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ふたりの場合 木崎×花穂編 第3話

作者: 遠野

「それで、最近どうなの?」


先輩に連れられて、職場近くのカクテル・バーにやってきた。


あまりお酒にも強くないし、友達と居酒屋チェーンくらいにしか入ったことがない私は、所在なげにキョロキョロと薄暗い店内をうかがう。


先輩が頼んでくれたカシスオレンジが、目の前に置かれる。

先輩は自分の前に置かれたギムレットに手をのばしながら、楽しそうに尋問を続ける。


「ちょっとは進展した?」


主語がないけれど当然、私と係長の関係の事だ。

なんだかんだあったけれど、私と木崎係長は付き合うことになった。

会社内でこれを知っているのは、この岡本先輩と係長の同期の田島さんくらい。

だから、この話ができるのは先輩くらいなのだ。


私も先輩に倣ってグラスに手をかけ一口、口に含む。

甘酸っぱいオレンジの味が口にひろがるけれど、私の心は沈んだまま。

「それが。まだ、……手も握ってくれないんです」


「はぁ?今、なんて?」

声を裏返して先輩が、こちらへ身を乗り出してくる。

「握手みたいなのを、一回したぐらいで……」

グラスをまわし、ゆらめくカクテルが私の今の気持ちのようで、ぼんやり眺めながら答える。


「はぁ……。バカ崎、バカだバカだと思ってたけれど、そこまでバカだとは」

先輩は背もたれにもたれて、天井を仰ぎ見る。

「大学のときもさ、それで振られてるの。あいつホント、バカ」

係長のことをそこまで言えるのはたぶん先輩だけだろう。

二人が仕事以外であまりに仲がよかったので、最初は恋人同士と勘違いしたくらいだから。


私はカシスオレンジを一気飲みして先輩に向き合い、いままで心の中でくすぶっていた思いをぶちまける。

「私、子供だと思われているんでしょうか?……そりゃ、五つも離れてたら、子供かも知れませんけど!私だって、もう25ですよ?!」


「うーん。それはちょっと違うと思うんだけど……。そだ!」

私の勢いに押されて多少たじろぎながらも、何かを閃いたらしい顔で私をみる。

「長谷川、耳貸して」

「はい?」

酔いが回ってきたのか、先輩の素敵なアイデアが心をくすぐったのかはわからないけれど、私は力強く立ち上がり鞄から携帯を取り出した。





「長谷川、どうした?急に呼び出したりして?」

まだ会社にいた係長を近くの駅に呼びだした。慌てて来たのか、多少息が上がっているようにも見える。

私はそんなのにかまわず、勢いだけで話を続ける。

「係長!お願いがあります!」

「え。……って、お前酔ってるのか?」

係長は眉をひそめながら、私の顔を心配そうに覗き込む。

「酔ってません!」


酔ってなかったら、こんなこと言えません。

「……で、なんだ。お願いって」

ため息と一緒に係長がつぶやく。

「私のこと名前で呼んでください!」

「はぁ?なんだ?急にどうした?」

「さぁ!早く!」


「……か、花穂?」

躊躇いながらも係長が私の名を呼ぶ。

「はい!」

私は勢いよく返事をして係長の胸に飛び込む。そして、酔った勢い、という呪文を何回も心の中で唱えながら囁いた。


「今日は帰しません」

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