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13:家なき叔父一家



 一方その頃、叔父一家はバーネルの伝手で伯爵家の別荘に招待されて二カ月ほど楽しく遊んでから、自分たちが根城としている寂れた領地へ帰ると――……住んでいた屋敷を失っていた。


「一体どういうことだ!!! マグノリアを出せ!!! ここは私の屋敷だぞ!!!」

「ですから、マグノリア嬢はふた月前に爵位と領地を王家に返還して、平民になりました。すでにこの地にはおりません。屋敷も王家の管理下におかれ、代官として私が派遣されております。あなた方はこの説明でもまだ分からないのですか?」


 叔父は屋敷から現れた黒縁眼鏡の代官に詰め寄る。


 代官はこれまでの経緯を何度も説明したが、叔父はまったく理解しようとしなかった。だんだん呆れた表情を隠せなくなってくる。


「そんなはずがない!!! ここは我々が暮らしていて……!!」

「こちらが証文です。マグノリア嬢のサインも、国王陛下の印璽も押されているでしょう?」

「そんな……っ!! こ、これはマグノリアが勝手にやったことだ!!! 後見人の私になんの許可も取っていない!!! こんなのは無効だ!!! 撤回だ!!!」

「マグノリア嬢の後見人と言っても、あなたは平民ですから、彼女の身上監護は出来ますが、領地経営や財産管理に口を出す権限は持っていません。マグノリア嬢の父親の遺言状によると、そのあたりのことは家令のルパート氏がサポートすることになっていたはずです」


 叔父の後ろでは、妻と息子のバーネルも「早く私たちを屋敷に入れなさい! 長旅でくたびれているのよ!」「不法侵入者め! 俺には貴族の仲間がいるんだからな! 俺が一言言えば、騎士団に手を回してもらえるんだぞ!」と叫んでいたが、代官の言葉を聞くと、三人揃って顔が真っ青になった。


「な……っ!! 何を、そんな嘘を言って……、我々を騙そうと……」

「マグノリア嬢について一度きちんと調べましたから、本当ですよ」


 身上監護とは、被後見人が自立出来るように生活環境の指導や援助を行うことである。もちろん被後見人の意思を尊重しなければならない。

 そして財産管理や領地経営に関しては、最初から家令が指名されていた。貴族であるマグノリアを平民の叔父ではサポートしきれないので。


 つまり、マグノリアが爵位を返還することに、叔父の許可は一切必要ないのである。


「身上監護の後見人が、マグノリア嬢の領主としての決定を覆せるわけがないでしょう? あなた方はまさか、以前から領地経営に口出しでもされていたのですか……?」

「そっ、そんなことはしていない!! 私はっ、口出しだなんて……っ」

「……そういえば、家令のルパート氏をマグノリア嬢から紹介されていませんでしたね。彼は一体どこにいたのでしょう?」


 家令を勝手に解雇したのは叔父である。


(屋敷から追い出す時に妙に抵抗するとは思っていたが、遺言状で財産管理を任されていたとは……。しくじったな)


 叔父の中では、『マグノリアの後見人=ラインワース子爵家のお金を自由に使える』という図式になっていたので、身上監護と財産管理が別だとは思っていなかった。

 たぶん、このことはマグノリアも知らなかったのだろう。だから自分が好き勝手お金を使っても偶に苦情を言うだけで、王家に直訴しなかったのだ。


(ラインワース子爵家の金で好き勝手やっていたことがバレたらまずいな。ここは一旦引くしかないか……。くそっ、マグノリアめ。なぜ爵位を返還するだなんて馬鹿なことを……!)


 叔父は歯噛みしつつも、妻と息子に撤退の合図を送る。


「ははは! マグノリアがいないようなので、我々は一旦帰りましょう! では代官様、ご機嫌よう!」

「ちょっと、あなた、帰るってどこに……」

「父さん、ラインワース子爵家がなくなったのなら、王都にあるボロいタウンハウスにだって入れないんだろ? 俺たち、これからどうするんだよ?」

「いいから来い! 早くしろ!」


 こちらを胡散臭そうに見ている代官の目から逃げるように、叔父はその場から撤退した。





 元ラインワース子爵領の外れまで来ると、叔父一家は腹立たしげに声を荒げた。


「マグノリアのやつめっ、爵位返還だと!? 出来の悪い姪だと思っていたが、ここまで愚かだったとは!!」

「恩知らずの娘だわ! 私たちがあの子のためにわざわざ一緒に暮らしてやったというのに! 私たちのこれからの生活を考えもせず、屋敷まで明け渡すなんて! なんて傲慢な子なのかしら!」

「父さん、母さん、とりあえずマグノリアを探そうよ。それであいつに爵位を取り戻させればいいんでしょ?」


 気怠そうに言うバーネルの案に、叔父は目を光らせた。


「……そうだな! マグノリアを探し出して、爵位返還を撤回させよう! そうすれば元通りだ。今後はマグノリアにこんな馬鹿な真似をさせないように、さっさとバーネルと結婚させよう」

「任せてよ、父さん。俺、女の扱いは上手いからさ。マグノリアは不愛想でつまんない奴だけど、女であることに変わりない。顔もいいしね。きちんと俺がしつけてやるよ」

「そうね。それがいいわ。私ももう叔母だからと甘い顔をせずに、姑として厳しく教育してあげるわ」


 叔父一家は話し合い、まずはマグノリアの情報を集めるためにバーネルの遊び仲間がいる王都へ向かうことにした。





「すみません、少々お尋ねしてもよろしいでしょうか?」


 叔父一家が屋敷から去ったあと、代官は街に出て領民に聞き込み調査をすることにした。叔父一家の言動があまりにも不審だったからである。


 領民たちは代官から声をかけられたことに不思議そうに首を傾げていたが、「マグノリア嬢の叔父について聞きたい」と尋ねられると、だいたいのことを察した。

 そして今までの鬱憤を晴らすように話し始める。


「業突く張りのオジサンですよ、本当に。ラインワース子爵家の次男坊でしたが、子供の頃から意地の悪い人でした。その頃はこの街もまだ栄えていて、お店もいろいろあったんですけれど、商品を無断で持って行ったり、勝手に商品を食べてお金も払わないなんてしょっちゅうで。文句を言えば『私は貴族だぞ! 私に楯突く気なら営業許可を取り消してやる!』なんて怒鳴り散らして。本当に最悪だったんです。それでも、ここが廃坑になると決まった時にあの人が平民として放逐された時はスカッとしました。それなのに、ねぇ……」

「マグノリアお嬢様がお一人になった途端、またこの地にやって来やがってな。屋敷を乗っ取って、だいぶ好き勝手していたようだ。叔父一家がマグノリアお嬢様名儀で借金を作りまくるから、お嬢様は領主の業務でお忙しいのに、冒険者として稼がなくちゃなんなくなってなぁ。おかげで俺たちはレア素材が手に入って、魔導具作りで生計を立てられるようになったが、本当にお可哀そうだった」

「ご両親の遺品まで売っぱらわれちまったんだろ? ご先祖様が集めたっていう、大量の書物も。ようやく酷いオッサンたちから離れられて、マグノリアお嬢様は今頃羽根を伸ばしているだろうよ」


「……なるほど。興味深いお話ばかりですね。お答えいただきありがとうございます」


 代官は領民から聞いた話をしっかりとメモして、そう答えた。

 そしてポツリと呟く。


「どうやら後見人制度が悪用されていたようですね。これは徹底的に調べて、王家に直訴しなければ……」


 黒縁眼鏡の奥で、代官の瞳が使命感に燃えていた。


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