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43:公爵家の家宝になりまして



 周囲を見回すと、噴水は全壊し、建物の一部にも被害が出ていた。怪我人もいるようだけれど、さいわいにして死者はいないようだ。


 最悪の事態にならずに済んでホッとしていると、遠くから声をかけられる。


「マグぅちゃぁぁぁん! しんぱいちたのよぉ! うわぁぁぁぁん!」

「マグノリア! 故障や不具合はないか!?」

「……イセル坊ちゃま、フィンドレイ公爵様」


 イセル坊ちゃまを抱っこしたフィンドレイ公爵様が、地面に散らばった瓦礫や水溜りを避けながらこちらにやって来る。

 お二人に怪我はなく、仲睦まじそうだ。その様子を見ていたら、私は自分が守りたかったものをちゃんと守ることが出来たのだと実感して、胸の中があたたかくなった。


「心配をおかけして申し訳ございません。私は大丈夫です」

「うわぁぁーーーんっ!」


 私はフィンドレイ公爵様からイセル坊ちゃまを受け取り、泣きじゃくる坊ちゃまを優しくあやす。


「ピヨンちゃん、メッよ! おおきなトカゲしゃんなんかよんだら、まちがこわれちゃうの! もうしちゃメッ!」

〈だってぇ、妖精の災いってそういうものなんだもの。私が持った悪感情に相応しい災いを、一番近くから呼び寄せられるのよ〉


 つまり、妖精が叔父様に対して持った怒りや嫌悪感は、ワイバーンを呼び寄せてしまうほど大きなものだったらしい。

 冒険者ギルドのギルドマスターが、オウカ神聖王国の周辺国で飛竜種の目撃情報が出ていると話していたのを思い出す。たぶんその辺りからワイバーンを移転させてしまったのでしょう。

 妖精ってやっぱり扱いが難しいわ……。


 フィンドレイ公爵様も私と同じような心境らしく、顔が蒼褪めていた。


 こんなに簡単に災いを呼びよせてしまう妖精と、これからも一緒に暮していけるのかしら……。

 そんな私の不安は、イセル坊ちゃまがあっさりと解決してしまった。


「ピヨンちゃんがわじゃわいをまたよんだりゃ、もう、ピヨンちゃんのすきなひかりのたまはあげないの!」

〈ええっ!? そんな!? イセルったら酷いわ!!〉

「ぼく、じぇったいにあげないの!」


 イセル坊ちゃまは数日に一回くらいの割合で聖力の玉を作り、妖精に分け与えていた。

 それを取りやめると聞いて、妖精もさすがに焦り出す。


〈わ、わかったわ! もう災いは呼ばないから安心して! ……少なくとも、無関係の人間にまで被害が出るような災いは……〉


 妖精は、最後のほうは小さい声でごにょごにょと条件を付けていたけれど、イセル坊ちゃまは寛容にも頷いた。


「うんっ! やくしょくよ!」

〈……ええ。約束するわ〉


 災いは妖精が身を護る手段でもあるので、すべてを禁止するのは可哀想だもの。

 先ほどのような周囲に大打撃を与える災いが防げれば、十分ありがたいわ。


 イセル坊ちゃまと妖精の約束に安堵していると、フィンドレイ公爵様が声をかけてきた。


「マグノリア、本当によくやった。きみのおかげでフィンドレイ公爵領は守られた。本当にありがとう」

「公爵様、そんな。滅相もございません」


 フィンドレイ公爵様は私を手放しで褒めたかと思うと――……イセル坊ちゃまごと私を抱き締めた。


「ひぇ……っ!?」

「マグノリアは本当に私の自慢の魔導人形だ。もはやフィンドレイ公爵家の家宝だな」


 びっくりしてたけれど、……誰かにこんなふうに抱き締められるなんて、両親が生きていた頃以来だわ。イセル坊ちゃまが抱き着いてくることはしょっちゅうあるけれど、私の全身を包み込むような他人の体温は本当に久しぶりだ。

