81:家宝、公爵家やめるってよ
本日2話更新です!
黒竜討伐に行ったはずの私たちは、なぜか黒竜を一頭、ネルテラント王国に連れて帰ることになってしまった。
まぁ、結果として魔の山から飛竜種がすべていなくなり、オウカ神聖王国滅亡の危機が去ったことには変わりないのだけれど……。
ちなみに聖王ランドルフはネルテラント王国へ連れて行かれて、現在牢屋に入っている。
彼がやらかした多くの悪事は国内外に知れ渡り、国内は混乱状態だそうだ。周辺諸国からも献上品や使者の訪れがなくなり、国外へ流出する民も増えているらしい。
忍集団や城の上層部の方々が必死に対応に追われているけれど、オウカ神聖王国がこれからどうなるのかはまったくわからない。
逃走した聖女ヴェネッサも城下で発見され、オウカ神聖王国の牢屋に収容されたそうだ。
今後は維持する結界もないので、初代聖女の血筋の人々への名声もなくなるけれど、重責もなくなったので自由に生きられるでしょう。
イセル坊ちゃまももう、聖人であることを理由に狙われることはない。
そして、フィンドレイ公爵領に戻ってきた私は……。
▽
「イセル坊ちゃまの安全も確保しましたし。私、魔導人形のフリをした責任を取って、フィンドレイ公爵家を辞めようと思っているんです」
〈馬鹿じゃないの、マグノリア〉
〈僕は知ってたよ。人の子なのに人の子じゃないフリをしてるって聞いた時から、マグノリアは相当な馬鹿だと思ってた〉
私の真剣な進路相談に、ピヨン様は私の頭の周囲をぐるぐる飛び回りながら答えた。
そして黒竜の息子であるハヴァは――……十歳くらいの少年の姿でソファに寝転び、小馬鹿にした表情をこちらに向けている。
イシュマエルが『住居もそれほど広い敷地は必要ない』と言っていたのは、闇属性魔法で姿を変えることが出来るからだったのだ。
今のハヴァはイセル坊ちゃまの兄だと言われても納得してしまえるような、黒髪と碧眼の美少年だ。
ハヴァに浄化をかけるかどうかで、一度話し合いが行われた。
イセル坊ちゃまが一度浄化をかけてしまうと、魔物は完全に使役されてしまう。ハヴァが私に戦いを挑むことが出来なくなってしまうのだ。
でも、ほかの人間には間違っても襲い掛かってほしくない。
ということで、以前ピヨン様から頂いて金庫に保管されていたオリハルコンを使って、イセル坊ちゃまが少々複雑な聖具を作ってくださった。
ハヴァが私以外の人間に攻撃したら、その瞬間に強制睡眠してしまう、という首輪である。
こんな天才的なものを作れるだなんて、さすがはイセル坊ちゃまです……!
今もハヴァの首にはオリハルコン製の首輪が嵌められ、キラキラと輝いていた。
ちなみにオリハルコンは将来イセル坊ちゃまが大きくなったら剣に仕立てる予定だったのだけれど、今回使ってしまったので、ピヨン様がさらに大きなオリハルコンの塊をくださった。剣どころか盾まで作れそうな量である。
ピヨン様は〈最終的に、鎧も作れる量を用意するわね〉とおっしゃっていた。
〈それで、マグノリアの退職についてだけれど。イセルはどう思う? 賛成? 反対?〉
室内にいるのは私とピヨン様、ハヴァとイセル坊ちゃまだ。
イセル坊ちゃまはイシュマエルからもらった宝珠に両手を翳し、最近ハマっている遊びをしている。聖力を練り上げて、未来視をするのだとかなんとか。
「むむむ! マグぅちゃんのみらいがわかったの!」
「え!? 本当ですか、イセル坊ちゃま!?」
〈百叩きの刑で許されて、イセルの子守り侍女を続行とかじゃない?〉
〈あの男なら土下座で許しそうだけれど?〉
「マグぅちゃんはいますぐ、りょこうのじゅんびして!」
「え? 旅行の準備ということは……、やっぱり公爵家を出ていく未来が視えたのですか?」
〈えぇ~? 嘘でしょ?〉
〈まぁ、マグノリアが出ていっても、僕はまた戦いを挑みに行くから。好きな場所にいれば〉
「マグぅちゃん、いそいでなの! じかんがないのよ!」
「そんなに時間がないのですか? しょ、承知いたしました! すぐに準備してきます!」
とはいえ、少ない私物はずっとトランクに入れっぱなしだし。
それ以外にフィンドレイ公爵家を出ていく準備となると、やはり、魔石を売り払った代金や、いただいた魔石のブローチやアクセサリーの返却でしょう。
まずは銀行へ行って、預けっぱなしだったお金を下ろしてこないと……!
