欲望まみれの春、財布は秋風
大学三年の 狛江タケルは、今日も言っていた。
「金と女が欲しい。」
深刻な顔で言うから誰も笑わないだけで、内容は深刻でも何でもない。
タケルは自称・野心家。
他称・ただのダメ男。
現実・欲望に正直すぎる大学生である。
タケルはある日、SNSで見つけた「誰でも簡単に稼げるバイト」という怪しい募集に飛びついた。
ーー1時間5000円。
ーー簡単作業。
ーー大学生歓迎。
「来た…俺の時代がついに来た…!」
鼻息荒く会場へ向かうタケル。
受付のお姉さんがやたら優しくてドキドキする。
「では、こちらの箱を——」
お姉さんが渡してきたのは、明らかに重たい鉄の箱。
説明書にはこう書かれていた。
『1時間、箱を抱えて走り続けろ』
タケルは聞いた。
「これ…金入ってます?」
「まぁ、入ってるといえば入ってますね♡」
(現金だ!)
タケルは完全に勘違いして走った。
しかし、その箱の中身は——
1時間後に爆音で鳴るPRイベント用の巨大スピーカーだった。
タケルがキャンパスの中心でバテて止まった瞬間、
ドーーーーーン!!!!
という爆音が鳴り響き、周囲の学生が悲鳴。
「なんだ!?」「爆発か!?」「いや違う、タケルだ。」
タケルは泣きながら5000円を受け取るが、
途中で落として壊したベンチ代2万円を請求され、結果 -15000円。
「俺、金稼ぐ才能ないのか…?」
「最初からないよ。」
通りすがりの男子学生が肩を抱いて慰めてくれた。
なぜか男子には異様にモテるタケルである。
そんなタケルにも、気になっている女の子が一人いる。
文学部の 篠宮さくら。
控えめでふんわりした雰囲気の可愛い子だ。
さくらはタケルのドジなところを「少し可愛い」と思っている。
ただし本人はそのことに気づいてない。
今日も勇気を出して話しかける。
「さくら!今日ちょっと、いい店あってさ!行く?」
「えっ…うん、いいけど……その……」
(もしかして俺に気が……!?)
その瞬間。
「タケル〜!今日、一緒に筋トレしよ!」
「昨日の相談の続き聞いてくれないと〜!」
「タケル、バイクの二人乗りしない?」
男子3人がタケルに群がってきた。
さくらは遠ざかりながら言った。
「……またね、タケルくん」
(また男に邪魔されたぁぁぁ!!)
友人が言った。
「タケル、合コン行くか? 女子4人だ。」
「行く!!」
タケルは意気揚々と向かう。
今日は絶対に成功する。そう誓った。
しかし、開始5分で女子の1人が言った。
「タケルくんってさ、男友達多いよね?」
「え? まあ…」
「男子から告白されるタイプ?」
「される!!」
タケルはなぜか自信満々に答えた。
その瞬間、女子たちの空気が「危険物を隔離するモード」になり、
タケルの前にだけ枝豆しか来ないという事態に。
3時間経過後、タケルは悟った。
「俺…女の子にモテない病なのか…?」
友人(男)は肩を抱きながら言った。
「タケル、おまえはそのままでいいよ…」
(だからなんで男ばっかり…!!)
落ち込んだタケルは夜のキャンパスで座り込んでいた。
すると、さくらが歩いてきた。
「タケルくん、大丈夫?」
「……俺、金も女も手に入らない…」
「でもタケルくんといると、楽しいよ。今日も…いろいろあったけど、笑っちゃうし。」
「さくら…?」
「うん。その……また一緒にご飯、行きたいな。」
タケルはようやく気づく。
(俺…女の子と話す時だけ、理性が全部飛ぶんだ…!)
その時、背後から声が。
「タケル、今日の筋トレどうする?」
「ご飯行くなら俺も行こうよ。」
「タケル、今夜空いてる?」
男たちが集まってきた。
さくらは笑いながら言う。
「……タケルくんって、ほんと人気者だね。」
タケルは叫んだ。
「違う!!俺は金と女が欲しいんだーーー!!」
キャンパスに響き渡る哀愁の絶叫。
しかし、さくらはくすっと笑ってこう言った。
「じゃあまず、私とご飯いこっか。奢るよ?」
こうしてタケルは悟った。
人生、欲望の前にまず人間関係である。
(あと男にはなぜかモテる。)




