短編1 『不思議の苗木亭』の活動録その1・後編
今僕たちは今回の討伐対象であるトレントのテリトリーにいる。足場は踏めば毒針付きの触手を突き刺してくるジェリーがうようよいて、僕らの周りにはおそらくトレントの「手足」が伸びているのだ。
僕たちの戦力は鈍重なハンマーを使うリサ、鈍重な斧を使うミーシャ、短弓を使うゼシカ、それとナイフを使うマリエットとアルラウス。そして格闘技を使う団長の僕の計6人だ。そして足元が下手に動けない以上一番動けるのは…
「要するに、飛んでりゃ問題ないって事」
アルラウスが自慢の大きな翼を広げはばたきだす。その身体はゆっくりと宙に舞いほんの少しだけ体を浮かす。だがもっと高く飛びたいだろうが木々の広がった枝が邪魔であまり高くは飛べなさそうだ。
「ずりー…」
「いってる場合ミーシャ!?そんな事より私達は足元のジェリーをもっと斃してクリアリング済ませないと」
「あー…お刺身用の生け捕り個体がー…」
リサとミーシャはひたすら足元にいるジェリーを斃している。だがそんなことをしていれば下ばかり見ていてしまう。上から襲い掛かってくるものに気がつけない。
「危ないリサ!?」
僕の叫ぶ声に驚くリサ、だがそれはゼシカの放った矢がガツン…と硬いもの同士がぶつかる音、そして落っこちる矢と共にそれは薄暗い森の枝の中に消えていった。
「えっ、何?何?」
「ありがとうゼシカ、…トレントの蔓だ。足元に注意をひかせて上から襲って来てるんだ」
「…そんなトレント聞いたことない」
「僕もだよ。…だけど、こいつはそれをしてきてる。みんな注意して!」
そんな知能を持った野生動物なんていない…だけど今その個体と対峙している。足元が悪い中で上に注意を向けると、そこには無数の植物の蔓がまるで意思を持っているかのようにうねうねと動いている。その蔓がみんなに襲い掛かった。
「やーっ!!」
足元が悪い中みんな自分の武器で蔓を切り払おうとするが、蔓は思った以上に硬くはじき返す程度のことしか出来ない。飛ぶことのできるアルラウスはナイフでみんなのフォローに動く。
「足元のジェリー…上にばかり蔦を伸ばしたトレント…見晴らしのいい場所」
おそらくトレントはこのジェリーの群れの近くにはいない。きっと少し離れたところから襲い掛かっているんだ。だとしたら…。そんな風に考えていると、上空からものすごい勢いで蔦が襲い掛かってきたが、僕はその蔦をがっしり掴み引っ張った。
「アルラウス!今僕が掴んでいる蔦の元を探って!!」
そう言うとアルラウスはこくりと頷いて、僕がめいっぱい引っ張る蔓を手でつかみ、飛びながら根元を探る。木の上では他の木の蔓とも複雑に絡み合っているのが見えるが、そのたびに僕は手に持った蔓を揺らして位置を伝える。
「ダンチョー!だいぶ足元も歩きやすくしたよ!!」
そんなことをしているうちにリサ達は足元のジェリーをだいぶ処理したためかなり足の踏み場が増えた。…ちょっと可哀相だけどこればっかりは仕方ない。僕は出来るだけ生き残っている個体のいる方向とは逆に動く。
「…見つけたっ!!」
アルラウスの声に皆が上を向く。蔓から手を離したアルラウスはそのまま翼で滑空するように飛行し…先ほどゼシカが命中させた木のすぐ後ろあたりにあった木にの真ん中にナイフで傷をつけた。その瞬間その木は木とは思えないほど激しくその全身を揺らした。木に全くそっくりな、木そのものに擬態する野生動物…トレントだ。
「ありがとうアルラウス!みんな、行くよっ!!」
僕の掛け声とともにその木に一斉に攻撃を仕掛けるみんな。だがトレントもただ攻撃されるだけの的になるわけもなく、それまで抑えていたであろう無数の蔓を上から出して応戦してきた。
「蔓って…食える?」
「っえ!?トレントも食べるつもりなの!?」
「えーっと…トレントの固い外皮を茹でると食用になるんだったかな?あとは無理だと思う」
「お。なら蔓は斬っちゃえー…」
先陣を切るミーシャはデカい斧をブンブン振り回すと襲い来る蔓をスパスパと斬ってみんなよりもどんどん先を進む。続いてアルラウスも飛びながら蔓を躱す。後続のリサとマリエットはミーシャよりも蔓に苦戦し思うように先に進めない…それどころかリサは蔓に足を取られて逆さ吊りになってしまい大っぴらな姿を見せてしまう。
「やー、ダンチョー助けて~」
「り、リサ!今行くから待ってて。アルラウス、ゼシカ、リサの蔓切れそう?」
「はいはい任せて」
ゼシカが射った矢がリサを吊り上げる蔓を切るとリサは地上に真っ逆さまに落っこち、真下に向かった僕に覆いかぶさるように二人で倒れ込んだ。
「いたた…だ、大丈夫リサ?」
「うーん、もうちょっとこのままでもいいかな~」
「さっさとどいてやらないと団長ぺしゃんこになるぞ」
「私そんな重くないもん!!」
そんなやり取りをしていてもトレントの攻撃は留まることなく襲い掛かる。そんな時、寝転がる僕の腰辺りにごつり…と硬いものが擦れるような痛みが伝わった。僕はポケットから取り出すとそれは…さっき拾った木の実だった。
「これって…もしかして」
僕はこの木の実をなんとなく高く投げるとトレントの蔓はまるで嫌うかのように木の実から離れた。間違いなかった。この木の実は人為的に持ち込まれたもので、そして…このトレントは、いやこのトレントとジェリーの群れは『人為的に』躾けられてこうしてここにいるのだと。何故どうしてという理由を考えるのは後回しにして、この木の実はこの状況を打開するのに使える!
