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77:魔の山



 魔の山付近に到着すると、たくさんの魔物が大移動をしていた。

 どうやら飛竜種の出現に驚き、近隣の森や山から逃げてきたらしい。スタンピードだ。


「それほど強い魔物の姿は見えないが、この数は厄介だな……」

「このまま放っておけば、周辺の領地にまで被害が出るだろう」

「魔の山に向かう組と、スタンピードを押さえる組に分けますか?」


 まずはこの魔物の群れを越えなければと、ギルドマスターやテオドール様と相談していると。


「マグノリア。俺たち忍集団はここで離脱する」


 ルビウスが話しかけてきた。

 彼の後ろにはトレフセンさんやフジバヤシさんなど、城に残らず同行してくれた忍集団がいる。


「俺たちは忍者であって、飛竜種と戦えるような凄腕の冒険者ではないからな。ここでスタンピードを押さえる役に回るよ。適材適所さ」


 テオドール様とギルドマスターにも意思を確認し、スタンピードはルビウスたちに任せることになった。


「では、魔物たちをお願いします」

「ああ。任せてくれ。……あと、さ。もう一つ言いたいことがあって」


 ルビウスは突然、勢い良く頭を下げた。


「マグノリアにはいろいろ迷惑をかけて悪かった。すべてが終わったら償いをする。だから……、黒竜討伐を頼む」

「謝罪を受け取ります。黒竜討伐はお任せください。イセル坊ちゃまとともに頑張ります」

「……ありがとう。フィンドレイ公爵がいなかったら、俺、本気でマグノリアを狙ったのになぁ」


 彼は最後までそんな冗談を言うと、忍集団と一緒にスタンピードを押さえに行った。

 ……テオドール様がいなかったらって、どういう意味なのかしら?


 少々の謎を残しつつも、忍集団が魔物を引き受けてくれたおかげで、私たちは力を消耗せずに魔の山に辿り着く。


 魔の山は飛竜種が棲みやすい火山のため、麓から中腹までは木々が鬱蒼と生い茂っているが、山頂は冷え固まった溶岩が剥き出しになっている。

 聖女ヴェネッサの話によると、魔の山が最後に噴火したのは五百年ほど前なので、火口にマグマがあるわけではないらしい。

 それでも有毒ガスが発生している可能性はあるので、イセル坊ちゃまが私たちの周囲に結界を張ってくださった。


「イセル坊ちゃま。聖力の使用にお疲れになったら、私たちのことは気にせず、すぐにでも結界を解除してくださいね」

「ぼく、これくらい、ぜんぜんへいきなのよ!」

〈マグノリアったら心配性なんだから。これくらい、イセルには本当になんでもないわよ〉


 さすがはイセル坊ちゃま、ということですね。うん。


 私たちは結界に守られながら魔の山を登っていく。

 人が通れるような道はなく、地図もないため、斥候の得意な冒険者が先行する。

 すると、斥候が突然悲鳴を上げた。


「うわぁぁぁ! ワイバーンが現れた! それもかなりの大群だ!」

「「「「「ギェェェェェェェェェェ!!! ギェェェェェェェ!!!」」」」」


 フィンドレイ公爵領に一頭現れた時でも大変だったのに、ニ十頭はいるみたいだわ。


 幼いイセル坊ちゃまに血生臭いシーンを見せずに、どうやってこの数のワイバーンを倒せば……。


「イセル坊ちゃま。とりあえず私が結界の外に出ますので、その間、目を瞑って十を十回数えていただいてもよろしいでしょうか?」

〈子供騙しにしても手抜き過ぎるわよ、マグノリア……。そんなに心配しなくても大丈夫。今のイセルの結界なら、どうせワイバーンなんて――……〉


 ピヨン様が話している最中に、ワイバーンの群れが私たち目掛けて急降下してきた。


 結界の中で慌てる私たち(イセル坊ちゃまとピヨン様以外)を尻目に、ワイバーンはこちらに攻撃を仕掛けようとして――……バンッッッ!!! と、結界に正面からぶつかって倒れた。


 どうやら脳震盪を起こしたらしく、ニ十頭以上のワイバーンが地面に伸びている。


「……とてつもない強度ですね」

〈イセルの結界が素晴らしいのもあるけれど、こいつらは狂暴だけれど知能がないからこんなもんよ。さぁイセル、今のうちにワイバーンを浄化しちゃいましょ! 黒竜を浄化する練習台になるでしょ!〉

「うん! わかったの、ピヨンちゃん!」


 まだ火口付近ではないし、短時間なら結界の外に出ても大丈夫だろうと、イセル坊ちゃまが結界を解除する。

 そしてワイバーンに近付いた。


 イセル坊ちゃまの浄化を見守っているテオドール様とオリバー様とロイドさんが、小声で会話をする。


「……イセルが魔物を浄化すると、肉体ごと消滅するのだろうか?」

「イセル坊ちゃまが『悪いもの』と判断したものを消滅させるんですよね? 可能性は高そうですね~」

「ワイバーンの素材が取れないのは少々もったいない気もいたします」


 それを聞いていた冒険者やギルドマスターも、「今のうちにワイバーンをこっそり何体か貰っておくか?」「それは報酬の横取りになっちまうからダメだ」と言いつつ、物ほしそうな顔で、ひっくり返っているワイバーンを見つめている。


「じゃあ、きれいきれいするね~。えいっ!」


 イセル坊ちゃまがワイバーンに触れて、聖力を流すと……。


「ギュルッ、ギュッギュギュ~ッ♡♡♡」


 ワイバーンの肉体は消えなかった。

 むしろ、さっきは『動くもの、すべてが敵! おれ、倒すぜ!』という攻撃的な態度だったのに、大きな瞳をキラキラ輝かせて、イセル坊ちゃまに全力で甘えている。しゃがれた声で精一杯かわい子ぶっていた。


「イセル坊ちゃま、これはいったい……? ワイバーンに何をされたのですか?」

「このこがね、ぼくたちにやさしくなりますようにって。『ぼくたちをきらい』ってきもちを、きれいきれいしたの!」

「まぁ……! さすがはイセル坊ちゃまです……!」


 なんて素晴らしい力でしょう!


 背後でテオドール様たちが「……なるほど。洗脳だな」「ひぃ……っ! イセル坊ちゃまの将来が空恐ろしい……っ!」などと騒めいていたけれど。


〈ふぅん。イセルらしい浄化の方法を見つけたのね。いいじゃない。じゃあ、全部のワイバーンを味方にしちゃいましょう!〉

「うん!」


 というわけで、イセル坊ちゃまはニ十頭以上のワイバーンをすべて使役してしまった。


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