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45:マグノリアの休日①



「……私に休日、ですか?」

「ああ、そうだ」


 フィンドレイ公爵様のお仕事も落ち着いたので、今では毎日のようにイセル坊ちゃまと食事をご一緒してくださるようになった。朝早く屋敷を出なければいけない時や、会食の時などは除くので、一日に一食程度だけれど。

 それでも以前より一緒にお食事を取れる時間が増えたので、イセル坊ちゃまはご機嫌だ。今も、夕食に出たほうれん草入りのキッシュを笑顔で食べている。

 ちなみに、ほうれん草のソテーが出る日は、きちんと食べてくださるけれど、とてもつらそうな表情になる。


 そんな一家団らんの夕食の席で、フィンドレイ公爵様はイセル坊ちゃまの背後に立っている私に『週一の休日』について話した。


「俺がテオ様に提案したんだよ~。マグノリアちゃんにも休日をあげたほうがいいって」

「オリバー様が?」

「魔導人形でも連日稼働し続けるのはよくないのではないかと、オリバーが言うのでな。それもそうかと思って、承諾することにした」

「マグノリアちゃんのお休みには、俺の母さんがイセル坊ちゃまの子守りをするから安心して」


 オリバー様は私が魔導人形ではなく人間だと知っているから、配慮してくださったのでしょう。

 彼の母親である侍女長も、ワイバーン事件のあとに二日間お休みをいただいた時にイセル坊ちゃまの子守りを担当してくださったので、とても信頼出来る。

 叔父様に家を乗っ取られてから『お休みって何???』状態だったので、忙しいことには慣れているけれど。他人から労わってもらえるのはとても嬉しい。

 オリバー様はやはり神様だわ。そして、魔導人形に休日を与えるという奇妙な話を承諾してくださったフィンドレイ公爵様は、やはり器が大きくて尊敬するしかない。


 私は無表情のまま、二人を感謝の眼差しで見つめた。


「ありがとうございます、フィンドレイ公爵様、オリバー様。ありがたくお休みをいただきます」

「ああ。私もマグノリアには不具合なく働いてほしい。きみは我が家の大切な家宝だからな」


 フィンドレイ公爵様は穏やかな表情で言う。


「イセルが大人になり、子や孫が生まれても、きみにはこのフィンドレイ公爵家に末永くいてほしい。百年、二百年先の世界でも元気に稼働していてくれ」


 ひ……ひぇぇ……。む、無理です、公爵様……。

 私は本当は人間なので、そんなに長く生きられません……!


「そして、出来れば私が年老いてこの世を去る時には、きみに看取ってほしいと思う。私はたぶんこの先も独身だろうからな」


 どこか照れたように言うフィンドレイ公爵様の脳裏には、きっと老人になったご自分の姿と、いつまでも十代後半の姿をした魔導人形の姿が思い浮かんでいるのでしょう。

 ど、どうしよう……。私はまだ成長期だから毎年身長が伸びているし、頬のラインも心なしか去年よりシュッとしているような気がするわ……。

 年相応の変化が外見に出る前に、オウカ神聖王国のことをなんとかしなくちゃ……!


 冷汗をダラダラと流している私を、オリバー様が『バレたらバレたで、人間として頑張ればいいじゃん』という生暖かい目で見つめてくる。

 けれど、私に助け舟も出してくださった。


「マグノリアちゃんの休日の話に戻すけれど、マグノリアちゃんも体を……いや、人形体? を休めるだけじゃなくてさ、たまに街に出掛けて、人間社会を勉強するのもいいんじゃないかな。ねっ、テオ様もそう思いませんか?」


 話を逸らしてくださったオリバー様、やっぱり神様……!


