60:狩猟大会②
残念ながら当初の予定と変更になり、ルビウスと同行することになってしまった。
「こんなはずではなかったのですが……」
落胆した声を出す私に、オリバー様が慰めるように肩を叩く。
「まぁ、こういうこともあるって、マグノリアちゃん。切り替えて行こうよ。てことでテオ様、俺だけでも単独行動して、ほかの使節団の様子を探りましょうか? 護衛はマグノリアちゃんとロイドさんがいれば問題ないですし」
「今からオリバーが抜ければ、カッターモール氏から勘ぐられるだろう。それに、これほど使節団に分散されてしまったら、誰を選んで張り付くべきか判断が難しい。使節団代表の伯爵は陛下と同行されるようだから、そちらは陛下にお任せ出来るが。私たちはむしろ、カッターモール氏に探りを入れるべきだろう」
「それもそうですね。承知いたしました」
「私も頑張ります……っ」
ヒソヒソと話す私たちとは対照的に、ルビウスは陽気な雰囲気で森の中を先行していく。
「おっ。スライム発見。俺が討伐しちゃっても構いませんよね、公爵?」
「私たちの手助けは必要ですかな?」
「いりませんよ、そんなもの。マグノリアに俺の格好良いところを見せなくちゃならないんでね! じゃあ、マグノリア、見ててくれよ!」
スライムは気合を入れるような魔物ではないと思うのだけれど……。
とりあえず私は、ルビウスの言葉に大人しく頷いた。
彼からオウカ神聖王国の情報を引き出したいので、あまり壁を作るような態度はとらないほうがいいと思って。
スライムはゲル状の透明な体を持ち、中心に核を持つ魔物だ。分裂速度が速いので、放っておくとすぐに個体が増えてしまう。
討伐のためには核を破壊しなければならないのだけれど、すばしっこい上に、スライムが移動した場所はナメクジが這ったあとのようにベトベトになるので、足元に注意しなければならない。
ルビウスは今日は腰に長剣を携えていたけれど、どこからか取り出した二本のナイフをスライムに向けて投げた。
一本のナイフは、素早く移動するスライムを地面に縫い付けた。二本目のナイフはスライムの核を破壊する。核の中から小粒の魔石が現れた。
なかなかの腕前だわ。
「はい、一匹討伐完了! どうだった、マグノリア!?」
「おみごとでございます」
私は無表情でパチパチと拍手すると、ルビウスがズイッと近寄ってきた。
「そうじゃなくてさ。俺、格好良かった?」
「…………」
格好良かったかと言われると、よくわからない。
今まで友達が一人も出来たことがなく、仕事でさえ魔導人形のフリをしていないと上手く他人に接することが出来ない私には、誰かを恋愛対象として見る心の余裕はない。
テオドール様相手なら、いくらでも素直に『格好良いです』と言えるのだけれど。
ルビウスは、私のことを揶揄いたいだけなのか、ほかに思惑があるのかはわからないけれど、私を恋愛対象のように扱うので、迂闊に発言出来ないわ。
「……ナイフ投げが非常にお上手だと思いました。オウカ神聖王国でも魔物討伐をされるのですか……?」
このまま上手いことオウカ神聖王国について聞き出せればいいのだけれど。
しかし、ルビウスははぐらかすように「残念だな。さすがにこの程度じゃ俺に惚れてくれないか」と笑うだけだった。
すると、テオドール様が私の隣に並んだ。
「私もぜひオウカ神聖王国の話が聞きたいですな。魔物の生態系はネルテラント王国とはどれくらい違うのでしょう?」
「まぁ、そこまで大きな違いはないですよ。魔の山が封印されているおかげで実に平和なもんです」
……ギルドマスターの話とは違うわね。
オウカ神聖王国の周辺国では飛竜種の目撃情報が増えていたはず。周辺国に飛竜種が現れているなら、オウカ神聖王国にも現れても不思議はない。相手は翼を持つ生き物なのだから。
さらに、周辺国から武器を貢がせたり、騎士団の訓練を増やしているとも聞いたわ。
それをわざと隠して『平和』だと言うなんて、非常に怪しいわ。
最悪の状況を考えると……、聖王は黒竜や飛竜種を操る方法を見つけたのかもしれない。操るためには聖力が必要とかで、イセル坊ちゃまを狙っているのかも……。
それで征服戦争を仕掛けようとしているんじゃないかしら……。
まさかそんな非道なことを、と驚いてしまうけれど。