 フィンドレイ公爵様への罪悪感が強くなると同時に、懐かしい他人の体温にいつまでも浸っていたくなる。

 ……このあたたかい場所に、ずっといられたらいいのに。


 私はフィンドレイ公爵様の体温に身を委ねてしまいたくなる心をぐっと抑えて、「たいへん恐縮です」と答える。


「私は子守り用魔導人形・マグノリア。皆様のお役に立つために造られました。当然のことをしたまでです」


 私のことを家宝とまで言ってくれるこの方のためにも、オウカ神聖王国の件を解決させて、きちんと謝り倒して、退職する。

 その時までは、私は魔導人形のフリを貫くのだ。


 フィンドレイ公爵様は私の言葉を聞いて満足そうに微笑み、そっと両腕をほどいた。





 その後、避難していた領民たちも家に戻り、私たちもフィンドレイ公爵家へと帰った。


 私は負荷の多い活動をしたため、二日間のお休みをいただくことになった。そのあいだのイセル坊ちゃまの子守りは、侍女長が担当してくださることに。

 私は表向きは部屋で休んでいるフリをしつつ、オリバー様が手配してくださった町医者のもとに向かい、きちんと診察を受けた。

 診察の結果、町医者から「怪我どころか肌荒れや虫歯さえありません。信じられないほど超健康体です。どうです、お嬢さん、治験のバイトをしませんか?」と勧誘されて、オリバー様が「マグノリアちゃんが無事で本当によかったけれど、マジでなんで掠り傷さえないわけ??? いや、べつにそれでいいんだけれども。ちょっと釈然としないっていうか……。ていうか、お医者さんは治験バイトの同意書をマグノリアちゃんに押しつけないで!!? マグノリアちゃんはうちの大事な家宝なんで、スカウトはマジでお断りです!!」と、首を傾げたり、焦ったり、怒ったりと百面相をした。


 広場の復旧作業はすぐに始まった。

 フィンドレイ公爵様がワイバーンの罠に使うために周囲のお店からガラス製品を買い取った話が領民たちに広がっていて、評判が上がっているらしい。

 そのため、広場の瓦礫を集める手伝いを申し出る領民がたくさんいて、復旧作業が思ったよりも早く進んでいるとのこと。

 フィンドレイ公爵様は「まさか私の評判まで上がるとは。これもマグノリアのおかげだな」と苦笑していた。


 叔父一家にはクリストファー国王陛下より国外追放が言い渡された。

 騎士に国境まで連行されて、叔父様たちは文句を言いつつも国外へ去っていった姿がきちんと確認されたそうだ。

 王都に戻ったデボラ王妃殿下から届いた手紙にそう書かれていて、私はホッと胸を撫で下ろした。

 とはいえ、叔父様一家と縁が切れても、私の中にはまだ根深くトラウマが残っている。他人に怒鳴られるのが怖い、という気持ちはどうしようもない。

 けれど、私が他人に酷いことをしたり、叔父様のような意思疎通の不可能な人と出会わなければ、そんなに他人から怒鳴られる機会もない、ということも分かっている。

 フィンドレイ公爵家を退職して人間に戻るまでに、もっと他人と自然にお話し出来るようになれるといいな……。


 デボラ王妃殿下からの手紙をたたみ直して、エプロンのポケットにしまっていると。

 イセル坊ちゃまが駆け寄ってきた。

 妖精も近くでふわふわと浮遊している。


「マグぅちゃん、マグぅちゃん!」

「いかがなさいましたか、イセル坊ちゃま?」

「おうたをうたって! ママとパパとマグぅちゃんのおうた!」

「蝶々の歌ですね。家庭教師のお時間までですよ?」

「うんっ」


 私はイセル坊ちゃまと一緒に歌を歌う。


「「ちょーちょは~ まりゅ(る)で~おんなのこのおリボン~ はるの~こみちを~ ちょーちょのおリボンで~ ゆくのよ~」」


 何はともあれ、イセル坊ちゃまをお守りすることが最優先だわ。

 オウカ神聖王国になんて、絶対にイセル坊ちゃまを渡さないんだから。


お読みいただきありがとうございます!!!

これにて第1章完結です。

第2章は9/19から開始いたしますが、ストックが全然ないのでゆっくりめの更新になる予定です。

引き続き『無表情才女』をよろしくお願いいたします(♡ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

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