短編5 『六足衆』の活動録その1 後編
陣幕に囲まれた広い修練場のような空間、そこでは全長が5m以上もある三匹のゴラドンと35人程の兵爵達が戦い合っていた。二匹の翼を失ったゴラドンに対し、各15人程の忍装束をした男女『足』が連携し合いゴラドンを仕留めようと奮起している。『足』にはそれぞれおおまかに、強力な一撃を放つ巨大な得物を所持している隊・暗器を所持したり格闘技を得意とし小回りの利く隊・盾や防具などで正面から戦う隊・遠距離から攻撃をする隊・空中からの遊撃を得意とする隊と大まかに分かれどこか『頭』の誰かしらと似ている戦い方を使っていた。
そんな『足』達はゴラドンが翼を失い左右のバランスが取りづらくなったのを狙い片側からの攻撃を執拗に行い、二匹が連携をしないようそれぞれ分かれて戦っている。盾や防具を持つ隊が一匹のゴラドンを抑え込み、遠距離を得意とする隊が牽制射撃をして身動きを取れなくさせる。もう一匹のゴラドンは小回りの利く隊と空中を得意とする隊がそれぞれ地上と空中を制圧し暴れるゴラドンの攻撃をひらりひらりと回避する。そして強力な一撃を有する隊が半数ずつに分かれ、隙を見てゴラドンに強力な攻撃を叩き込んだ。その一撃は決してイジュロウやサシャのような一撃とまではいかないものの、確実にゴラドンに手痛いダメージを与え続けていた。
だがゴラドン達も決してやられっぱなしではなかった。二匹のゴラドンは『足』達の抑圧を振り払うと、雌のゴラドンも離れたところから応じるように三匹のゴラドンの雄叫びが呼応する。その気迫のような怒号に気圧され動きが止まる者達が多い中雌のゴラドンと対峙する五人にとっては子犬が鳴き声をあげているようなものだった。
「うるさいのは…嫌い」
サシャが鉈を振り下ろすと頑丈な鱗ごと腕の肉を一度でバッサリと叩き斬った。その痛みにゴラドンはふらつきながら距離を取る。
「乾坤なる刃…飛翔せよ!」
マホの投げた二つの圏は回転しながらゴラドンの周りをまるでブーメランのように旋回して表面を斬りつける。サシャの攻撃と比べるとその傷は深いものでなくせいぜい鱗や皮を削ぎ落す程度、だがゴラドンにとってはそんな攻撃に対しても嫌がり身動きが取れないながらも必死に避けようと身を縮こませる。さらにマホが鱗や皮が捲れたところに蹴りで追撃を加える。
「よっし、後は俺が一撃で叩き斬って」
「…ふん、毎度毎度隙を見て一撃でとお前の方こそ一芸しか持たぬ愚か者だろ86位」
「…んだとぉ、ならいいぜ。今日は特別に『こっち』で相手してやんよ」
マホやサシャの攻撃を悠々と眺めていた二人、エスティスの挑発に乗ったイジュロウは持っていた八卦刀を背に収め、どこからともなく1m程の、鋸のようなギザギザした刃が両刃になっている剣を二本、まるでスキースティックのように逆手持ちし地面に突き刺す。
「今や俺の方が順位は上なんだよ88位ぃ!!」
そのまま突き刺した剣を軸にまるでパチンコのように反動で思いっきり飛び上がると、ゴラドンの背に一直線に飛び乗って剣の刃を硬い鱗に当てると、そのままギコギコと物凄い速度で固い鱗も中の肉もまとめて痛々しく切り刻む。そんな攻撃に耐えられずゴラドンはまるで悲鳴のような雄たけびを上げながら激しく暴れる。
「全くイジュロウの奴め…わざわざ手の内を明かすような挑発に乗るなど…」
暴れるゴラドンを地上にいるグラムガルドが本来の手の二倍以上はあると思われる巨大な手甲…鉄グローブを装備しゴラドンの首根っこを掴み踏ん張るとゴラドンは首を中心に思うように身動きが取れなくなった。その隙を見てエスティスも上空から水の弾丸のような魔法を放ちイジュロウの切り開けた傷口から身体を貫通させる。
「…62位の余裕。私はまだイジュロウのとこまで順位行ってないのに」
