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78:黒竜①



 ワイバーンを使役したことで、黒竜討伐の先行きが非常に明るくなった。

 私たちも空中戦が可能になったからだ。


「コツさえ掴めば、ワイバーンに騎乗するのも簡単ですね」


 イセル坊ちゃまのお願いで人間を騎乗させてくれるようになったワイバーンに乗り、私は空中を自在に飛び回る。

 すると、別のワイバーンに騎乗しているギルドマスターの笑い声が聞こえてきた。


「ワハハハハ! さすがは殺戮人形(キリングドール)だな! 儂なんかバランスを取るにも一苦労だぞ! 他の冒険者たちも、ほれ、墜落しかけている奴もおるぞ!」


 ギルドマスターの言葉に周囲を見渡せば、確かに、墜落しそうになっている冒険者の姿が見える。

 とはいえ、二、三階建ての建物くらいの高さだし、そう簡単には死なないでしょう。……死にませんよね? 私は全然平気で飛び降りられる高さなのだけれど……。


 もう少しワイバーンの飛行に慣れたら、イセル坊ちゃまたちもお乗せしようと思っていたけれど、止めておいたほうがいいみたいだわ。冒険者の中でも特にバランス感覚の良い者だけが、上手く飛行出来るらしい。


 それでも、墜落しそうになっている者も含めて冒険者全員が、「すげー! ドラゴンライダーや竜騎士は物語だけの存在だったと思っていたのなぁ!」「空を飛ぶのに憧れていたのよ! とっても嬉しいわ!」と、ワイバーンの騎乗にはしゃいでいた。


 地上にいるイセル坊ちゃまはテオドール様に抱きかかえられて、「マグぅちゃん、すごいのよ! いちばんじょーずにドラゴンにのってるの!」とキラキラした瞳で空を見上げている。


 反対にテオドール様は『魔導人形は上空の気圧に耐えられるように作られているのだろうか……?』と不安げな様子だったけれど。

 一応、イセル坊ちゃまがワイバーンに騎乗している者にそれぞれ結界を張ってくださっているので、人間でも魔導人形でも大丈夫だと思います。


「ギルドマスター。これからどう動きますか?」

「そうだな。ワイバーンの騎乗が得意な者は上空から飛竜種を警戒し、それ以外の者は地上でフィンドレイ公爵たちを護衛しながら進もうか。儂とマグノリアはもちろんワイバーン組に回る」


 ギルドマスターの提案を聞いていると、突然、ドシンッ!!! と、ものすごく大きな音が聞こえてくる。

 地上では激しい揺れを感じているようだ。周囲の木々が振動し、テオドール様がイセル坊ちゃまを庇ったり、オリバー様やロイド様たちが揺れに耐えようと地面にしゃがみ込んでいる姿が見える。


 音の発生源に視線を向ければ、揺れの正体がすぐにわかった。緑色の鱗を持つ、特大の飛竜種――森竜(しんりゅう)だ。


「なんてデカさだ……」

「ワイバーンで飛行出来るようになったからって、あれと戦えるのかよ……?」


 ざわつく冒険者たちに、私はボソッと答える。


「森竜は体が大きいだけで、黒竜の配下の中でもワイバーンの次に知能が低いです。火竜(かりゅう)雷竜(らいりゅう)のような魔法攻撃はありませんから、それほど難しくはないと思います」