「みんな、一斉に行くよ!!」
僕が思いっきりトレントの近くの、蔓の多い場所目掛けて思いっきり木の実を投げると蔓はトレントまでの道を開け、そこに皆で一斉に攻撃を仕掛ける。
「…っち、私もラキスケすればよかっったぁ!!」
まずはミーシャが斧を振りぬくとトレントの身体に深い傷がつき、木の幹から黄色い樹液のような体液を噴出する。すかさずゼシカが三連射した矢がトレントに突き刺さる。
「マリエットは下に一本だ、タイミングを合わせろ!」
「っは、はい!!いきます。トライデント・スカー!」
アルラウスが逆さむいて飛びながらナイフで、マリエットが鉄製の爪で、2人が背中合わせのままトレントに突撃し、綺麗な三角形の切り傷痕を刻み込んだ。痛々しい傷を受けたトレントはまるで悲鳴を上げるかのようにさらに大きく騒めき、ほぼ全てだろう蔓を伸ばして襲い掛かる。
「っどっっっせぇぇーーーい!!」
すかさずトレントの傍まで接近したリサがハンマーを力の限り思いっきり振りぬくとトレントの身体は大きな衝撃にグワングワンと揺れ、到底木とは思えない撓みでその身体は地面に繋がったまま横に倒れたのだ。
「さぁ団長、これで止めと行こうか」
横に曲がったトレントを、飛び上がったゼシカの乱射で身を守ろうとする蔓を矢で打ち抜いて無防備な状態にさらす。そしてそのゼシカの後ろからさらに高くジャンプした僕が大きく腕を振りかぶって、その拳をトレントの身体に命中させる。
「星拳、ビクトリーシード!!」
強力な一撃がトレントの身体を貫いて周囲の大気を揺らす。そして力尽きたトレントがついに地面から足を離して横倒しに斃れる。ピクピクと動いていた身体は徐々に弱まりついには蔓さえも完全に動かなくなった。…僕はそっと手を離し、両手を合わせて合掌する。
「…、…よし。これで依頼は…達成って事でいいよね?とりあえず一度森から出て軍と合流しよう」
それから僕達は同じ道を戻るようにして…道中ちょっとした弄られというか、ラキスケ、じゃくてハプニングがあったけどそれは大したことではなく、なんとか無事に車を止めてあった場所まで戻ってくると、いつの間にか車の近くには軍のテントが設営されていた。僕達が事情を話すとどうやらこの森の周辺で不審な人影が目撃されたので拠点設営を後回しにして人気がないか探し回っていたそうでその間に僕らが到着してしまったという事だったらしい。
「団長…まさか」
「…うん、そうだろうね」
僕は軍の人達に木の実を渡しながら今回の個体について報告をした。軍の人は報告を聞くだけ聞いて返答はしてくれなかったが…おそらくというか間違いなく今回の1件は人為的な工作が絡んでいるとみて間違いないだろう…それが一体誰なのか、何の目的でこんなことをするのか…、そもそもこの帝国の人間の仕業ではなくもしかしたら…そんな思考がよぎるが、今は考えても答えなんか帰ってくることはない。ただ考えるだけ無駄かなと僕は気持ちを切り替える。
「…だ、だんちょー…」
するとおずおずとマリエットが僕に話しかけてきた。
「やっぱり私って…足手まといかな?みんなよりもうまく戦えないし…」
「何言ってるんだよマリエット、今回大手柄だったじゃないか!それに誰だってすぐ滅茶苦茶強くなれるわけじゃないんだから。これからも僕等と一緒に頑張ろうよ」
そういいながらマリエットの頭をなでると、マリエットはえへへと頬が緩む。そんなやり取りをしてると僕が撫でる反対の手にミーシャが潜り込んで手を持ち上げる。
「…まったく、ダンチョーは仕方ないな…」
「えっ、み、ミーシャ…ぼ、僕は別に何も…あ、いやミーシャもしてほしか」
「あー抜け駆けずるーい!私も~」
「ふふふ、背中がガラ空きだぞ」
「しまった完全に出遅れた。…もういーや直接本丸を」
「ちょちょちょっ!!みんなまっっ、あっあぶな倒れるっ!?わあああぁぁ———」
…とまぁこんな騒がしい姿を軍の人に見られ笑われながら、それでも無事に依頼は達成したし、これからも僕等は依頼を達成し続ける。そしていつしか僕ら『不思議な苗木亭』がこの帝国1の、最高の騎士団になってみせるのが僕の夢、そしてみんなの夢を叶えてあげるのが団長としての使命だと…これからも胸に秘めて頑張っていこうと…それこそ苗木のようにまだ遠い空を見上げるのだった。
次回投稿は2/18予定




