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短編6 『乙女流空拳法本山 鍛命寺』の活動録その1 前編

『季刊誌ルーブル』それは『梅ミー書房騎士団』から発刊されている帝国領土内で最も人気を博している雑誌の一つであり、出版している義勇兵爵騎士団が帝都及び各都市に飛び回り帝国内におけるおおよそ500万人以上の全ての兵爵をリサーチ、その中でも注目の高い兵爵を記事に取り上げ年に四回に分けて出版している。その記事の中でも特に注目が集めている内容が、年に一度だけ掲載される兵爵最強ランキングである。これは帝国軍として所属し国を守るために様々な活動を強いられる『国衛兵爵』、様々な権限を与えられ自由な活動を許可されながら兵職にも勤しむ『義勇兵爵』、義勇兵爵達が集い組織形態を持ち軍から認可された部隊『騎士団』、それぞれで去年一年の活躍を集約しさらに兵爵の代表とも呼べるヴァイルハン・グリフィスアンバー帝国軍総司令が監修を行い、その実績や実力から優秀な兵爵を上位100人、義勇国衛の二項目で分け200人、さらに騎士団として上位50組織のみに絞りランク付けされる。このランキングに載ることはいわば総司令お墨付きの実力者と言う箔が付くことなのだ。

 さらにランキング上位になればなるほどランキングが公開するタイミングでの変動でもランキングから名前がなくなることがなくなるためランキング上位の兵爵や騎士団はそれだけで帝国から重要視され好待遇を受けたり、騎士団なら入団希望が後を絶たないのだ…




「…ししょー!おっししょー!!」


 ギシギシ、ドタドタドタ…と古ぼけた木造の床を元気よく走りぬける音が響き渡る。その廊下からは多くの女性達が同じ修行着を着て規則正しく並び、功夫を積んでいる様子の広場が見える。反対に建物はまるで寺院のような和風な畳と襖だらけで所々傷んではいるもののちゃんと手入れの行き届いている木造建築。そんな外と通じている長い廊下を一人の少女が走り抜け、とある部屋の襖を勢いよく開く。


「おししょー!きたんだぜー!」


 少女の視線の先には、畳の上にゴロンと寝ころんでいるだらしない恰好の女。まるで死に装束のような真っ白の着物に真っ赤な袴を着た真っ黒な髪の長い女が寝転がったままの状態で煎餅を食べている。だがそんな事もお構いなしに少女は師匠と呼ぶ女の前に大量の封筒をどさりと置いた。


「…全部いらん。燃やしておけ」


「そんなこといってー!この前全部燃やしたらとくそくじょーまで燃やして怒られたんだぜ」


「…俺の知ったこっちゃない」


「この寺の、きしだんのとくそくじょーだぜ!」


 っちぃ、と大きな舌打ちをして師匠の女は頭からポリポリとふけを落としながら起き上がり、一枚一枚封筒を見ては次々と真ん中で破り捨てる。その破った中身を少女が確認するが殆どが「引き抜きのお誘い」だとか「決闘のお申込み」だとかと言ったものばかりであった。師匠の女は破る大量の手紙の中から支払いの手紙を見つけるとそれだけを破らずに少女に投げ渡す。そしてそのまま畳に身を投げ出す。


「ししょー!ねるなー!きょーは予定ある日だぜー!!」


 少女が必死に師匠の女の袖を引っ張るが、女はピクリとも動くことなく眠りについた。すると襖から他の女性達が顔をのぞかせる。


「こうなったらしばらくは動かないし…放っておきなさいリナ」


 リナと呼ばれた金髪の修行着を着た少女は後ろから来た女性達にひょいと抱きかかえられて師匠と呼んでいた女から離される。リナはじたばたともがくが抵抗叶わずあっさりと連れていかれてしまう。

 すると先ほど廊下から見えていた広場がなにやら騒がしくなっているのが聞こえ、リナを抱えたままの女性達が向かうとそこには…同じ修行着を着ている女性達とは異なる道着のような物を着た複数人の男女がここの建物の門から押し入ってきていたのだ。