私は急いで隠し通路に向かい、街に行った。
▽
「新しい侍女服が出来ましたから、マグノリアの衣装ダンスに入れておいてあげましょうか」
普段はそんな雑用など他の者に任せる侍女長だが、いつもよく働いてくれる可愛い魔導人形のために、少し気を回したのが悲劇の始まりだった。
「あら? 衣装ダンスの奥に何かあるわ。何かしら……」
侍女長が拾ったのは一通の手紙だった。
魔導人形でも文通する相手がいるのかしら? と、不思議に思って宛名を見ると――……封筒の表にハッキリと『退職願』と書かれていた。
「まぁ!? どういうことでしょう!? あの子の身にいったい何が……!?」
慌てて封を切ると、中の手紙に書かれてあったのは、マグノリアからのとんでもない告白だった。
「なっ、なんてことなの……!! テオドール様!! テオドール様は今どちらにいらっしゃいますか!?」
マグノリアが街に行っている間に、こうして彼女の秘密が屋敷中に広まってしまったのである。
▽
銀行から急いで帰り、隠し通路から出ると、なぜかテオドール様が待ち構えていた。
そういえば以前オリバー様に、隠し通路の存在がバレたんでしたっけ。それでテオドール様も知っているのね。
テオドール様の傍には案の定オリバー様がいて、ほかにも家令や侍女長、イセル坊ちゃまとピヨン様とハヴァの姿がある。
こんなに大勢でどうしたのかしら……? なぜか侍女長が泣いていらっしゃるし、何か緊急事態かも。
いえ、そもそも私が勤務中に街へ出かけたことがバレて、大問題になってしまったのかも……!
「もっ、申し訳ございません! 勤務中に屋敷を出てしまい……!」
「マグノリア、こちらに来なさい」
テオドール様は難しい表情をして、私を手招く。
土下座出来るスペースを確保しつつ近付くと、彼は一通の封筒を私の目の前に掲げてみせた。
私が書いた退職願だ。
衣装ダンスの奥に隠してあったはずなのに、どうしてここに……!?
「マグノリア、ごめんなさい……! あなたの部屋に新しい侍女服を運びに行ったら、それを見つけてしまったのです……! ああっ、まさかあなたが人間だったなんて……!」
侍女長が嗚咽を零しながら言う。
そうか、それで泣いていらっしゃったのね……。
「テオドール様! すべては侍女長である私の責任です! 面接時に私がこの子を魔導人形だと勘違いしたばかりに、こんなことになってしまったのです……!」
「いえ、テオドール様! 妻だけのせいではありません! 私が『ラインワース領のメイソン氏に魔導人形を依頼した』と伝えていたせいで、妻に先入観を持たせてしまっていたのです! だから妻は通常ではありえないミスをしてしまって……! 妻だけではなく私のことも罰してください、テオドール様!」
侍女長と家令の謝罪に、罪悪感で死んでしまいそうだわ……!
オリバー様がちょっと呆れ混じりに、「まぁ、いいじゃないですか、テオ様。これからはマグノリアちゃんを人間として雇うってことで……」と言うと、侍女長と家令が「知っていたのならもっと早く報告なさい、オリバー!」「お前というやつはいつもいつも調子のいいことを言って! もっと真剣に……」などと激怒する。
私のせいで親子喧嘩に発展させるなんて、とんでもないわ……!
「いっ、いいえ!! すべて私が悪いのです!! 私が臆病で愚かだったばかりに、皆様に嘘を吐いてしまいました!! 本当に申し訳ございません!!」
その場で土下座しようとすると、テオドール様が止めた。
「……では、きみは本当に人間なんだな?」
テオドール様の瞳には、肯定を期待する色と、不思議な熱っぽさが浮かんで見えた。
こんな時なのに、私はテオドール様の瞳をいつまでも見つめていたいような気持ちになる。
ルビウスに惚れ薬を嗅がされた時に似ているような……。
すぐにハッとして、私は正気に返る。
「はい。私は魔導人形ではありません。ただの人間です」
「……そうか。そうなのか」
テオドール様の声音にどこか安堵が混じっているような気がした。
彼は続いて質問する。
「どうしてそんな嘘を吐いたんだ?」
「……私は昔から人との会話が苦手で、相手の気持ちを想像するのも下手でした。フィンドレイ公爵家に来る前に、身内から『お前は人間に向いていない』と言われたことが引っ掛かっていて……。侍女長に魔導人形に間違えられた時、いっそそちらのほうが楽かと思ってしまったのです」
「魔が差したということか」
「はい……」
私は銀行から下ろした金貨の詰まった大袋をドスンッ、とテオドール様の前に置く。
「今まで騙していて、本当に申し訳ございませんでした! すべての責任を取って退職いたします! 今まで本当にお世話になりました! 皆様、どうかお元気で!」
私はそのまま深く頭を下げる。
そして、ハヴァが〈はい。部屋から取ってきた、きみの荷物〉とトランクを手渡してくれたので、私はその場から一目散に逃げ出した。
後ろから私を呼び止める声がいくつも聞こえる中で、イセル坊ちゃまの「マグぅちゃん、いってらっしゃい~!」という朗らかな声が耳に残った。
本日、完結まで更新しております!
続きをどうぞ→