 幸い、ワイバーンという機動力もあるので、一回気絶させてしまえば、あとはイセル坊ちゃまに浄化をお願いするだけでいい。

 森竜も使役することが出来たら、その先にいるであろう火竜や雷竜とも戦いやすい。

 なにせ、森竜の固い鱗は魔法攻撃を弾くのだ。森竜に炎や放電から守ってもらえれば、火竜や雷竜に近付けるでしょう。


「さすがは殺戮人形だな! あれを『それほど難しくない』と言えるとは!」

「心臓が鉄で出来ているに違いねぇ! 彼女の指示に従っていれば、きっと森竜だろうと倒せるだろ!」


 なんだか冒険者たちから尊敬の眼差しを向けられているのが不思議だけれど……。

 皆さんの戦意が戻ってきたみたいなので、まぁいいですよね。


 というわけで、私が提案した作戦は単純だ。

 森竜の周囲をワイバーンで旋回し、翻弄している隙に死角から攻撃して倒すのだ。

 魔法攻撃が効かないので、格闘や剣などの物理的攻撃が得意な冒険者が攻撃の主体となる。


「よし、全員、作戦を理解したな!? では、森竜討伐にかかれー!!」


 ギルドマスターの合図を皮切りに、私たちは森竜に挑んだ。





 森竜を無事に倒し、イセル坊ちゃまの浄化のおかげで使役することが出来た。

 森竜は知能が低めだとは知っていたけれど、まさか、旋回するワイバーンに目を回して倒れるとは思わなかったわね……。

 その後、火竜や雷竜にも出くわしたが、どちらも上手いこと仲間にすることが出来た。


 大所帯で魔の山を進んでいくと、気が付けば岩や砂利ばかりの荒涼とした景色が続いている。どうやら山頂が近くなってきたらしい。


 ワイバーンに騎乗し続けているとお尻が痛くなってきたので、私はほかの冒険者と交代して、地上を歩くことにした。

 同じように交代した冒険者が何人も出ている。

 やはり鞍がないと長時間の騎乗は難しいわね。今後ワイバーンに乗る時は、専用の鞍を用意したほうがよさそうだわ。


 イセル坊ちゃまをおんぶしながら黙々と歩いていると、横からオリバー様が話しかけてきた。


「ねぇ、マグノリアちゃん。確か聖女ヴェネッサの話では、黒竜が複数、それも三頭もいるんだよね?」

「はい。その可能性が高いらしいです」

「まさか魔の山に封印されていた黒竜が妊娠していたなんてねぇ。俺、話を聞いた時はびっくりしちゃったよ」


 そうなのだ。そもそも黒竜が魔の山に封印されるに至った原因が、黒竜の出産準備のせいだったらしい。


 黒竜のメスは飛竜種の中で一番気位が高く、自らが妊娠すると、番のオスや配下のドラゴンたちを使って、子育てをする環境を徹底的に整えるのだそうだ。

 魔物や動物の巣作りのレベルではない。

 過去の歴史では、黒竜が人が暮らす街を乗っ取ったり、国が所有権を持っている山を乗っ取ったりしたこともあるらしい。

 魔の山も元々は人間が住んでいる土地だったのだけれど、黒竜のメスの出産のために乗っ取られてしまったそうだ。


 出産前で特に気性が荒い状態の黒竜のメスと、番を守るためにやはり気性が荒いオスと、そして序列に従ってどんな命令も聞く配下の飛竜種たち。

 こんな横暴な生き物の群れに、当時の人々はすごく頭を悩ませたでしょう。下手に戦いを挑んでも黒竜たちの餌になるだけだし。


 そんな苦しい状況の中に現れたのが、異世界からやって来た初代聖女サクラなのだ。

 彼女が結界を張ってくれたことで、人の住処を奪われることもなく、餌になる心配もなくなって、人々は本当に感謝したのでしょう。国の有様が変わるくらいに。


「まぁ、でも俺たちにはイセル坊ちゃまがいるから、ちゃちゃっと洗脳……じゃなくて浄化して、黒竜たちに『人のいないところで暮してくれ』って命令すれば、すべて解決ってわけだ! それなら楽勝じゃんね?」


 オリバー様が気楽に言うと、テオドール様が呆れたように溜息を吐く。


「そんなに簡単だといいんだがな……」

「大丈夫ですって、テオ様! 我が家の跡取りイセル坊ちゃまは、世界だって制しちゃうかもしれないほど才能に溢れてますから! ねっ、イセル坊ちゃま! 頼りにしてますよ!」

「うん。ぼく、オリバーくんのこともたすけてあげるのよ。まかせて」

「きゃー! イセル坊ちゃま、かっこいい!」

「気色悪い声を出すな、オリバー……」


 ふいに、頭上から大きな影が差した。

 艶やかな黒い鱗と翼を持つ飛竜種が、優雅な動きで近くの岩の上に着陸する。

 どうみても黒竜だわ。


「いやあああああ!!! もう黒竜が現れたあああああ!!!」

「オリバー様。イセル坊ちゃまとピヨン様をお願いします」

「わかったああああああ!!! マグノリアちゃん、早く黒竜をボコボコにしてえええええ!!!」


 ガントレットを嵌めた拳を構えて、私は黒竜の前に立つ。

 ほかの冒険者たちやワイバーンに騎乗している者たちも、すぐに戦闘態勢を整えたようだ。森竜たちもきちんとこちらの指示に従っている。


 すると、黒竜が大きな口を開けた。


〈へぇ……。僕の配下たちが人間に従っているだなんて面白いな。それだけ、きみたちが強いってこと?〉


 黒竜は妖精のピヨン様のように、人語を「ぎゃああああああ!!! 黒竜が喋ったあああああ!!!」

 ……オリバー様の絶叫で思考が一瞬止まってしまったけれど。

 黒竜が人語を操った。


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