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15:本当に人形なの?



 イセル坊ちゃまの本日のお世話を終えると、夜勤の護衛にイセル坊ちゃまに何かあったら呼び出してくれるようにお願いしてから子供部屋を離れる。


 本当はこのまま街へ出て、食料調達や銭湯に行きたいのだけれど。やるべきことがあるので隠し通路をスルーする。

 ……それにしても、魔導人形だから休憩時間なし、とか言われなくて良かった。

 魔導具の長時間利用は故障の原因になるから、魔導人形も稼働させっぱなしではすぐに壊れてしまうと思われているみたい。おかげで退勤後は自由時間だ。

 イセル坊ちゃまの就寝時間が早いのもあって、ふつうの侍女より早く仕事を上がれるし。


 そんなことを考えながら辿り着いたのは、フィンドレイ公爵様の執務室だ。

 扉の脇には護衛がいるので、「公爵様にイセル坊ちゃまのことでご相談があります」と伝えると、すぐに中に伝えてくれた。

 待つこと暫し。緊張で心臓がバクバクする。今、公爵様に触れられたら、脈拍で人間であることがバレてしまいそうだわ。前みたいに体を掴まれそうになったら、ササッと避けよう。


「はいはーい! 噂の魔導人形ちゃんに俺も会いたかったんだよね~! 初めまして~! 俺、オリバーでーす! 家令見習いをしてまーす!」


 そんな言葉とともに、執務室から若い男性が現れた。

 年の頃はフィンドレイ公爵様と同じ二十代前半ほどで、オリーブがかった明るい茶髪をしている。

 顔つきは家令にそっくりだった。たぶん親子なのだろう。ということは、侍女長のご子息でもあるのね。


「初めまして、オリバー様。子守り用魔導人形マグノリアです」


 私が挨拶をすると、オリバー様はギョッとしたように目をまるくした。


「この子がマグノリアちゃん!? 本当に人形なの? 瞬きもしてるし、胸が上下しているから呼吸もしてるし、人間にしか見えないんだけれど!? 話し方まで滑らかだし!」


 オリバー様の指摘に冷汗が出てしまう。……これも冷却水で誤魔化せるかしら?

 ズイッと顔を近付けてくるオリバー様に、私は泣きそうになりながら「ワタシ、ホンモノノ、マドウニンギョウ。マドウニンギョウハ、ウソツカナイデス」と嘘を吐いてしまう。


 すると。


「オリバー、マグノリアをよく見てみろ。表情はまったく変わらないし、動きにも妙な癖がない。顔も恐ろしく整っている。仕事も完璧だ。これで人間なら、マグノリアは我が家に来る前にどこかに囲われているだろ」


 奥の執務机にいたフィンドレイ公爵様が、私についてそう説明した。


「いやまぁ確かに人外レベルの美女ですし、姿勢や所作にも人間味は感じないですけれども。それを言うと、テオ様もそんな感じですからね?」

「私がか?」

「そうです。テオ様も人外レベルの美形で、歩き方から座ってるところまで生きたマナーの教則本って感じです。身近にそんなテオ様がいるから、魔導人形とか言われてもちょっとね……」

「疑う必要はない。そもそも、私よりお前のほうが先に魔導人形導入に賛成していただろ」

「それはそうですけれど~」

「マグノリア、不快な話を聞かせて悪かったな」

「……いえ」

「きみはよくやっている。今日も庭で楽しげに過ごすイセルを見かけた。本当にありがとう」

「たいへん恐縮です」


 どうやら執務室の窓から庭の様子がよく見えるらしい。

 フィンドレイ公爵は満足そうにそう言った。


「それで、マグノリア。イセルに関する相談があると聞いたが一体なんだ? 予算が足りないのなら用意しよう。それとも、あの子につける家庭教師の選別に参加したい、とかか?」


 四歳で家庭教師をつけるのはちょっと早いような気もするけれど、公爵家ともなると幼いうちからの英才教育が大切なのかもしれない。


「家庭教師の件ではありません。そちらは素晴らしい方を選んで差し上げてください。私がご相談にうかがったのは別件です」

「ほう、別件か」


 フィンドレイ公爵様は「オリバー、イセルの家庭教師を手配してくれ」と指示を出しつつ、頬杖をつく。

 執務机の上には大量の書類や本が積まれていて、私の話を聞くためにわざわざ仕事を中断していた。一使用人……というか魔導人形にも、配慮してくださる御方らしい。


「イセル坊ちゃまはまだまだ家族との関りが大切な時期です。どうかイセル坊ちゃまとお食事をご一緒してください。出来れば毎日」

「……私がか?」

「はい」


 固まってしまったフィンドレイ公爵様に対して、オリバー様が「確かに、子供には家族との関りがマジで大事ですよ。テオ様だって子供の頃はゼオン様と一緒にお食事をされていたじゃないですか」と笑いかけた。


