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10:冒険者ギルド



 イセル坊ちゃまにお仕えする決心をした私は、彼の入浴や夕食や就寝のお世話を無事に終えると、大問題が待っていた。

 ――私の食事問題である。

 入浴もどうしましょう……。近くに川とか泉とかあればなんとかなるかしら……? でも冬場になったら厳しいわね……。


 美味しそうな匂いを漂わせている使用人食堂から、私は断腸の思いで顔を逸らす。そして人気のない方向へと足を向ける。

 名建築家ドルファン五世が建てた城には、必ず隠し通路や隠し部屋があるといわれている。フィンドレイ公爵家にもきっとあるだろうと思った私は、侍女長が案内してくださった時に隠し通路の目星を付けていた。


 廊下の壁に彫り込まれた、なんの変哲もないレリーフ。

 しかしそのレリーフをそっと押すと、トンネルのような通路が現れた。

 私は用意していた魔導照明を掲げて通路に入り、とにかく突き進んでみる。失敗だったら引き返せばいいし、罠が仕込まれていたら粉砕すれば大丈夫。一応ガントレットも持ってきているもの。

 暫く突き進むと扉があり、そこを出ると地下水道に繋がっていた。さらに進んでみると、無事に川辺に出る。

 川の向こう側に、フィンドレイ公爵領の街が見えた。


「やった……! これで食料の買い出しが出来るわ……!」


 喜んだのも束の間。そういえば私にはお給金が出ないのだった。もらえるのは魔石だけ……。


 エプロンのポケットから取り出した魔石を眺め、私は項垂れた。

 しかし、すぐにあることに気が付く。


「魔石は売ればいいんだわ。冒険者ギルドで」


 ということで、私はフィンドレイ公爵領の冒険者ギルドへ向かうことにした。


 冒険者ギルドは街の中心にあった。

 元ラインワース子爵領にあった冒険者ギルドは本当に小さな支店だったので、受付のお姉さんだけが常駐して事務仕事をしており、ギルドマスターは隣の領地にある冒険者ギルドと兼任していたので月に数回いればいいほうだった。隣の領地のほうが規模が大きく、利用する冒険者も多かったのだ。

 フィンドレイ公爵領にある冒険者ギルドは、元ラインワース子爵領にある支店より十倍近く大きかった。それこそ王都にあるギルド本部と同じくらいの規模の建物だ。

 すでに夕飯時を過ぎているのに、まだ引っ切りなしに冒険者が出入りしていて、どの階の窓も明かりが灯っている。

 これなら私が勤務後に利用しても目立たないかもしれないわ。


 冒険者ギルドの扉を潜ると、受付のお姉さんたち(元ラインワース子爵領と違って十人以上いらっしゃる)や、待合室のベンチに腰掛けている冒険者たち、奥の軽食スペースでお酒を飲んでいる冒険者たちが、私に視線を向けた。こちらを訝しげに見てくる。


「なんでこんなところに侍女がいるんだ?」

「貴族様からの依頼か?」


 あっ。今の私は冒険者服じゃなくてお仕着せ姿だった。着替えを持ってくればよかったわね……。

 次回は街に出る前に着替えよう、と反省していると、受付の順番が来る。


「冒険者ギルドへようこそ! 本日のご用件はなんでしょうか?」

「あっ、あのっ、魔石を売りたくて……、その……」


 イセル坊ちゃまは子供だったからすぐに馴染めたけれど、やはり他人と話すことはひどく緊張する。

 私がポケットから魔石を取り出して受付に置くと、周囲から「すげぇ。かなり高ランクの魔石だな」「一介の侍女がなんであんな魔石を持ってんだ?」と、ヒソヒソ話が聞こえてきた。

 営業スマイルだった受付のお姉さんも、魔石を見た途端に冷たい雰囲気になった。


 え? まさか私、貴族の屋敷から魔石を盗んだと思われてるのかしら? お仕着せ姿だから?


「……冒険者ギルドでは盗難品の売却を防ぐために、身元登録が必要となっております。冒険者登録をされますか?」

「あの、いえ、ギルドカードは持ってます……!」


 完全にこちらを疑っているお姉さんが怖くて、私はびくびくしながらギルドカードを提出した。

 すると、お姉さんの顔色がまた変わった。


「『殺戮人形(キリングドール)』!? もうすぐSランクに昇格間近と言われている高ランク冒険者なのに、なぜか寂れた子爵領で活動しているっていう、あの殺戮人形!!? フィンドレイ公爵領に来ていらっしゃっていたんですか!!?」


 お姉さんの言葉に、こちらの様子を伺っていた冒険者やギルド職員たちが騒ぎ始めた。


「あれが殺戮人形!? 最年少でAランクになったという、あの伝説の冒険者か!」

「俺は彼女が冒険者ギルドの扉を潜って来た時から分かっていたぜ。ただ者じゃないってな……」

「美少女だけれど、雰囲気が怖いと思っていたわ」


 畏れや興味が入り混じった周囲の視線が怖くて、私は委縮してしまう。無表情だけれど。


「大変失礼いたしました! 魔石の買い取りをいたしますね! さすがは殺戮人形様、かなり質の良い魔石です。すぐに査定いたしますね!」


 受付のお姉さんは再びほがらかな笑顔になり、魔石を素材鑑定人の元へ運んでいった。

 すぐに受付に戻って来て、「査定終了までお待ちください」と言って売却に関する書類制作を始める。

 その間ずーっと、お姉さんは喋りっぱなしだ。


「殺戮人形様は今後はフィンドレイ公爵領で活動されるのでしょうか? ギルドマスターは本日あいにく留守にしておりますが、殺戮人形様がいらっしゃたと知ればご挨拶したいはずです。ご予定の空いている日をお伺いしてもよろしいでしょうか? あ、私、以前から殺戮人形様のファンでして! あとでサインとかいただけないでしょうか!?」

「あ……、その……、こちらでは冒険者活動をする予定はなくて……」


 フィンドレイ公爵家に就職したので、冒険者として活動する気は特にない。

 私はまだ人間社会で普通に生きることを諦めたくないもの。

 念のため、冒険者ギルドの更新が切れる前に依頼を受けるかもしれないけれど。

 でもギルドカードを失効したら再登録料金を支払って、また下のランクからスタートすればいいだけなのよね。Aランクにこだわりはないし。


 受付のお姉さんは「えっ!!? もったいないですよ!! 上位ランクなんて、なりたくてなれるものじゃないんですよ!?」と目をまるくしていたし、冒険者や職員たちの騒めきも大きくなったけれど。


 魔石の査定が無事に終わり、売却の書類にサインをすると、思った以上のお金が手に入った。

 これでなんとか魔導人形のフリを続けられそう……!


 私は革袋にたっぷりと入った金貨を見て、ふと、あることを思いついた。


「……すみません。依頼を出したいのですが……。オウカ神聖王国に関する情報を集めたいのです。聖都の様子や聖王の話でも、なんでも」


 私はイセル坊ちゃまのために、オウカ神聖王国の情報収集を依頼することにした。

 ネルテラント王国とは隣接していないけれど、冒険者は国をまたいで活動する人もたくさんいるから、待っていればそのうち情報が入るだろう。

 依頼料を手渡すと、受付のお姉さんは「次はオウカ神聖王国へ移動予定なんですか?」と残念そうに言いながらも、依頼書を制作して掲示板に貼ってくれた。


 これで少しはイセル坊ちゃまを取り巻く状況が見えてくるといいな……。


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