32:王城のお茶会②(テオドール視点)
目の前のソファーに腰掛ける国王夫妻は、イセルの事情を聞き終えると、揃って深い溜息を吐いた。
「ふぅ……。説明をありがとう、テオドール。つまりイセルは、オウカ神聖王国の次代の聖人候補の一人というわけだね。だが、それだけにしては聖王ランドルフのやり方が過激すぎる。僕が聖王の立場なら『母方の親族がイセルを引き取りたがっている』などと理由を作って、まずは話し合いの場を設けるが……」
クリストファー陛下の言葉に、『確かに聖王は切羽詰まっているようだ』と私も考える。
マグノリアがオウカ神聖王国は今きな臭い様子だと言っていたが、何か関係あるのだろうか……。
顎に手を当てて思案していると、デボラ王妃がクリストファー陛下の腕に手を添えた。
「ねぇ、あなた。もしかしてオウカ神聖王国には、聖力を計測する魔導具でもあるんじゃないかしら? イセルはピヨン様が気に入るほどの聖力を持っているのでしょう? きっと次代の最有力候補なのよ。だからあの子をどうしても国に連れ帰りたいんだわ」
「なるほど。デボラの言うとおり、あちらの国にはそういった魔道具が存在するのかもしれない。でも、やはり、聖王のやり方は無慈悲すぎると思うけれどね。……もしかすると次代の候補がイセルしかいない可能性を疑っているよ、僕は」
「クリストファー陛下のおっしゃるとおりかもしれません」
二人の会話に私も口を挟む。
「今はイセルの叔母であるヴェネッサが聖女の位に就いていると聞いておりますが、評判は悪いようです。イセルの母であるサブリナ様も悪女のレッテルを張られていましたが、廃聖女となりました。ですが、ヴェネッサは未だに廃聖女となっておりません。次の候補がいないから、という理由で留め置かれているのやも」
「あぁ、確かに。悪女サブリナを追放したのに、悪女ヴェネッサを追放しない理由はないからね」
「聖王は手段を選んでいられない状況なのかもしれませんわね。あまりにも行動が早急ですもの。わたくしならフィンドレイ公爵家の使用人を大量に排除するなんて、初手ではしませんわ。まずは自分の手の内の者を忍び込ませて、年単位で時間をかけて信頼を勝ち取ってから、イセルの護衛の隙をついて誘拐させますもの」
「ははは。それは大変恐ろしいですね、デボラ王妃殿下。気を付けておきましょう」
「あらいやだわ、フィンドレイ公爵。ちょっとした冗談よ」
クリストファー陛下とデボラ王妃とは幼少期から顔を合わせる機会があったが、しょせん次男でスペアでしかなかった私は、ゼオン兄上を立てるためにお二人とはあまり親しくしてこなかった。
それが今になって関わることが増えてしまい、なんとなく気まずいものがある。デボラ王妃の冗談に笑みが引きつってしまうくらいには。
だが、デボラ王妃の言い分もわかる。
聖王ランドルフは焦り過ぎだ。
聖王という存在は清廉潔白でなければならないと聞く。
オウカ神聖王国はそもそもいびつな国で、王族よりも聖女サクラのほうが国民から愛されており、彼女の威を借りることで国を統治してきた。それゆえ聖王は聖女サクラを模範に、正義を愛し、罪を憎み、品行方正でいなければならないらしい。
まぁ、忍集団のような汚れ仕事をする者たちを囲っているのだから、しょせんは戯言だ。
むしろ聖人君子でいなければならないからこそ、国民に悟られぬように、忍集団の扱いは慎重にならなければならないはずだ。
私が聖王の立場なら、幾重にも策を巡らせ、時間と手間をかけてイセルを手に入れようとするだろう。
あちらの事情はまだわからないが、時間をかけていられないのだ。
「ネルテラント王家から聖王へ抗議を入れておくが、もともとたいした国交のない国だ。いい返事は期待出来ないと思ってくれ」
「承知いたしました。感謝いたします、陛下」
ネルテラント王家がイセルの背後についていると聖王に示すことが出来るだけでも、十分ありがたい。
「あとは公爵家の使用人問題か。安全な人材を王家から派遣しよう」
「わたくしがリストを作って、フィンドレイ公爵が面接すれば問題ないでしょう」
「それは助かります。よろしくお願いいたします」
王家の人材なら身元に問題はないだろう。政敵の手の者が潜り込む可能性はあるが、そこは私とアーノルドでしっかりと面接すればいい。
これで人材不足は解消するだろう。警備の強化にも手を回せるようになる。
「そういえば、イセルの子守り侍女は大丈夫なのかしら? 一番イセルに接する相手でしょう。身元は確かなの?」
デボラ王妃が尋ねる。
クリストファー陛下も、「確かに。イセルを誘拐しようと思ったら、まずは子守り侍女が一番先に狙われるね」と頷いている。
「問題ありません」
「妙に自信満々に言うなぁ、テオドール」
「もしかしてフィンドレイ公爵のお手付き侍女なんじゃありませんの?」
「失礼ですね、デボラ王妃殿下。私はそんな面倒な相手は作りません」
「あら、ごめんなさい。まぁ、それもそうよね。フィンドレイ公爵の顔にはいつも『女性関係全般が面倒だから私に関わるな』って書かれているものね」
女性に対して礼儀は守っているつもりだったが、私はそれほどわかりやすい顔をしていたのか。
デボラ王妃の言葉に少し驚いたが、どうであるにせよ、イセルという跡取りが出来た今はどうでもいいことだ。
とにかく話を戻す。
「イセルの子守り係の身元は安全です。なぜなら彼女は人間ではなく、魔導人形なのでね」
私はそう言って、窓の外を視線で示す。
イセルとアリーヤ王女が乗る二つのブランコを、背後から次々と押しているマグノリアが見えた。
国王夫妻は「魔導、人形……???」と不思議そうに首を傾げ、なぜかオリバーが『あちゃ~……』というように天を仰いでいた。
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