短編2 『テトフルクバンドクラブ』の活動録 前編
ジャ———ンンッッッ………
ぽつんとただ一つの照明の光に照らされた薄暗い空間に、ギターの音が壁に反響し響き渡る。ピンクの長い髪がふわりと揺れる。
ジャァ——ンッ…
今度はさっきよりも低い音が響く…しかし何か納得がいかないのかさらに何度も鳴らしてはチューナーを弄る、鳴らしては弄る、何度か繰り返すうちに納得いく音が出るようになったのかジャンジャンと鳴らしまくる。するとギターの音に紛れてノックの音が混ざって聞こえた。
「フェリス、入るぞ。…軍からの依頼だ」
扉が開くと奥から青髪で短髪、おでこから二本の角が生えた高校生くらいの女の子が部屋の明かりをつける、照明の明かりの陰にいたフェリスと呼ばれた背が高く褐色肌にピンクの長いストレート髪の女性が持っていたギターから手を離しため息をつく。
「はぁ…ダメ、いいメロディが思いつかない。いつになったらコンサートだけで生活できるようになるのかしらね」
「しゃーねーだろ。お客もうちらの知り合いばっかりで金とんのも忍びねーってサービスばっかりしてるんだしよぉ」
「ん?ティラもいたのか、すまない電気付けて…」
「あーいいよトモエ、どうせ外行くんだし」
本来明かりが当たらなかったであろう部屋の隅からティラと呼ばれた、ウェーブかかった銀色の長い髪の少女がのそりと近づき、トモエと呼んだ青い髪の女の子から一枚の紙を取り上げる。
「…不法入国した連邦の一団を検挙せよ、ねぇ~…」
「あぁ、以前から帝国住民の拉致行為を繰り返していたという話だが、軍によって大多数を捉えることが出来たみたいだが、どうやら残党がこの近くにいるとの事、おそらく既に廃坑となった洞窟を拠点としているみたいだな」
「それを私達でとっ捕まえてこいって事ね」
ギターをバッグに仕舞い立ち上がるフェリス。三人はトモエが入ってきた扉を出てすぐに階段を上る。どうやら地下だったらしく窓からは陽の光が三人の視界を眩しく隠す。
「あぁー…だめだ。力が抜ける…」
「昼間の仕事は堪えるか…すまないなティラ、辛くなったらいつでも休んでいいからな」
ティラは地下から出ると体がぐっでりとしてフラフラと進む。その様子をトモエが支えるように後ろから優しく押す。1階には二人の女の子が待合席みたいな場所でジュースを飲んでいた。
「フェリスー、ミーたちはもう出発準備出来てるのだー!」
「ありがとうルミナ、ククルー。部屋の鍵は大丈夫だし…それじゃ、行こうみんな」
フェリスを先頭に5人はまるで宿泊ホテルのような混凝土製の建物から出てすぐ隣の建物…駐車場のような場所に入る。色んな車やバイク、ブルームの他、鞍のようなものが背中についている巨大な翼を持つゴラドンや鳥など様々な『乗り物』が駐車してあった。フェリスと、ルミナとククルーと呼んだ二人の少女は少し年季の入ったタイヤのないオープンカーに、トモエは少しごつめのバイク、ティラはそのバイクに付随するサイドカーに飛び乗った。
「さぁ利かん坊なマイフェアレディ…今日はクランクなしにいう事聞いてよね」
フェリスが運転席でキーを回しスターターロープを引っ張りアクセルを踏む…三回目ほどでブルルルン…と豪快なエンジン音をあげ、ホバーカーのようにふわりと車体が浮き上がる。
「よぅしいい子ね…トモエ、行くわよ」
フェリスはサングラスをかけながら、指貫グローブを付けるトモエにハンドサインを送り、そのまま低空浮遊走行を開始する。その後ろをサイドカー付きのバイクがぴったりと追走する。
街並みはとても整備され道路もタイヤが傷まないように綺麗に舗装されている。古い昔ながらの建物を挟むように最近の高い建物がいくつも並び立っている。人も賑わい対向車も走る様子はまさに都会そのものだった。だがそんな都会の風景もしばらく道なりに真っすぐ走り続けると徐々に人気も建物の様子も薄れ中心部から離れていくのが感じられる。そして関所を通過し、もはや草原と言って差し支えないあたり一面何もない、ただ走るのに適している道をさらに走り続けている。
「トモエ、そろそろ車を止めるわよ」
フェリスが運転席の横にあるレシーバーに声をかけると、『了解』という返事が機械から返ってきた。二台は道から少し外して駐車しトモエとティラがホバーカーの方に降りて集まる。ティラがサイドカーの中から地図と依頼書を持ってきて車の扉部分の上に広げる。
「…一応もう奴さん方のテリトリー内にはギリギリ入っているわね。…いやテリトリーは元々こっちのものだけどね」
「んでどうする?まだ見られていないなら車両は隠して徒歩でいくか?」
「…私が飛んで先に見てきた方がいい?」
「…ダメね、それこそ敵に探しているのがバレバレになっちゃうわ。やっぱり歩いていくしか…危ないっ!!」
突如フェリスが2人を車内に引っ張り上げて車を急発進させる。するとその直後どぉん、という爆発音とともに先ほどまで車を止めていたところに小規模の爆発が起きた。
