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67:尋問①



 オリバーさんとロイドさんはすぐに部屋に突入してきた。


「合図があったから来たけれど、もう作戦成功しちゃったわけ? さすがは優秀なマグノリアちゃんだね~」

「カッターモール様はすでに拘束済みですね。お見事です、魔導人形氏」


 なんだか二人から、囮作戦をサクッと成功させたと勘違いされていたので、私は慌ててブンブンと首を横に振る。


「いえ。一時危うかったのですが、イセル坊ちゃまが持たせてくださったテオうさちゃんのおかげで難を逃れました」

「えっ!? ヤバい時なんて、いつあったの!? マグノリアちゃんはずーっと無表情だったから、俺、分かんなかったよ!? あっ、そうか!! ピンチの時でもマグノリアちゃんは無表情だったか……っ!!」

「どんな時もお強い魔導人形氏が危うかったとは、カッターモール様は何を仕掛けてきたのですか?」


 心配してくださる二人に説明するために、私はルビウスへと近付く。

 ルビウスはブスッとした表情をしていて無言だったが、私はササッと彼の身体検査を行った。

 案の定、九曜サクラの紋が入ったいくつかの武器とともに、香袋が出てきた。


「すでにイセル坊ちゃまのおかげで浄化済みですが、こちらのお香に、思考力低下や血行促進、性欲増進などの効果があったようです」

「あー、なるほど。媚薬ってわけか。色男の切り札ってわけね」

「確かに媚薬では、いくら腕っぷしが強くても太刀打ち出来ませんね。魔導人形氏がご無事で本当によかったです」

「見守ってたのに気付かなくってごめんね、マグノリアちゃん。マジでイセル坊ちゃま様様だよ~」


 本当にイセル坊ちゃまの助けがなかったら今頃どうなっていたことか。

 私たちは揃って安堵の溜息を吐く。


「じゃあ、俺、テオ様と騎士団を呼んで来るから! 護衛長はカッターモール様を見張ってて! マグノリアちゃんは休憩してていいよ!」

「はい」

「承知いたしました」





 テオドール様や騎士の方々がやって来ると、ルビウスはそのまま王城の牢屋へ連行された。


 テオドール様はルビウスが私に媚薬を使用したと聞くと、とても怖い顔をして「我が家のマグノリアが魔導人形だから問題なかったものの、男として最低だな」と、ルビウスに軽蔑した眼差しを向けていた。

 背後にいたオリバー様がなぜか青い顔で、「真実がバレたらマジで大激怒だろうな……」と呟いていた。

 きっと私の人間バレに関してよね。いずれ謝罪をするつもりだけれど、私もこんなふうにテオドール様から軽蔑の目を向けられるのでしょう……。ひぇぇぇぇん……。


 牢屋には一度、クリストファー国王陛下とデボラ王妃殿下も顔を出したけれど、使節団のほかの方々にも取り調べをするために夜会は中止となり、その対応のためにすぐに執務室に戻っていった。


 そしてテオドール様や騎士団の手によって、ルビウスに長い尋問が始まる。

 しかし、夜を徹してもルビウスは決して口を割らなかった。

 騎士の厳しい問いかけにも、テオドール様から激しい怒りをぶつけられても、何一つ答えない。

 さすがは忠誠心の篤い忍者だわ。


 テオドール様が冷たい表情を浮かべ、ガンッと牢屋の鉄格子を蹴った。

 大きな音にもルビウスは反応を示さず、ただ床に視線を落としているだけだ。


「カッターモール氏、ご自分の立場はおわかりですかな? あなたはオウカ神聖王国使節団の一人として我がネルテラント王国と友好関係を築くためにいらっしゃったのに、フィンドレイ公爵家の家宝であるマグノリアにハニートラップを仕掛けた。私の甥のイセルを誘拐するために。公爵家の後継者を誘拐だなんて、国家間の対立に繋がりますよ?」

「…………」

「あぁ、国家間で対立しても構わないとお考えなのですね。あなた方の目的は初めからイセルを手に入れることだけで、同盟が破談しようが国交断絶しようがどうでもよかったのでしょう。ですがイセルは絶対に渡しません。あなた方はイセルから両親を奪った。これ以上、あの子から何も奪わせはしない。必ずや証拠を手に入れて、聖王ランドルフ陛下に罪を償っていただく……っ!」

「…………」

「そもそもなぜ、あなた方はイセルをほしがるんだ!? 神聖王国内に聖女の血筋などほかにもいるのだろう!? 現に今、サブリナ様の妹が聖女の座に着いていると聞いている。次代がほしいのなら、その妹に期待すればいいだろう!!」

「テオドール様」


 私は激高しているテオドール様に近付き、声をかける。

 するとテオドール様は怒声をやめて、一度深呼吸をした。


「……どうした、マグノリア?」

「オウカ神聖王国がなぜイセル坊ちゃまを手に入れようとしているのか、私の推測をお聞きください」


 まだ確証はない。

 でも、現時点で集められた情報を元にして組み立てれば……、オウカ神聖王国が聖人や聖女を集めて、その聖力を使って飛竜種を操り、他国への侵略を企てようとしていると考えられる。

