38:王家の来訪
ついに王家がフィンドレイ公爵家にやって来た。
領地を挙げて歓迎ムードが漂い、王家の馬車を見るために街道には多くの領民たちが集まって賑やかだったらしい。
騎士だけでは手が足りず、冒険者ギルドも警邏に駆り出されているそうだ。
「いらっしゃい、アリーヤおうじょでんか!」
「ごきぎげんよう、イセル、ピヨンさま。おまねきいただき、ありがとう」
イセル坊ちゃまとアリーヤ王女殿下はすっかり打ち解けた様子で挨拶を交わしている。
妖精は坊ちゃまの頭の上に両肘をついて寝転びながら、二人を眺めていた。
フィンドレイ公爵とクリストファー国王陛下、デボラ王妃殿下も挨拶を交わす。
「ようこそ我が家へお越しくださいました。領民たちも皆、喜んでおります」
「お邪魔するよ、テオドール。今日はよろしく頼む」
「午後からは領地視察へ行くのでしょう? とても楽しみだわ」
本日の予定は、まずは屋敷の案内から始まる。
フィンドレイ公爵家には国宝級の美術品がたくさんあるし、巨匠ドルファン五世が設計した建物自体にも価値があるから。
その後は昼食会を挟み、午後はイセル坊ちゃまとアリーヤ王女殿下、デボラ王妃殿下で領地視察に向かう。
フィンドレイ公爵様とクリストファー国王陛下はこの間に地下牢にいる忍者と面会し、終わり次第合流する予定になっている。幼い子供たちに忍者の存在を気取られないようにするための、涙ぐましい対策だ。
護衛対象を分散させることに、王城の一部の者たちから反対意見が出なかったわけではないのだけれど、ここで私のAランク冒険者としての経歴が信用されてしまった結果でもある。
「では、まずはフィンドレイ公爵家自慢のガラスコレクションをお見せいたしましょう」
「フィンドレイといえばガラス工房が有名だからな。アリーヤも気に入るものがたくさんあるだろう」
こうして予定通りに屋敷の案内が始まった。
▽
昼食会も和やかに終了した。
料理人たちが試作に試作を繰り返して完成したおもてなし料理の数々も、全員に好評だった。
私もロックフルーツ割り人形として頑張ったので、皆様が笑顔になってくれてとても嬉しいわ。ちなみにロックフルーツは果汁を絞ってシャーベットになった。
前日に料理人たちが調理場で味見用のシャーベットを振舞っていた時、私は魔導人形なのでしょんぼりと耐えた。私も味見をしてみたかったわ……。
「では、わたくしたちは先に視察へ行ってきますわ。クリストファー陛下もフィンドレイ公爵も早く合流してくださらないと、楽しい場面を見逃すかもしれませんわよ?」
「はいはい。わかったよ、デボラ。テオドールとの話し合いはあまり長引かせないよう気を付けるから。近衛騎士をつけるから、身の安全には気を付けるように」
「我が家からも護衛団をおつけしますが、興奮した領民が近付いて来ないとも限らないので、お気を付け下さい」
「そうね。でも、たいへん優秀な魔導人形も一緒のようだから安心だわ」
デボラ王妃殿下は茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべて、私に視線を向けた。『なんたってAランク冒険者が同行するのだもの』という王妃殿下の心の声が聞こえてくるような気がするわ……。
フィンドレイ公爵様はなぜか王妃殿下からの私への期待が嬉しかったらしく、満足気な表情をしている。
「案内役には、私の補佐のオリバーをつけます。何かありましたら彼にお申し付けください」
「わかったわ」
オリバー様とデボラ王妃殿下が挨拶を交わしている間に、私はイセル坊ちゃまに帽子を被らせる。
「イセル坊ちゃま、外出中はこの帽子をしっかりと被ってくださいね」
「うんっ。わかったの」
外出中にオウカ神聖王国の者たちから狙われる可能性もあるので、イセル坊ちゃまの黒髪は、屋敷内や、王家のように事情を理解している人たちの前でしか晒さないことになった。
イセル坊ちゃまの黒髪が見えないようにしっかりと帽子の位置を調節する。
つばが広いデザインなので、顔に影が落ちて、イセル坊ちゃまの黒い瞳も外からは見えづらいようになっていた。
いつか、イセル坊ちゃまが自由に黒髪を晒して外出出来る日がくるといいのだけれど……。
……ううん。いつかじゃなくて、私が――……。
「さぁ、準備はいいかしら? さっそく街へ出掛けるわよ!」
デボラ王妃殿下がアリーヤ王女殿下の手を繋ぎ、用意されている馬車へと歩いていく。
「では、イセル坊ちゃまも馬車に乗り込みましょう」
「うんっ! ピヨンちゃんもいくのよ!」
〈ええ、もちろん。それにしても、この帽子、なかなか素敵だわ。座りやすいし、リボンのところに隠れれば他人から見られないもの〉
こうして私たちは視察に向かった。
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