「術者に囲まれてた…トモエ、キーロックは?」
「最新のタイプ、持ち主が離れたら自動的にロックがかかる。しかもバリア機能付きだ」
「…この子にも付けれないかしら。てかそれまさかローン組んだ?…まぁいいわ、とにかくもう見つかったんだしこのまま奴らの拠点まで飛ぶわよ。シートベルトいい?」
自慢げに話すトモエが助手席に、ぼんやりしているティラはルミナとククルーの間に座らされてシートベルトを付けさせられる。そしてホバーカーはそのままゆっくりと浮上を開始しどんどん地面が遠ざかっていく。すると少し離れたところから数人の人影が小さく見える。その姿は全身を黒い布で包み正体が分からないようにした…明らかに怪しい人物、黒づくめの残党兵だ。
「おー…あれが今回のターゲットなのだー?」
「流石に車の速度には」
フェリスが宙を走ると前方から真っ赤な光が見えると思ったその直後真っすぐ炎が一直線に飛んできたのを車が間一髪で回避する。すぐに周囲を見渡すとそこには…残党兵が大きな翼で飛んでいるゴラグーンに乗っているのが計3組、車を取り囲んでいるのが分かった。
「…余裕で追いつくってわけか、みんな準備しておいて」
フェリスが車のギヤを低速にしてゆっくりと車を進めて警戒する…。3匹のゴラグーンは滞空しながら様子を伺う…。すると後部座席からメロディが流れる、それはティラが奏でるアコーディオンの優しい音色…心を安らげる音楽の魔法だ。
「メロディーは…緊張をほぐす優しい力」
緊張が演奏に包まれる空中での睨み合い。そんな中車の背後にいる残党兵の一人が銃を取り出しゆっくりと静かに構える。そして車に銃口を向けると、突然車がきらりと光った。光ったというよりも…バックミラーによる反射光が丁度後ろを捉えたのだ。
「トモエ!」
「任された!」
車が右に急旋回すると助手席に座っていたトモエが車の扉に足をかけ刀を抜く。残党兵が銃を撃つがその弾はトモエの刀に弾かれる。そこからは演奏交じりに交戦が一気に始まった。ゴラグーン3匹が襲い掛かろうとするのを車が急加速しながらひらりひらりと躱す。下からも術者が魔法弾を車目掛けて射出するが思うように命中しないし、一発ゴラグーンに当たってしまい地面にいた術者の攻撃が控えめになった。
「フェリス、もっと車を近づけて!刀が届かない!」
「嫌よ!!もう部品も値上がりして修理利かないんだから、これ以上ぶつけたくないんだから!!」
「…なら、飛ぶ?」
「次奴らの上を取ったらお願いね!!」
その言葉にククルーもシートベルトを外す。フェリスの運転でゴラグーンの攻撃を回避したその瞬間に、ぐるりと急旋回をしながらさらに高く車が飛び上がる。そしてその瞬間ククルーとトモエが車から飛び降りる。
「タケダ流二剣抜刀法…朱雀火翔」
トモエが両手に二刀の刀を構えて広げ、大きく扇ぐように振るうとその身体はまるで鳥が飛ぶかのようにふわりと滑空するように宙を進み、まっすぐ一匹のゴラグーンの上にいる残党兵へと迫る。そしてそのまま刀を振るい敵を薙ぎ払うとゴラグーンから飛び落とされ地面へと真っ逆さまに落ちる。トモエはそのままゴラグーンに乗り手綱を握る。
「…ん、私も…」
長い栗毛を三つ編みツインテールにした、黒い臍だしトップスに黒いミニスカ姿の女の子、ククルーは背中にある自身の真っ黒な翼を大きく広げ飛び立ち、ゴラグーンの牙を躱しながら手を伸ばすと、手の甲についている青い珠が鮮やかに光る。
「『敵を切り裂け 刃となりて 水よ』」
呪文を唱えると手から水が溢れ、空中で形を変えると三日月状の刃に変わりそのままゴラグーンに跨る残党兵の身体に飛び切り裂く。だがトモエの時とは異なりゴラグーンから突き落とすまでには至らなかった。
「にゃあぁぁぁぁぁ!!」
するとその弱った乗り手が乗るゴラグーンの上に、金髪ぼさ髪ショートに子供にしてはイヤリングやらピアスやらがたくさんついたチャラそうな見た目、緑と白のノースリーブミニスカセーラー服に萌え袖の服装、そして細長い尻尾の生えた女の子、ルミナが飛び乗って鋭い爪で残党兵の背中を引っ掻くとついにゴラグーンから落っこちたのだ。
「やったのだー!うちとったのだー!」
「ルミナ…乗れなかったらどうしてたの?飛べないんだから危ないよ…」
そんなことをしている間にもいつの間にか最後のゴラグーンに乗っていた残党兵も、おそらく車に残ったままのティアが射貫いて落としていたのだろう、完全に包囲を突破することが出来たのだ。
「さぁ、下にいる術者達から猛攻撃される前にとっとと拠点に向かうわよ」
フェリスが車のスピードを緩め、トモエとルミナがゴラグーンを宥めた後車に飛び移って、最後にククルーも自分で飛んで車に乗り込んだのを確認したら再度スピードを出して一気に前進していくのだった。
次回投稿は2/21予定




