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42:キラキラ大作戦



 フィンドレイ公爵様は私の傍まで駆けつけると、広場を破壊しているワイバーンを鋭く睨みつけた。


「いったいどうして、は私の台詞だ。私はあの後、クリストファー陛下を忍者のもとへ案内し、近衛騎士に尋問をしてもらったが、やはり結果は芳しくなかった。いったん諦めて領地視察に合流することになり、陛下とともに馬車で街へ向かったら、避難する領民で溢れていてな。近衛騎士に陛下の御身を任せて、護衛長とともにこちらへ馬で駆けつけたんだ。マグノリア、とにかく状況を説明してくれ」

「はっ、はい……っ」


 私は手短に、妖精の災いが発生したことを説明する。

 叔父一家のことは『見知らぬ人から急に難癖をつけられた』ということにしてしまった。

 いつかフィンドレイ公爵様にきちんと謝罪するつもりとはいえ、またしても嘘を塗り重ねてしまう。

 子供の頃、両親が口を酸っぱくして『他人に嘘を吐いてはいけません』と言っていたのは、自分の心身へのダメージがすごいからかもしれないわ……。


「やはり妖精は諸刃の剣なのだな。ワイバーンなど、どう戦えばいいものか……。護衛長、フィンドレイ公爵家で所有している武器に、ワイバーンが倒せそうなものはあるのか?」

「攻城戦用にカタパルトはありますが、周囲から完全に領民を避難させてからでないと被害が大きいです。しかもワイバーンは三人も人質を取っていますから、先に彼らを救出しなければ……」

「人道的にもまずいか。父上のせいで落ちた公爵家の評判をなんとかここまで回復してきたというのに、ここであの三人を見捨てればまた落ちるな……」


 フィンドレイ公爵様と護衛長の話に、私も口を挟む。


「あのっ、フィンドレイ公爵様っ。ワイバーンが現れた黒い裂け目がまだ上空にあるので、あそこからワイバーンを元いた場所に帰せばいいと思います」

「しかし、どうやってだ、マグノリア? 黒い裂け目に肉でも放り込んで、ワイバーンに追いかけさせるのか?」

「テオドール様、それはさすがに無理では? すでに人間を三人も捕らえているのに、多少の肉を追いかけてくれるとは思えません」


 私は周囲を見回す。

 何か、この状況を解決させる糸口はないものかしら……。


 ふと、イセル坊ちゃまたちが逃げ込んだガラス細工のお店が視界に入る。

 こんな時でもフィンドレイ公爵領の特産であるガラスはキラキラと輝いて美しい。カッティングされたガラスはまるで本物の宝石のように見えた。


「あっ! そうだわ! フィンドレイ公爵様……!」


 私は思いついた作戦をフィンドレイ公爵と護衛長に話す。

 最初は懐疑的な顔つきだった二人だけれど、説明が終わると、「まぁ、マグノリアなら不可能ではないかもしれんな。わかった。許可を出そう」「では、護衛たちに魔導人形氏の手伝いをさせます」と頷いてくれた。





 護衛だけでなく、騎士や冒険者の手も借りて、広場の中心にどんどんガラス工芸品が集められていく。巨大なシャンデリアやガラスの像、カッティングの入ったグラスなど。


「ありったけのガラス製品を持って来てくれ!! すべてフィンドレイ公爵家が買い取ろう!!」

「フィンドレイ公爵様、出来るだけキラキラしたものでお願いします」

「わかった。出来るだけキラキラしたものを集めてくれ!!」


 ワイバーンは飛竜種の中でも小型と言えど、ドラゴンと同じ習性を持っている。

 すなわち、キラキラ輝く宝石や黄金が大好きだということだ。

 フィンドレイ公爵領特産のガラスは宝石のように美しいので、これだけ広場に集めれば、ワイバーンも興味を示して地上に降下してくるでしょう。


「ギュェェェエエ!!」

「やりました、フィンドレイ公爵様! ワイバーンが降りてきました! 周囲にいる方々は急いで退避してください!」

「マグノリア!!」


 フィンドレイ公爵様のほうへ顔を向けると、彼は私の勝利を信じ切った笑みを浮かべていた。


「思いきりやって来い。あとの責任はすべて私が取る」

「……はいっ! いってきます、フィンドレイ公爵様!」

「あぁ」


 フィンドレイ公爵様の激励に背中を押され、私は降りてきたワイバーンの長い尾をぎゅっと鷲掴む。


「助けてくれ、マグノリア!!!」

「もうこんなのいやよっ、早く降ろして!!!」

「うぇぇぇ……っ、マジで酔った……っ」


 ワイバーンに捕まったままの叔父様たちが、私に向かって助けを求める。

 こんな情けない叔父様たちの姿を見たら……、なんだかあまり怖くなくなってしまった。


「叔父様、少々手荒い救助になってしまいますが、あとで文句は言わないでくださいね」


 私はそう言って、ワイバーンをぐるぐると回した。


 ワイバーンが苦しげな呻き声をあげ、叔父様たちも泣き喚いているけれど、回転のスピードをどんどんあげていく。

 目を回したワイバーンは、ついに鉤爪から叔父様たちを手放した。

 叔父様たちは遠心力で広場の奥へと吹っ飛んで行ったけれど、近衛騎士たちが回収に向かった。

 以前デボラ王妃殿下が叔父様たちのことは見つけ次第処罰するとおっしゃっていたので、そのまま連行してくれるのだと思う。


 もうすっかり意識が飛んでいるワイバーンを、私は黒い裂け目へ向けて振り投げる。

 ワイバーンは黒い裂け目に吸い込まれて、ヒュンッと消えていった。


「ピヨン様! 災いを終わらせてくださいませ!」

〈わかったわよぉ。あの人間も一応懲らしめられたし、まぁいいわ〉


 近くに寄ってきた妖精はどこか不服そうな表情をしつつも、〈はい、災いしゅーりょー〉と言って、黒い裂け目を閉ざした。


 ようやく広場にいつもの青空が戻ったのだった。


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