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55/82

55:音楽会①



 それから数日間、イセル坊ちゃまは音楽堂へ出向いて、思い出の童謡を聞くのが日課になった。

 その際に私もオウカ神聖王国の曲をピアノで何回か弾かせていただいた。

 プロの前で演奏するのは緊張したけれど、やはりイセル坊ちゃまの鼻歌から書き起こした楽譜だけでなく、実際の演奏も聞いたほうが習得しやすいらしい。

 本番で弾く予定のピアニストから、「あなた、とてもピアノがお上手だわ。すごく練習したんでしょうね。演奏者の道に進めばよかったのに」と惜しまれた。

 昔取った杵柄というだけだけれど、過去の努力を褒めてもらえたみたいで嬉しかった。


 ほかには、遊びに来たアリーヤ王女殿下とブランコをしたり。フィンドレイ公爵様やオリバー様も何度も様子を確認に来た。王城全体が歓迎の準備に忙しい様子だったけれど、デボラ王妃殿下がお茶に呼んでくださったり、クリストファー国王陛下にご挨拶することも出来た。


 そして、ついに使節団到着の日がやって来た。

 国王夫妻や宰相を始めとした国の上層部が来賓を出迎えていて、城内がより一層慌ただしい雰囲気になっている。

 私のもとにも、丈をお直ししたドレスが届いた。明日からいよいよ貴族も参加する歓迎の催しが始まるのだ。

 さいわい、令嬢だった頃にお会いした下位貴族の方々は出席しないらしい。

 下位貴族は旅費や身だしなみを整える費用が捻出出来ない場合もあるので、こういった行事に不参加になっても許されるのだ。今回は特に急に決まった催しなので、下位貴族には参加が難しかったでしょう。

 でも、社交界に参加すると考えるだけで、緊張でガチガチと震えてしまう。


〈しっかりしなさいよ、マグノリア。貴族の目なんて気にしている場合じゃないでしょう!? あたしの可愛いイセルを狙う敵が来るのよ!! しっかりと敵情視察してきなさい!!〉

「……ハッ!! そうでした!!」


 私ったら、社交界に出ることに怯えてばかりいて、失念してしまっていた。これはイセル坊ちゃまをお守りするためのチャンスでもあるというのに。

 こういうところが本当に私のダメなところだわ……!!


「わかりました!! 私はイセル坊ちゃまのために、頑張ってオウカ神聖王国の情報を集めてきます!!」

〈そうそう、その意気よ!!〉

「はいっ!!」


 気持ちを切り替えて、私は明日の催しに挑むことにした。





 翌日。王城侍女に手伝っていただき、私は身支度を整えた。

 アイスブルーの生地に、白や黄色といった小さな花がたくさん刺繍された可愛らしいドレスで、真昼の庭園で開催される音楽会にはぴったりのデザインである。

 こんなに素敵なドレスを私なんかのためにデザインしてくださった王妃殿下に、本当に感謝だわ。


「きょうのマグぅちゃん、おひめさまみたいにかわいいの! ぼく、とってもだいすき!」

〈素敵じゃない、マグノリア。いつもそういう格好をすればいいのに〉

「ありがとうございます」


 四歳にしてすでに女性をべた褒めする紳士さを発揮するイセル坊ちゃまに、胸がきゅんきゅんしてしまう。と同時に、将来の女性関係がすこし心配になってしまうわね。

 そしてピヨン様の要望は無理だわ。子守り係をするにはドレスは邪魔だもの。


「では、行ってまいります」

「いってらっしゃい、マグぅちゃん!」

〈イセルのことはあたしに任せてちょうだい〉


 イセル坊ちゃまとピヨン様に手を振られ、私の代わりに来てくださった侍女長も「テオドール様のことを頼みましたよ」と微笑んで見送ってくれた。


 部屋の扉を開けて廊下に出ると、フィンドレイ公爵様が立っていた。

 王族の住居区域までわざわざ迎えに来てくださったらしい。


「フィンドレイ公爵様。わざわざ迎えに来ていただき、ありがとうございます」


 慌ててお辞儀をしたけれど、フィンドレイ公爵様は暫し無言だった。そういえば王城に来てからずっと口数が少ないのだった。


 思わず、フィンドレイ公爵様の背後に控えているオリバー様やロイド様に、助けを求める視線を向けてしまう。

 オリバー様はなぜか声を殺して笑っており、正反対にロイド様は『自分も、テオドール様がこのような反応をする理由はわかりません』というように小首を傾げていた。


 でも、フィンドレイ公爵様はたぶん怒っているわけではないのでしょう。王都で寄り道をした時のような、おどろおどろしい雰囲気ではないので。


「フィンドレイ公爵様、庭園のステージ前に集合とお聞きしております。すぐに移動されたほうがいいと思いますが、いかがいたしますか?」

「……あ、ああ。そうだな」


 フィンドレイ公爵様は私に向かってそっと腕を差し出した。

 エスコートしてくださるらしい。パートナー役ですものね。


「失礼いたします」


 私がフィンドレイ公爵様の腕を掴むと、彼の肩が大きく跳ねる。


「どうされましたか、フィンドレイ公爵様? 体調でも……?」

「……いや。なんでもない。体調も問題ない」


 フィンドレイ公爵様はなぜか、空いているほうの手で自分の顔を押さえて、深い溜息を吐いた。

 自覚症状はなくても、王城に着いてからずっと使節団への対策でお忙しくされていたから、やはりお疲れなんじゃないかしら?

 もう一度オリバー様たちに視線を向けたが、オリバー様はずっと無言で笑い続けており、ロイド様は先ほどとは反対側に首を傾げている。


「……マグノリア、綺麗だ」

「はい? ありがとうございます?」

「きみはいつでも美しいが、華やかなドレスで着飾るとより一層麗しい。女性たちが人形遊びを好むのもよくわかる」

「デボラ王妃殿下がデザインしてくださったドレスが素晴らしいのです。王城侍女の皆様にも支度を手伝っていただきましたから。それもこれもすべて、手配してくださったフィンドレイ公爵様のおかげです」

「きっと、この世にはたくさんの人形職人がいて、数えきれないほどの人形が生みだされてきたのだろう。そのすべてが目の前に集まっても、きみほど美しい人形はいないに違いない……」

「本当に大丈夫ですか、フィンドレイ公爵様?」


 何度も溜息を吐くフィンドレイ公爵様が心配で、私はオロオロしてしまう。


「体調に問題はない。ただ自分に打ちのめされているだけだ」

「ですが……」

「それと、マグノリア。私のことはテオドールと呼んでくれ。パートナーなのに公爵呼びでは不自然だからな」

「は、はい。承知いたしました。……テオドール様」


 なんだか呼び慣れないなと思いつつ、彼の名前を口にする。

 ちょっと気恥ずかしいけれど、私も公爵家の一員として馴染んだのだと思えば胸がほわほわと温かくなる。


 なぜかオリバー様がサムズアップのポーズを取り、ロイド様はすでに周囲の警戒に戻っていた。


55話でやっと、マグノリアがテオドールの名前を呼びました;;



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