「…あんた、牡羊流のところの師範代じゃないか。門下生をずるずると引き連れて何のようだい」


「いやはや、このような道場破り紛いのやり方で大変申し訳ないとは重々承知してはおりますが…我ら帝都の誇る三大流派を持つ騎士団、牡羊流獣拳法と射手流武器拳法…そして貴方達の乙女流空拳法。我らは帝都の長い歴史の中で互いに競い合い高め合うべく三つ巴の交流試合をしていたのですが…」


 そう言いながら一人の男、おそらく師範代が前に出る。その男は周りの人よりも道着の色が異なり、頭には羊のような角が生えた高身長で清潔感のあるイケメン男だった。


「現師範が団長に就任されてからは何故か乙女流は交流試合に顔を出されず、それなのに帝都の義勇兵爵ランキングナンバー2の座に居座るという実力…その随分な実力に納得のいかない弟子達も多く、本日はそのナンバー2の実力の片鱗を見せていただきたく、この修行寺に攻め込めばいくら出不精でも動かざるを得ないと思いこうした形を取らせていただいた次第でございます」


 そう言うと男はぺこりと頭を下げると、寺院の女たちは「交流試合…?」とお互いに顔を見合わせ困惑の様子を見せ、いまだ抱えられたままのリナはあちゃー…と言わんばかりの反応を示す。


「…おししょー、いつも手紙全部燃やすからそう言う誘いの手紙も一緒に燃やしちゃったんだな…」


 小声でぼそりと呟き呆れつつも、リナは抱かれる腕から抜け出して降りると男の前に堂々と立つ…がその身長差はほぼ二倍、子供と大人の差そのものである。


「っへ、いいだろう!その道場破り、このししょーの一番弟子で師範代のこのリナさまが許可するんだぜ。…最もししょーが出る幕もなく帰ってもらうけどな」


「ちょ、リナ!」「リナちゃん…」


「おやおや…可愛らしい師範代だこと。ありがとうございます」




 それから女性達側では一悶着ありつつも、広い広場に乙女流の女性達と牡羊流の人達とに左右で分かれ試合の準備が簡単に済まされた。


「それではお願いしますね。ドギー、ホー、シュン」


 師範代の男の呼びかけに応じるように、牡羊流側から三人の男女が前に並び立つと三人同時にぺこりと一礼し広場の中央へと歩み進む。その風貌は一人はデカい巨体に筋骨隆々で道着がパッツンパッツンに張り付いている大男、一人は豊満な胸や尻、そして舌がパッツンパッツンになりそうなくらい太い足を持つ背中に大きな翼を持つ女性。そして最後がすらっと引き締まった体に長くキレイな黒髪、長い耳をした男とも女とも分かりにくい抽象的な顔をしている美人の三人だ。


「よし、こっちは私が…」


「はいはい、リナは大人しく座っててね…ヨーコ、コチャナ、ルチル…お願いしていい?」


「分かったわエフェリス」


 そんなやり取りをしつつ機嫌を悪くするリナを宥めながら、三人の女性が乙女流側からも同様に一礼して三人が広場中央に並び立ち、三人同士お互いに向かい合う。女性達の風貌は一人は白い短髪の下から鬼の角が二本伸びた少女に、緑色の長い髪と修行着の下から生えている緑色の鱗のある尻尾の女性。そして最後は水色の長い髪に妖精のような薄い羽根の生えた耳の長い女性の三人だ。

 そんな六人が中央で向かい合い見合う数秒間、風の音すらよく聞こえるほどの静寂が広まり緊張感が走る。お互いタイミングを合わせたかのように同時に頭を下げ、それぞれ右腕を突き出し甲を付け合う三組が出来上がる。


「…試合、開始ッ!!」


 師範代の男の大きな掛け声とともに、選出された各陣営は一斉に距離を取る。しばらくは様子見で戦いが動かないと思われた数秒、突如として牡羊流側のガタイの良い大男が一気に距離を詰め仕掛けた。