 あまりにも恐ろしい話だから、確証がない段階で口にしたくないけれど……。

 でも、さすがにこの推測を口にすれば、ルビウスに揺さぶりをかけられるでしょう。


 私は覚悟を決めて口を開いた。


「おそらくオウカ神聖王国は、他国への侵略を企てているのだと思います。きっと、聖力で飛竜種を操る方法が見つかったのでしょう。オウカ神聖王国の周辺国で飛竜種の目撃情報が増えていると、冒険者ギルドのマスターがおっしゃっていました。オウカ神聖王国は周辺国から武器を集め、騎士団の訓練も増えているとも。イセル坊ちゃまを狙うのも、侵略戦争のためかと思います」

「イセルを戦争の道具にするというのか……? なんと外道な!」


 私の推測にテオドール様はさらに怒り心頭に発した。

 ずっと下を向いていたルビウスも顔を上げる。

 ルビウスは慌てたように鉄格子に近付き、変に上擦った声を出す。


「ちっ、違う……!! そんなんじゃない!! 俺たちは、少なくとも俺は……っ」

「ではイセルを何に利用するつもりだというんだ? 侵略戦争よりは多少はマシだとでも宣うつもりか!?」

「……っ……」

「早く言え!!」


 ルビウスはまた口を閉ざしてしまう。

 テオドール様が何度怒鳴ろうと無駄だった。


 ……侵略戦争のためじゃないのなら、ほかになんの理由でイセル坊ちゃまを手に入れようとしているのかしら?


 このまま膠着状態が続くかと思われたが、そこへ、意外な来訪者がやって来た。


「おはよーございます、テオおじさま、マグぅちゃん! ぼくとピヨンちゃん、みんなのおてつだいにきたのよ!」

〈あなたたち、もう朝よ? まだ犯人の口を割らせることが出来ないの?〉


 イセル坊ちゃまとピヨン様である。

 その後ろには、「お止めしたのですが、妖精の不興を買うわけにもいかず……」と途方に暮れた顔をする侍女長の姿もあった。

 どうやらイセル坊ちゃまは朝の身支度も朝食も終わり、それでもまだ誰も戻ってこないから、心配して牢屋まで覗きに来てくれたらしい。


 でも、四歳児に尋問を見せるわけにはいかないわ。

 イセル坊ちゃまとピヨン様を説得して、お部屋に戻っていただかないと……!


〈ねぇイセル、あの男に浄化を使ったら? そしたら聖王に対する忠誠心なんてなくなって、あっさり自白するでしょ〉

「わかったの、ピヨンちゃん! あのおにーさんのこころをきれいきれいするのね!」

「え? イセル坊ちゃま? ピヨン様?」


 突然、イセル坊ちゃまが聖力を使い始めた。

 イセル坊ちゃまが翳した両手から光の玉が生まれる。

 いつ見ても綺麗な光だわ。見ているだけで心が洗われる。


 イセル坊ちゃまは美しい光の玉を、まるでボールを投げるように、ぽーんと飛ばした。


「えいっ! キラキラ、とんでけー! おにーさんのわるいこころをきれいきれいするのよー!」


 光の玉はふよふよと頼りなく空中を進んでいったが、鉄格子を通過し、驚きに固まっていたルビウスの体にぽよんっと当たると、彼の全身を包み込んだ。

 そして光がすべてルビウスの中に吸収されると――……、彼は憑き物が落ちたかのようにスッキリとした表情を浮かべ、そのまま見事な土下座をした。


「ああ、俺は目が覚めた! 聖王なんかにもう従うものか! イセル様、きみには本当に申し訳ないことをした! 俺はマグノリアを利用して、きみを誘拐しようとしていた! 聖王の命令に従うなんて、俺は本当に愚かだった!」

「おにーさん、つみをみとめるのね?」

「ああ! 認める! きちんと罪を償おう!」


 ……そういえば、テオうさちゃんを手渡された時にピヨン様が浄化の説明をしていた。《イセルが『悪いもの』だと判断するものはすべて浄化しちゃえるの》と。

 つまり、イセル坊ちゃまがルビウスの聖王ランドルフに対する忠誠心を『悪いもの』だと判断して、綺麗サッパリ清めてしまったらしい。

 さすがはイセル坊ちゃまです!


 騎士団の方々はイセル坊ちゃまが聖人であることを知らないので、ルビウスの急な変化に戸惑っているだけだったが、テオドール様たちはイセル坊ちゃまの聖力に驚いていた。というか若干顔色が青い。

 オリバーさんとテオドール様が、「イセル坊ちゃまのお力って、使い方を間違えるとエグくないですか? 世界征服出来ちゃいますよ、マジで」「……必ずやあの子をいい子に育てなければ……」「俺も全力でお支えします……っ」などと、コソコソ話し合っている。

 イセル坊ちゃまは良い子の天使なので、道を踏み外したりなんかしないですよ。


「じゃあ、オウカしんせいおうこくのこと、ぜんぶはなしてくれる?」

「ああ。もちろんだ」


 こうしてルビウスはあっさりと口を割った。


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