今、手持ちの情報で推測すると、そういう結論も出てしまうのよね……。
私は疑いの眼差しでルビウスを見つめた。
▽
午前中はほとんどルビウスが討伐をした。「マグノリアにいいところを見せたいから」と言って。
結果はスライムが五匹、一角ネズミが三匹。そこそこの成果だ。
狩猟大会で優勝すると金一封がいただけるので、気合の入っているチームも多く、私たちの順位は今のところ中間あたりのようだ。
一度空き地に戻って昼休憩を挟み(私はデボラ王妃殿下からこっそり昼食をいただいた)、再び森の中へ入る。
「午前中は腕慣らしだったから、午後はもう少し気合を入れて頑張るか。せっかくだから優勝したいもんな。なぁ、マグノリア。金一封をもらったら、デートに行かないか?」
「チームでいただく褒賞なので、全員で分け合うべきではないでしょうか? せめて全員で出掛けるとか……」
「でも午前中は俺がほとんど討伐しただろ? 貢献度合いで考えたら、俺が八割持っていけるだろ。なぁ、マグノリア、デートくらい減るもんじゃないし……」
「カッターモール氏。我が家の家宝に手を出すなと再三申したはずだが? これ以上やれば正式に抗議するとも」
「じゃあ、公爵様が俺よりも魔物を仕留めて、金一封を総取りすればいいんじゃないですか? そうすれば俺とマグノリアのデートを妨害出来ますよ?」
「……わかった。受けて立とう」
「じゃあ、勝負だぜ、公爵様!」
え? 私、ルビウスと出掛けるなんて約束していないのですが?
そもそも順位的にまだ上のチームがたくさんいるのに、どうして二人とも自信満々なのかしら?
困惑する私をよそに、テオドール様もルビウスもやる気に満ちて前を歩き始めた。
「放っておきなよ、マグノリアちゃん。テオ様にも譲れない時があるんだって」
「で、ですが、オリバー様……っ。もしテオドール様がお怪我でもされたら……っ」
「護衛に関しては自分にお任せください。魔導人形氏はテオドール様を応援するのがよろしいかと」
「ロイド様まで、そんな……っ」
「この森にはそんなに危険な魔物はいないから大丈夫だって。テオ様だって幼少の頃から剣術をやってるんだし。マグノリアちゃんはどーんと構えてなよ」
オリバー様とロイド様に説得されて、私はハラハラしながらもテオドール様の応援に回ることにした。
私の心配をよそに、テオドール様はどんどん魔物を討伐されていく。
スライムや一角ネズミだけではなく、森の奥に棲みついていた女帝蜂やポイズンスネークなども危なげなく仕留めてしまった。
「す、すごいです、テオドール様っ!」
「まぁ、この程度の魔物なら私一人でも倒せる。公爵というのは危険と隣り合わせの地位だからな」
そうか。護衛が付くとはいえ、屋敷を離れることも多いし、誰に命を狙われるかわからないですものね……。
私は彼の言葉に、妙に納得してしまった。
対するルビウスのほうも順調に魔物を討伐していく。午前中は本当に腕慣らしだったようだ。
……というか、身のこなしがとてもいい。
ナイフ投げだけでなく長剣も使用し始めたけれど、隙のない動きだわ。魔物に近付く時は上手く気配や足音を消している。
そういえば初めて彼に会った時、街中だったとはいえ、なんの気配もなく私に近付いてきたわね? 彼も護身のために剣術を嗜んでいるのかしら……?
ルビウスはビッグスライムや岩カエルなどを仕留めていた。
狩猟大会の順位は、単に討伐した魔物の数だけではなく、魔物のランクも関わってくる。スライムや一角ネズミが1ポイントなら、それよりランクの高いビッグスライムや岩ガエル、テオドール様が捕らえた女帝蜂やポイズンスネークは3ポイントというところでしょうか。
「この森はスライムや一角ネズミが多いって聞いていましたけれど、思ったよりいろんな種類の魔物が出てくるんですね。まぁ、それでもEランク程度ですが」
「……いや。普段は本当にスライムや一角ネズミ程度しか出てこない森だ。いつもは森の奥に隠れている魔物たちが出てきているようだな。少しおかしい」
不思議そうに森の奥を見つめるテオドール様に釣られて、私もそちらに視線を向ける。
すると突然、バキバキと木々が倒れる音が響き、大きな足音とともに――……なぜか火竜が現れた。