「んのぁっ!?ち、違うサシャちゃん…サシャちゃんの94位だって滅茶苦茶すごいの。い、今だけ、すぐにでも二人の順位追い抜くことだって…」
「いちいち順位言わなくていい…」
どこかイライラしたサシャは翅を広げるとその翅の羽搏きから鱗粉のような物をまき散らし、鱗粉がゴラドンを包み込む。その鱗粉はマホの飛翔する圏による風でさらに巻き上げられゴラドンのいる一点に集中する。それを見たグラムガルドがゴラドンを地面に叩きつけてから離れる。
「さぁ、でっけぇ花火打ち上げるとするかぁ!」
イジュロウが急ぎゴラドンから飛び降り、剣のギザ歯同士を擦り合わせると火花が起こり、それが鱗粉に着火し…直後どおぉんと巨大な爆発となりゴラドンを生きたまま丸焼きにしたのだった。流石にこの衝撃には『足』達や二匹の雄ゴラドンさえも驚き視線を釘付けにしたのだった。
「…随分タフだな」
だが炎の中からは酷い火傷姿になりながらももがき出てくるゴラドンの姿があった。弱り果ててもはや戦うと言うよりも本能のままに暴れているようにしか見えない。
「っふ、随分叩き心地のよさそうな肉になったな」
エスティスとマホが暴れ狂うゴラドンの攻撃をひらりひらりと躱しながら懐に入り込み、ゴラドンの攻撃を紙一重で躱しながらエスティスが拳で連打し、マホが足裏に仕込んである刃で踊るように蹴り斬りまくる。ゴラドンは火傷に攻撃されさらに苦しそうに暴れ回るがそれも徐々に体力の限界だろう振り絞る力が弱くなっていく。
「もう頃合いだろう、あの二人ではなぶり殺しで見ていていたたまれんわい…サシャちゃん。止めを頼むよ」
「…っちぃ、しゃーねーから今回はくれてやるよ。」
イジュロウが剣で、グラムガルドが十文字槍でゴラドンの前足を押さえつけ、そのゴラドンの首の真上にはサシャが飛んでいた。その手に握られた鉈はまっすぐ…ギロチンのようにゴラドンの首に振り下ろされた。その一撃を以てゴラドンは完全に絶命しきったのだ。
「…首刈りの鉈」
五人によるゴラドン討伐は苦戦どころか殆ど圧倒ともいえる、いやむしろイジュロウが八卦刀を使わなかったのを手加減と考えるなら手を抜いて戦っても勝てる実力。それを手負いのゴラドン二匹を30人掛かりで相手している『足』達と比べ圧倒的な戦闘力差であると言えるだろう。
「…ほれ、お主らもさっさとゴラドンを仕留めよ!そんな事ではいつまでたっても名をあげることなど出来ぬぞ」
グラムガルダが発破をかけている傍ら、マホはまるでバネのようなその強靭な足でジャンプするとひとっ飛びで修練場横に立つ城のようなお屋敷の、まさに天守閣を思わせる一番高い部屋に飛び込み、窓から部屋の中へと入っていく。
「…いかがだったでしょうか頭目様」
マホは部屋の奥で、このゴラドン討伐の一部始終を見下ろしていた人物に話しかける。その男はまさに将軍を思わせるような武骨甲冑に完全に身を包み年齢も性別も分からないようにしている。そんな頭目と呼ばれた人物は静かに、『足』達が二匹の雄ゴラドンをなんとか討伐する様子を見届けた後、ゆっくりと地上の何人かを指さす。
「…畏まりました、エスティス及びエスティスの『足』に褒美を準備いたします」
そう言い残すとマホは同じように窓から飛び降りてみんなのところへと戻っていった。頭目の残っている部屋の隅の影、マホが気付いているかどうか定かではないが6人の人影が現れ、ゆっくりと頭目の座る椅子をまるで神輿のように6人で持ち上げる…その様子はまるで『6足昆虫』そのものと言っていいだろう。そのままゆっくりと6人は頭目を神輿上げたまま部屋の扉を開け奥へと言ってしまうのであった。そんな部屋の外では3匹のゴラドン達を処理する『足』達の様子と、イジュロウ達がまたどんちゃん騒いでいる楽しげな様子が繰り広げられていた…。
次回投稿は3/21予定