「……そうだな。街に出掛ける時は十分気を付けるように」

「は、はいっ」


 イセル坊ちゃまからも「マグぅちゃん、おやすみもらえてよかったねぇ」と声をかけられ、私はこくこくと頷く。

 行きたい場所が何カ所かあったので、渡りに船だわ。





 ついに休日になった。

 私はさっそく支度を整えて、街へ出掛けるために裏門へ向かう。使用人が外出する時はこちらを使うのが通常なのだ。川へ繋がる隠し通路ではなく。

 堂々と街へ出かけられるようになるなんて、思ってもみなかったわ。侍女生活も板についてきたみたい。


 使用人の宿舎から裏門へ続く庭の小道を歩いていると、フィンドレイ公爵様とオリバー様を見かけた。

 お二人もどこかへ出掛ける予定らしく、馬車の準備を待っているようだ。


「フィンドレイ公爵様、オリバー様、ごきげんよう」

「マグノリア? きみも今から街へ出掛けるところ……なのか?」


 こちらを振り返ったフィンドレイ公爵様の顔が、ハッキリわかるほど固まった。いや、顔だけではなく、体の動きも一時停止したみたいにピタッと固まっている。

 フィンドレイ公爵様とは対照的に、オリバー様は大袈裟に私の傍へ駆け寄ってきた。


「マグノリアちゃん、その格好で出掛けるの!? すっごく可愛いよ!! 最高にイケてる!! もしかしてそれって、王妃殿下が贈ってくださったっていうお洋服?」

「あ、ありがとうございます……。はい。デボラ王妃殿下からいただいたものです」


 妖精の災いから王族を守ったことの褒美だと言われて、デボラ王妃殿下からお洋服や小物をいろいろいただいた。

 デボラ王妃殿下はネルテラント王国のファッションリーダーで、ご自分のブランドをお持ちなのだ。

 主に貴族のご夫人や令嬢向けの華やかなドレスをデザインしているけれど、庶民向けのカジュアルなお洋服も少しだけ製作しているらしく、後者のものをいただいた。

 今日は清楚で可愛らしいワンピースを着用させていただいた。

 流行にはとんと縁のない半生だったので、こんなに綺麗な格好が出来てとても嬉しい。顔は無表情だけれど、心の内ではニッコニコである。

 神様のオリバー様にも褒めていただけて、使徒として誇らしい気分だわ。


「ねっ、テオ様もそう思いますよね? マグノリアちゃん、めちゃめちゃ可愛い……って、大丈夫ですか、テオ様!? 無反応過ぎて、生きているか心配になるんですけれど!? 聞こえてますか、テオ様!?」

「……聞こえてはいるが……」


 オリバー様に耳元で叫ばれて、フィンドレイ公爵様がようやく返事をする。

 なんだか難しい表情で私を見下ろすフィンドレイ公爵様に、だんだん不安になってくる。


 やっぱり私が無表情過ぎるから、デボラ王妃殿下デザインの可愛いお洋服は似合わないのかしら……?

 あぁ、この動かない表情筋のせいで……っ!


「綺麗過ぎやしないか? マグノリアはもともと美しいが、こんなに愛らしい服装で街に出掛けて大丈夫なのか?」

「……は? て、テオ様ーーーっ!!? 真顔でとんでもないことを言い出したんですけれどーーー!!?」

「マグノリアに防犯用の魔道具を持たせたほうがいいんじゃないか? おい、オリバー。笑っている場合じゃないぞ」

「あははははっ!!! 今笑わないで人生のどこで笑うんですか!!! あのテオ様が、女性に向かって『綺麗過ぎるって』!!! あはははは!!!」


 オリバー様が大笑いを始めてしまい、私はポカンとその様子を見つめる。

 まぁ、ワイバーンを振り回すことの出来る魔導人形に、防犯用の魔道具を持たせようとするなんて、フィンドレイ公爵様も結構天然だと思うけれど……。

 でも、そんなふうに主から心配してもらえるのは使用人として嬉しいわ。

 私は心がポカポカした。


 暫くすると馬車の準備が完了して、フィンドレイ公爵様とまだ爆笑を続けるオリバー様は御者に促されて馬車に乗り込んだ。


「マグノリア、知らない人から『高級魔石をあげる』と言われても付いて行ってはいけないぞ。明るいうちに帰って来なさい」

「承知いたしました、フィンドレイ公爵様」

「あはははは!!! ひ~っ、もう、笑わすのはやめてください!!! 俺、呼吸が苦しくて死んじゃう……!!!」

「オリバーが一人で勝手に笑っているだけだろ」

「いってらっしゃいませ、フィンドレイ公爵様、オリバー様」


 出発した馬車を見送り、私は改めて裏門を目指す。


 さて、冒険者ギルドへ行きましょう。


お読みいただきありがとうございます。

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