「そういえば、そうだったな。両親と食事を共にしたことは滅多になかったが、ゼオン兄上とは幼い頃によく食事をした。……まぁ、ゼオン兄上は思春期になるとしょっちゅう屋敷を抜け出し、食事時を狙って帰ってきては私の食事を盗み食いしていたが。料理人に新しいものを用意させればよいのに」

「そんなこともありましたね~。懐かしいわ、ゼオン様」


 これならイセル坊ちゃまとの約束を守れそうだわ。

 フィンドレイ公爵様と一緒に食事をさせてあげると言い切った手前、イセル坊ちゃまをがっかりさせたくないもの。よかったわ……。


 私が安堵の息を吐いたのも束の間、フィンドレイ公爵様は「悪いが無理そうだ」と断った。


 え!? イセル坊ちゃまとお食事を一緒にしようって雰囲気でしたよね!?


「私もイセルが喜ぶならそうしてやりたい。事件当時のこともいずれ聞き出したいと思っている。だが当分は無理だ。時間がなさすぎてな」


 フィンドレイ公爵様の言葉を補うように、オリバー様が「そうですよね~」と困ったように笑う。


「あのね、マグノリアちゃん。ここだけの話なんだけれど、今、フィンドレイ公爵家全体が人員不足でさ。とにかく人手が足りなくて、テオ様にかなりシワ寄せが来てるの。テオ様ったら、食事の時間もちゃんと取れてないんだよね~。この状況がいつ解消出来るか分からないから、イセル坊ちゃまとの予定も立てられなくてさ……。テオ様も悪気があるわけじゃないんだよ。ごめんね?」

「承知いたしました。では、フィンドレイ公爵様がイセル坊ちゃまとの食事の時間を確保出来るように、私がお手伝いすればいいということですね?」


 なぁんだ。それなら簡単だわ。領地経営に関する仕事の流れは分かるもの。


「では、こちらの書類を整理します」


 とりあえず執務机に積まれていた書類の山の一つを、傍にある作業台に置いて中身を改める。

 計算が間違っている箇所は修正して、資料不足になっている部分には過去十年分の記録を集めて、これはグラフを制作して、陳述書は優先順位の高い案件から並べ替えて……。

 やはりフィンドレイ公爵家ともなると、貧乏子爵家とは比べ物にならないほど事業の規模が大きく、予算も膨大で、人脈が華やかだわ。返礼品の予算でさえ、桁が違う。

 でも基本的なところは同じなので、淡々とこなしていけば、一山分の書類整理が終わる。


「終わりました。フィンドレイ公爵様、書類のご確認をお願いいたします」


 フィンドレイ公爵様に書類を戻しに行くと、公爵様もオリバー様も強張った表情で私を見ていた。


 どうしたのかしら?

 ……ハッ。機密事項の書類が混じっていたとか!? それを知ってしまった私をどう処分するか考えているの!?

 あぁ、どうしましょう。

 怒られるのはとても怖い……。叔父様の怖い顔と暴言の数々が思い出されて、私の顔色はどんどん蒼褪めていく。


「……本当に仕事が出来ているな」

「うわー! マグノリアちゃん、すげぇ!! 魔導人形ってこんなことも出来ちゃうの!? 子守り用じゃなかったの!?」

「マグノリアにはイセルのために、子育てや護衛、フィンドレイ公爵家後継者の補佐も出来るように設計してもらった。だが、ここまで有能だとは……」

「テオ様、注文が欲張りすぎですよ!? いや、でも、これはマジで助かりますね……!!」


 そうか。私って、子育てと護衛と後継者の補佐が出来る設定の魔導人形だったのね。

 しくじったわけじゃなくてよかった……!


「ではマグノリア、こちらの書類も頼めるか?」

「はい。承知いたしました、公爵様」


 イセル坊ちゃまとフィンドレイ公爵様のお食事の時間を作るために、お手伝いを頑張ろう。


 次の書類の山に取りかかっていると、オリバー様が「マグノリアちゃんの後継者補佐モードがこんなに性能が良いなら、護衛モードもかなり凄いんだろうな~」と期待に満ちた視線を向けていたが、私は集中していてまったく気付かなかった。


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