壁を解除したククルーとルミナが追撃を叩き込んで無力化した。そして邪魔ものが居なくなった隙にフェリスが壁に右腕を突き立てる。
「おい、おめぇ…腕一本くらいとか思ってねぇだろうな」
「ギター弾ける程度には手加減するわ」
そう言うと左手でポーチの中からゼリー飲料のような銀色の飲料容器を取り出すと口に咥えて一気に握りつぶして飲み込む。その瞬間全身から気力とも魔力とも呼べる黄色と白の生命エネルギーが溢れ出し、特に壁に突き立てていた右腕や肩からは異常に光り輝いていた。演奏は最絶頂のタイミングでピタリと止まる。
「いくわよ…っ、ドラゴニック・キャノン!!」
心震わす激しいサビのメロディーを背に右肩から爆発のような大量のエネルギー放出をすると同時に全身からも逆噴射の如くエネルギーを噴出、そして右拳から肩以上の莫大な放出エネルギーを撃ち出し連結されている壁がぐしゃりと変形しながら扉部分が吹っ飛んだのだ。当然中にいた残党兵は突然の出来事に驚きながらもすぐに慌てて武器を取り出したり警戒アラームが鳴り響いたりと騒がしくなった。
「フェリスが体張ったんだ。あとは任せてトモエと一緒におねんねしてなぁ!ひゃっはぁ!!」
扉から我一番とティラが飛び出すと両手には2丁の機関銃を持っており、常人以上に高くジャンプすると部屋の中心上空でゆっくりと滞空しながら、回りながら落ちて機関銃をぶっ放しまくる。部屋中に弾丸の雨が降り注いだのだ。
「ティラに負けてられないのだ~、ククルー私達も」
「…危ないからほどほどにねルミナ」
弾丸の雨を掻い潜りながらルミナが猛ダッシュして爪で残党兵達を切り裂いて回り、その後ろをまるでフィギュアスケートのように水で滑りやすくした地面を滑って移動するククルーが水魔法で回転する円輪を大量に作り出して遠くの残党兵を切り刻む。元より混乱気味だった室内が空中からの乱射と地上からの殲滅で残党兵たちは殆どパニック状態だった。それでも室内には数十人もの人数がいてまだまだ制圧には時間と体力が必要そうだった。
「そいつらは後だ、まずは扉をぶっ飛ばした奴を狙え」
攻撃を受けながらも比較的無事な残党兵達が集まり、扉を破壊した衝撃で動けずにいるフェリスに狙いを定める。フェリスは右腕を抑えたまま蹲って動けずにいた。だがフェリスの後ろにいるトモエが弓を射ると残党兵達の行く手を阻む。
「ありがとうトモエ、…少し休んだから大丈夫。私もまだ戦えるわ」
そう言うとフェリスはぐっと立ち上がり、痛む右腕を歯を食いしばって我慢し左手でナイフを逆手持ちする。いやナイフと呼ぶには少し長めな50~60㎝程の水色の装飾がされた剣だった
「行くわよ、ドラゴニックスラッシャー…」
まるでボクシングのファイトスタイルで一気に距離を詰めると、そこから放たれる右手のジャブを警戒する残党兵は距離を取りながら発砲する。だがその弾丸も見事なステップで回避し、剣を持った左手で強烈なフック軌道で切りつける。これを間一髪布1枚斬られるだけで済んだ残党兵だったが、そのままフェリスが即座に左手だけで逆手から順手に持ち替え、すぐに2撃目を振るう。流石にその速度には反応出来ず斬り払われ地面に突っ伏す。
「まさか私を狙ったのは弱ってて斃せるとでも思った?生憎そんなやわな鍛え方はしていないの。さぁ…フィナーレよ!」
フェリスは剣を地面に突き立てると、ギターを首にかけ激しくかき鳴らし、その演奏と共にみんなの動きはさらに勢いを増しもはや残党兵達には止めることは出来なかった。
「音楽ってのは…勝利に導く魔法の力よ!!」
そのまま演奏しながらフェリスは剣を持ち次々にバッタバッタとなぎ倒す。4人も攻撃を続けていき…そして数十分程度で部屋の中にいた残党達の制圧が終了したのだ。5人はライブを終えたかのような疲れた体のまま拘束と索敵を続けるが…
「これ以上奥はまるで資材置き場だ。…多分ここが最奥だと思う」
「フェリスー!らちひがいの人が捕まってるのだー!」
「オッケー、ならあとは残党のさらに残党を捕獲しながら…軍の到着を待ちましょうか」
それから軍が到着したのが2時間後、主にフェリスの車の通信機能がおんぼろなため軍に通信が出来ず、仕方なくトモエのバイクがあるところまで戻ることになった弊害である。その道中で3人程残党兵の確保も出来たのは不幸中の幸いと言っていいのだろうか…。軍はすぐに展開を始め捕縛済みの残党兵達を護送車に押し込み、囚われていた人達の保護に大忙しだった。
「どうやらこの1件は…これでおしまいかしら?」
「どうだろうな、この帝国が未だ戦争中である以上いつどこで同じ連中がやってくるかなんてわからんからな…」
軍や被害者達からお礼を言われたのちに休んでいるフェリスの愚痴に、火の光を浴びてしゃきっとしたトモエが答える。そんなやり取りをしながらフェリスは車から赤い紙を取り出す。
「まぁ、今私達がそんなこと考えていても仕方ないわね。…それで、次はこれね…」
「…ライブのパンフレットか?」
「だとどれだけ嬉しかったか…強制依頼よ」
「場所は?」
「ムルフィルテンジュ、最前線の防衛依頼…はぁ~あ、やになるわ。とりあえずこのまま軍の報酬を受け取って、一泊したらすぐ汽車で向かうわよ」
フェリスの言葉にみんなはだらけながらも頷き、車のエンジンをかける。次なる依頼がこの『テトフルクバンドクラブ』にとって大きな転換期になるとは、この時はまだ誰も予想していなかった。ただ彼らの車から彼らの奏でる楽器の音色を響かせながら…歌いながら次なる目的地に向かうのであった…———
次回投稿は2/25予定