「牡羊流飼獣拳、象槌!」


 大男の強靭な腕が地面に振り下ろされるとその振動がまるで大地を揺らすように、触れてもいない筈の白髪の女性を上空へと打ち上げたのだ。だが即座に追い打ちをかけるとばかりに他の2人が追撃に向かう


「乙女流魔纏拳、雹令脚!」


「乙女流魔纏…、じゃねーや、えっと、びっくり尻尾ぉ!!」


 追撃を阻止するかの如く、足の太い翼の生えた女性と水色の髪の妖精の羽が生えた女性の氷を纏ったかのような蹴りが交差し、黒く長い髪を持った美人に緑色の髪の女性の尻尾が炸裂し防がざるを得なかった。二人の防衛に助けられた白髪の少女は空中で体勢を立て直して地上へと降下する。


「ごめん二人とも」


「大丈夫だよヨーコ」


 二人がそれぞれ組み合い戦っているのを背にヨーコと呼ばれた白髪の女性は走りまっすぐに大男の元に駆け付ける。


「乙女流魔纏拳…風伸手刀!!」


 両手の手刀を大男の目前で振り下ろすと、触れてもいないのに大男の身体からまるで真剣にでも斬られたかのような鮮血が舞い上がった。


「ドギー!」


「ぐっ…大したことはねぇ!たかが薄皮を斬った程度だ!」


 ドギーと呼ばれた大男が力任せに腕を振るうもヨーコはその程度の攻撃はとろく見えるとばかりにひらりと躱し再度手刀を振り下ろしドギーにダメージを与える。だがそんなドギーのフォローに足の太い翼の生えた女性が空中からヨーコの顔面に蹴りを入れる。


「すまねぇなホー」


「間抜けな声出してんじゃないわよ…一気に仕留めるわよ」


 ホーと呼ばれた女性とドギーがタイミングを合わせ、体勢を崩したヨーコを仕留めるべく追撃を叩き込もうとする。


「さっきからヨーコばっかり狙うなぁ!!」


 だがすかさずホーの蹴りにまたも水色の髪の女性の蹴りが交差する。その様子にホーは大きく舌打ちする。だがドギーの動きは止まらない。ドギーの大きな腕がヨーコに振り下ろされる。


「コチャナ!」


「牡羊流飼獣拳、象つ…」


「乙女流魔纏拳、耐岩三脚!!」


 ドギーとヨーコの間に割り込むように、コチャナと呼ばれた緑色の髪の女性がヨーコの前に立つと振り下ろされるドギーの腕に対しクロスアームで防ぎ、その大地をも揺るがすだけの衝撃はコチャナの支える足や尻尾が地面に陥没するくらいの威力にもかかわらず難なく受け止めていた。

 だが乙女流の三人のマークから外れた黒髪の美人、おそらくシュンであろう人が攻撃の構えに入る。


「牡羊流飼獣拳、春駒!」


 全身にエネルギーを纏ったままでの突撃、だがようやくヨーコが体勢を立て直すことに成功し、黒髪の美人の突撃を手刀で受け止めいなす。コチャナもドギーの腕を押し返し、水色の髪の女性…おそらくルチルと思われる女性もホーとの激しい蹴り合いから間合いを取る形で一時仕切り直しとなった。乙女流の陣営からは安堵の息が漏れる。


「よかった。試合とか出てなくて不安だったけど私達の実力も通用しそうだねリナ」


「…どうだろうな。私はこれで終わりとは思えねーぜエフェリス」


 リナが真剣な眼差しで睨む視線、再度6人が取っ組み合う広場のその先には師範代の男の不敵な笑みが見えていた。




 …あらかた彼女達の実力は把握出来ました。もう充分でしょう。…さぁ、我々の奥の手を見せてやりましょう。そしてまだ出てこようとしない師範を引っ張り出すのです。

次回投稿は3/25予定

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