33:王城のお茶会③
「きゃぁぁぁ! こんなにたかくブランコをこぐのははじめてですっ! マグノリア、もっともっとおしてください!」
「ぼくもっ! マグぅちゃん、もっとたかくてもへーきなの! おそらをとんでるみたいなの!」
「畏まりました、アリーヤ王女殿下、イセル坊ちゃま」
王城の庭に作られた二つのブランコ。それぞれにイセル坊ちゃまとアリーヤ王女殿下が乗っている。私はお二人の背中を交互にポンポンと押していく。
さすがに危険な高さまでブランコを押しているわけではないのだけれど、四歳と五歳のお二人には十分スリル満点のようで、興奮状態だ。
途中で騎士が手伝おうとしてくれたけれど、反復横跳びすれば全然問題ないので断った。
ちなみに妖精はイセル坊ちゃまの肩に腰かけ、〈風が気持ちいいわ〉と優雅に髪を靡かせている。
「とても楽しそうだね、アリーヤ、イセル」
「アリーヤは歳の近い子と遊ぶ機会は少ないですものね。この子と仲良くしてくれてありがとう、イセル」
大事な話が終わったのか、庭に国王陛下と王妃殿下が現れた。後ろにはフィンドレイ公爵様やオリバー様、王城の使用人たちが控えている。
「おとうさま! おかあさま!」
「テオおじしゃま!」
アリーヤ王女殿下とイセル坊ちゃまはブランコからおりて、皆様のところへと駆けていく。
話し合いの結果はどうなったのかしら?
このあとはお茶会が始まるのかしら?
私はそんなことを考えながら皆様の元に近付き、イセル坊ちゃまの後ろに控えていると、……妙に強い視線を感じる。
視線の出所を探すと、国王陛下の背後に並んでいる使用人の中に、見知った顔があった。
元ラインワース子爵領に派遣されているはずの、黒縁眼鏡の代官である。
お互いにびっくりして、思わず見つめ合ってしまった。
どうして代官が今、王城にいらっしゃるのかしら……?
もしや領地に何かあったとか……?
王家や公爵様の手前、代官に勝手に話しかけることも出来ず、モヤモヤしていると。
なぜか代官が国王陛下の元まで移動して「クリストファー陛下。例の件で、少々お耳を……」と耳打ちを始めた。
横に立っている王妃殿下も「どうされたの? 何か問題でも?」と、コソコソ話に参加する。
やっぱり領地のことかしら? 領民に何かあったの?
だんだん不安になってきた私は、失礼だと思いつつも、代官と国王陛下の会話を読唇術で読み取ることにした。
……えっと、代官の口の動きは、『元領主の』『現在』『居場所が』……。
「マグノリア」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
代官の話に気を取られている間に、いつの間にかフィンドレイ公爵様が私の横にいた。
びっくりして上ずった返事をしてしまう。
「こちらに来い。陛下たちにきみを紹介する」
「……えっ? 紹介、ですか……?」
なぜ、下っ端の子守り係なんかを、国のトップに紹介することに……?
……あ、でも、イセル坊ちゃまの子守り係だからかしら。
国に災いをもたらす可能性もある妖精がイセル坊ちゃまに懐いているのだし、オウカ神聖王国からも狙われている。
子守り係がイセル坊ちゃまに妙な洗脳教育を施したり、オウカ神聖王国に売るような真似をしたら困るもの。警戒する気持ちはわかる。
……でも、紹介って、『子守り用魔導人形』としてってことよね?
それはさすがにまずいわ!!
国王陛下に嘘を吐くだなんて国民としてダメだし、今、あそこに黒縁眼鏡の代官がいるもの!! すぐにバレてしまうわ!!
思わずオリバー様に助けを求める視線を向けたけれど、オリバー様はすでに諦めきった微笑みを浮かべていた。
オリバー様の口が動いて、『テオ様にきちんと謝って、これからは人間として働けばいいじゃん』と、ごく真っ当なことを伝えてくる。
皆にとってその当たり前のことが怖くて堪らないんです、私は……!!
「ふぃ、フィンドレイ公爵様……! わ、私、自分で国王陛下にご挨拶するので……! フィンドレイ公爵様はイセル坊ちゃまのもとに……!」
フィンドレイ公爵様に秘密がバレないよう、なんとか国王陛下と一対一でご挨拶がしたい。一対一が無理なら、せめてフィンドレイ公爵様をこの場から引き離したい。
そうすれば魔導人形ではなく、平民のマグノリアとして名乗れるかも……!
「きみは私の部下なのだから、私から紹介するのが筋だろう」
「そっ、それはそうなのですが……!」
「クリストファー国王陛下、こちらが先ほどお話しした『子守り用魔導人形』のマグノリアです」
ひぇぇぇぇぇえええ!!!
フィンドレイ公爵様に嘘を吐かせてしまったわ……!!!
私が人として出来損ないのばかりに……!!!
お辞儀すら出来ずに固まっていると、代官と国王夫妻がそれぞれ異なる反応をした。
「はぁ!?」
「え? ラインワース子爵……?」
「あはっ、あははははははっ!!! フィンドレイ公爵っ、あはははは!!!」
黒縁眼鏡の代官はギョッと目を見開き、私を見つめている。
クリストファー国王陛下が困惑した表情で、なぜか『ラインワース子爵』と呟いた。
デボラ王妃殿下は、どこか誇らしげな様子のフィンドレイ公爵様を見て、お腹を抱えて笑っている。
……どうやら三人の反応を見るに、ちょうど代官が私のことを元ラインワース子爵だと説明していたところだったのでしょう。どうして説明していたのかはわからないけれど。
三人の中で一番先に動いたのはデボラ王妃殿下だった。「ここはわたくしに任せて」と陛下に声をかけてから、フィンドレイ公爵に私のことを大袈裟に褒める。
「とっても素敵だわ! わたくし、この魔導人形? を一目で気に入ったわ! ねぇ、フィンドレイ公爵。少し、この魔導人形と別室でお話をさせてくれない? あなた方は先にお茶会を始めてらして」
「……なぜ、わざわざ別室なのですか、デボラ王妃殿下? 私の目の届く範囲で構わないと思いますが?」
「いやだわ、そんな怖い顔をしないでちょうだいよ、フィンドレイ公爵ったら。女性はね、いくつになってもお人形遊びが大好きなものなのよ。実際に遊ぶことは少なくなっても、美しいお人形が目の前にあったら、じっくり見てみたいものなの!」
「……マグノリアに傷一つ付けないとお約束してくださるなら、少しだけお貸ししましょう」
「もちろんお約束するわ!」
デボラ王妃殿下はフィンドレイ公爵様から許可を取ると、あっという間に私の腕をガッチリと組む。
「さぁ、別室に行きましょう。……元ラインワース子爵のマグノリアさん?」
「……は、はいぃぃ……」
私は蚊の鳴くような声で答えた。
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