短編6 『乙女流空拳法本山 鍛命寺』の活動録その1 後編
射手流武器拳法・牡羊流獣拳法・乙女流空拳法、それは異界人によって星々の数ほどこの世界に伝えられし拳法の数々が長い歴史の中で混ざり合ったり埋もれ消え去ったり、形を変え流派を変え取り決めを作ったことにより今となっては世界中で12の流派だけが残ることとなった。その戦い方は基本己の身一つで戦う事を基礎とし、自身の内に秘める生体エネルギーを纏い戦う技術『累氣魔闘』を極め、全員が一流の兵爵・拳士となるべく高みを目指し学び修行が行われている。そしてこの帝都では三つの流派を正統に引き継ぐこととなっている。
一つ、様々な武器を有し己の技と共に技術を高め、自らの生体エネルギーで武器を生み出して戦う流派、騎士団ランキング『慶那道場』の射手流武器拳法
一つ、内に秘めたる生体エネルギーを獣のように本能のままに放ち、獣の動きを取り入れて戦う流派、騎士団ランキング『羊醍山』の牡羊流獣拳法
一つ、内に秘めたる生体エネルギーを固い意志を持って理性で制御し、魔法と武術の掛け合わせで戦う流派、騎士団ランキング7位『鍛命寺』の乙女流空拳法。
特にランキング7位の『鍛命寺』には2年前から義勇兵爵ランキング2位である『レイカ ハクセンイン』が師範を務めており、女性だけしか入団が出来ないと言う制限が課せられているにもかかわらず30人以上もの団員数を抱え日々修練に明け暮れているという。———梅ミー書房騎士団刊『季刊誌ルーブル』より———
私には許せなかった。わが師はその女の横暴なる態度を許し、帝国最強の流派である我ら牡羊流に泥がついたことを黙って見過ごしていることに…、あの女が師範の座に居座る、ただそれだけで他の団員達が誰一人個人のランキングに載っていない『鍛命寺』の騎士団ランキング15位の『羊醍山』を抜いて7位にまで上り詰めた…この騎士団にはそれだけの強さはない!と私は…牡羊流獣拳法師範代シィンジーチュウ リンはそれを証明する。私は乙女流の女性達に気付けないよう合図を送った。
私の目の前に広がっている広場では6人の男女が3組に分かれ取っ組み合っていた。ドギーのパワフルな攻撃をコチャナの柔軟で力強いフィジカルで真正面から受け止める。ホーとルチルは共に飛行しながらの蹴りを主体に戦う拳士だが荒々しいホーと比べルチルは繊細な攻撃と見るからに動きが違う。シュンの猛進する戦い方にヨーコは見事な手刀捌きでいなす。一進一退のお互いに引けを取らない戦いを数十分程繰り広げていたが、突如牡羊流側のメンバーは三人とも相手から距離を取り一か所に集まった。そして三人が一斉に構える。
「…いくぞ、タイミングを合わせろ!牡羊流合体奥義!!」
その掛声に乙女流の三人も咄嗟に身構えようとするも既に遅く、三人の両拳にはエネルギーが充填され激しく淡く光る。
「「「羊 群 総 突 撃 破」」」
三人から放たれた無数のエネルギー弾がまるで羊の群れの如く一斉に、三人の逃げ場すら与えることなく撃ち抜かれ、その衝撃の余波が乙女流陣営にも襲い掛かり、すぐ近くにある寺院すらもゆらゆらと揺らすほどの威力…そんな威力を真正面から受けたヨーコ、コチャナ、ルチルの三人はその場に突っ伏すように倒れていた。
「…どうやら、決着がついたみたいですね」
「ヨーコ!コチャナ!ルチル!!」
焦りを見せるリナが広場に出ようとするのをエフェリスが制止しようとするがそんなエフェリスの腕をするりとすり抜け、一例もせずに広場に入ると向かい合う三人の前に立つ。
「やいやいやい!ここから先は私が相手してやるぜ!!三人まとめてかかってきな!!」
「やれやれ…礼節をしないものに戦う資格なしとはここでは教えていないのですか?それにそもそもこれは形式に則った試合…貴女が割って入るなど師範代の名折れですよ」
ぎりぎりと歯ぎしりするリナを冷笑する、が…突如全身の毛が逆立つ感覚と恐怖心にも似た悪寒…全身のアラートが警鐘を鳴らすほどの寒気を感じた。その理由はすぐにでも理解が出来た。
目の前にいたのだ。そこに辿り着くまでの間誰も気付けない程…レイカ ハクセンインがリナの真横に立っていたのだ。音もなく、影もなく…私が気付いて一秒ほどしてようやく他のみんなも彼女の存在に気付いたのか一気に騒めき動揺が聞こえてきた。すらりと立つその姿、長い黒髪に表情が隠れ一切読み取ることが出来ない…
「…これは驚きました、乙女流師範にして義勇兵爵ランキング2位のレイカ ハクセンイン殿。ご挨拶の場に立ち会わせないのでどこか体調が芳しくないのかと思いましたが…」
「…リナ、そこに寝転がってるの外に出しとけ…」
「っは、はい!」
カチンッ…私の中で怒りそのもののような感情が沸き上がった。人の話を聞かないだけでなく、門下生を労わるどころか粗雑に扱うような態度。これが由緒正しい流派のトップに立つ人間の取るべき姿勢なのかと…、それはそうとリナはレイカの指示ですぐに動くと、驚くことに自分よりも身長が二倍もある三人を軽々と持ち抱えそのまま走って広場から出ていく姿を見せる。それだけでも彼女も師範代を名乗る程の実力があるのが理解できた。
「…御託はいい。何人でもまとめてかかってこい」
