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20:本当に人間なの!?



 オリバーがフィンドレイ公爵家に戻ったのは、お昼を過ぎた頃だった。

 恐る恐る執務室に向かうと、オリバーの予想に反して、室内にいるのはテオドールと父である家令の二人だけだった。どうやらマグノリアはイセルのもとへ戻ったらしい。

 帰ってからすぐに彼女と対面することにならなくてホッとしていると、そこで妖精の話を聞かされた。

 イセルがオウカ神聖王国の聖女の血筋である可能性が高いことは聞いていたが、まさか妖精を引き寄せるとは。

 妖精はイセルを気に入っているとのことで、今までどおり彼の身辺を守っていれば、妖精も周囲の人間に災いをもたらしたりはしないだろう、とマグノリアが言っていたそうだ。


(マグノリアちゃんって妖精にも詳しいんだなぁ……。俺もあとで妖精について調べておこう)


 テオドールがオリバーに労いの声をかけた。


「出張ご苦労だったな、オリバー。メイソン氏は今度こそ報酬を受け取ったか?」

「……あー、えーと、はい」


 実際には、メイソン氏に渡すはずだった報酬はまだ旅行トランクの中にある。

 主人に対して虚偽を伝えるわけにはいかないし、このまま報酬を放置すれば横領になってしまうのでどうにかしたいのだが、オリバーはまだ半信半疑だったため、時間を稼ぐことを選んだ。


(だって、マグノリアちゃんが魔導人形じゃないだなんて、信じられなくない?? 本当に人間なの!? あんな細腕でマッドタイガーを倒しちゃったのに、フツーの人間の女の子だなんて無理があるでしょ?? マジで言ってんの、メイソン氏??)


 オリバーは元ラインワース子爵領での出来事を思い返す。


 フィンドレイ公爵領から一週間ほどかけて目的地に到着したオリバーは、さっそくメイソン氏の家に向かった。先触れを出していたのでメイソン氏も在宅しており、無事に会うことが出来た。

 オリバーはさっそく魔導人形製作のお礼を伝え、金貨の詰まった革袋を渡そうとした。

 すると、メイソン氏はなぜか非常に困惑していた。


『私は依頼をきちんとお断りしたはずです。身に覚えのない報酬を受け取るわけにはまいりません』

『いやいやいや!? フィンドレイ公爵家に、非常に優秀な魔導人形が届いておりますよ!? しっかりと坊ちゃまのお世話をしてくれて、主人もたいへん喜んでおります』

『そんなはずがありません。私は確かにマグノリアお嬢様の紹介状に、魔導人形の依頼は断ると書きました。代わりに彼女を侍女として推薦する、とも』

『……マグノリアお嬢様? それって、もしかして金髪碧眼の絶世の美少女ですか?』

『はい。正確には元お嬢様ですが。ビスクドールのようにお美しい御方です』


 メイソン氏から詳しく話を聞いてみると、親族から虐げられた上に立ち回りがとても下手で、自ら没落した少女の話が飛び出してきた。

 オリバーは唖然とする。

 マグノリアが本当に人間で、今は魔導人形だと偽って公爵家で働いているのなら――……生きるのがあまりに下手過ぎるだろ、とオリバーは思った。


 オリバーはそのまま、メイソン氏の家を後にした。

 本当にマグノリアが人間だとするとメイソン氏に報酬を支払うのはおかしいので持ち帰ったが、フィンドレイ公爵家に戻る道すがら、オリバーはだんだんと不安になってきた。


 メイソン氏の話は本当に正しいのだろうか?

 マグノリアが元貴族なら、テオドールの仕事の手伝いが出来るだろう。だが、子守りも出来て、イセルの失声症もケア出来て、その上で魔物をワンパンで倒せる美少女なんて実在するのか?

 さすがに出来過ぎではないか?


(てゆうか、生きるのが下手だからって、ふつうは人形のフリなんかしないよな? 人間として雇われていれば賄いも出るし、使用人の浴場も使える。病気になれば医者も呼んで貰えるし、長期休暇だって申請出来る。その権利を放棄するわけなくない? 俺なら絶対しない)


 でも、メイソン氏の態度が引っ掛かる。

 あれは嘘を吐いている人の態度ではなかった。


(マグノリアちゃんが魔導人形なら、メイソン氏が報酬を受け取らないわけがないんだよな~。むしろ最高傑作として大々的に発表するよなぁ……)


 己のことを魔導人形だと言っているマグノリアを信じればいいのか、彼女は人間だと話すメイソン氏を信じればいいのか、オリバーはまだ結論が出なかった。


 うんうんと悩むオリバーの肩を、テオドールが軽く叩く。


「今日はこのまま休んでくれ。明日からまたよろしく頼む、オリバー」

「はい、テオ様」


 さいわい、本日はもう休みだ。

 本当なら使用人棟の自室に戻って妖精関連の書物でも読みたいところだが、他に調べるべきことがある。

 マグノリアは人間か、それとも魔導人形なのか。

 彼女の尾行をして、しっぽを掴もうではないか。


 オリバーはテオドールに一礼すると、執務室から退室した。


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