視線をレイカに戻すと、あろうことか右手だけでかかって来いと言うジェスチャーをするという明らかな挑発行動をしてきたのだ。しかも長い髪の間からはまるで我らを見下すかのような視線を送っていたのだ。
「…調子乗ってんじゃねぇ!!もう一度合体奥義だ!!」
「っいけません!怒りに身を任せては」
私の制止も聞かずドギー達は再度エネルギーを拳に溜め、すぐに放たれた。
「牡羊流合体奥義!!羊群総突撃破!!!」
再度放たれた無数のエネルギー弾は今度は全てレイカ一人に集中砲火する形となり四方八方から放たれる攻撃に逃げ場など無く、明らかに全弾が命中しているのが誰の目からも分かる。二度目の奥義を撃ち尽くした三人は流石に息が上がり全身から汗が滝のように溢れていた。
「へへっ…どーだぁ、ランキング2位なんて大したこと…」
ドギーは言葉を失った。そこに立っていたレイカは躱したわけでもなく、攻撃が通用しなかったわけでもない。ただその全ての攻撃を一身に受け全身がボロボロで痣や血も確認できる。先ほどの三人の事を考えたら明らかに致命傷レベルのダメージを食らいながらも、まるで何もなかったかのように直立不動のままの姿に、三人の額には疲れの汗とは違う、ひんやりとした汗が溢れ出て目を見開いたまま唖然としていた。それは戦ってもいない牡羊流の門下生たちも、そして私自身でさえも同じ感情がそこにはあった。
「…乙女流奥義、不転返撃誓の構え」
レイカが一歩足を前に出す。その動きに痛みとか疲労とかは一切感じられずただ自然な足運びをしていた。さらに一歩前に出すと、今度は三人の足が後ろに一歩下がった。一歩、さらに一歩と歩みを止めないレイカとの距離はどんどん近づいていく。
「っく、お、牡羊流飼獣拳!雷駒っ!!」
「牡羊流飼獣拳!砕犬脚!!」
シュンが素早い動きでレイカの懐に潜り込んで左脇腹に激しいタックルを、ホーが飛び上がって右肩に強烈な踵落としを仕掛けるが…レイカは防ぐでもなく、躱すでもなく、何もせずただ歩いたままその攻撃をその身で受けたのだ。鈍い音から明らかにまともに入っているにもかかわらず、その澄ました顔は一切歪むことはなかった。
「…ば、化物かよ…」
ぼそりと呟くドギーの目の前に、ついにレイカが到着してしまった。レイカはホーとシュンを掴み、軽々とドギーに投げぶつける。ドギーは二人を受け止める事は容易かったが受け止めてしまった事で身動きが取れなくなっていた。それに気づいた時には既にレイカが腕を高く上げ構えていた時だった。
「っまずい!!牡羊流奥義!防波…」
私は咄嗟に三人を守るべく礼もなしに広場へと飛び込み、回らない口よりも先に防御するための技を構える。その刹那ドギーよりも倍以上も細く傷だらけのレイカの腕が地面に叩きつけられる。ほぼ同時だった。私が礼をしていればきっと間に合う事はなかったその攻撃は…恐ろしい事に乙女流の技とはまるで思えないような、莫大な生体エネルギーの、いや…もはや全てを破壊するためのエネルギーの放出だった。寺院よりも高く噴き出した巨大なエネルギー波は私や三人だけでなく遥か後ろにいる他の門下生すら巻き添えにする高範囲爆撃…さらに自分の身を盾にしていなければここにいる全員が消し炭になりかねない威力、自身が使える最高レベルの防御術をもってしても防ぎきれない痛みにただ耐え凌ぎきるしかなかった。…これが、義勇兵爵2位の実力の片鱗というのか…
しばらく破壊のエネルギーに身をさらされ、ようやく落ち着くと…私はその痛みと疲労感からその場に倒れ込んだ。後ろを見るとドギー・ホー・シュンの三人はあっけなく斃されていたものの、自分を中心にV字状に衝撃波が二分していたおかげで多くの門下生は中心に避難しており被害は少なかった。私は少しだけ安堵で息を漏らしたが、そんな私の前には未だレイカが立ち塞がっている。後ろを向いたままでもわかる威圧感、彼女が腕を振り上げているのが分かった。
「ししょー!おししょー!!やり過ぎだぜ!!もとはと言えば私達が交流さぼってたのが悪いんだぜ!!」
するとレイカの腕を背の低いリナが宙に浮きあがり抑える。するとレイカはすんっ…と落ち着いたような様子、というかまるで子供が玩具に飽きたかのように振り返り黙って寺院へと戻っていったのだ。
「はぁー…悪かったな。まさかホントにししょーが戦うとは…、極度のめんどくさがりで困ったら馬鹿力で何でも解決って悪い癖にもほどがあるだろ…」
「…いえ、こちらこそ…流石はナンバー2の実力者。我らも目指すべく更なる高みを見ることが出来たいい勉強だと…」
「謙遜なんていーぜ。ししょーは先代師範と違って型破りでろくに指導もしねーからさ。それと次からはちゃんとうちらも交流試合には参加するように気を付けるぜ」
レイカよりもどこか大人びた姿勢でバツの悪そうなリナにくすりと笑い。私とリナは互いに向き合い礼をし手を結んだ。その様子は両陣営に見守られ、お互いの蟠りを説くきっかけとなった。
その後両陣営は流派の垣根を超えお互いに怪我人の治療に当たり、鍛命寺は我々に簡単ではあるが料理まで振舞ってくれた。そして1時間ほどの交流を経て我々羊醍山陣営は最期に全員で礼をして門を出て行った。次来るときはこちらも襟を正し、お返しの品を持ってと心に決めながら…
次回投稿は4/1予定




