「ミーティングの午後」
会議室は、想像よりもずっと“ゆるやか”だった。
壁にホワイトボード。大きめの丸テーブル。その上に、コンビニのコーヒーと差し入れらしい焼き菓子が並んでいる。
会議というより、雑談サークルのような空気だった。
澤村は、部屋の隅の席に静かに座った。目の前には、神崎と桐谷。
ほかに、髭をたくわえた年配の男性や、スマホ片手にうつむいているエンジニア風の青年がいた。
「じゃ、今日のライトミーティング、始めまーす」
神崎が拍手混じりに言うと、誰かがつられて手を叩いた。
「まずは、今日から仲間入りの澤村さんに一言いただきましょう!」
そう振られ、澤村は一瞬だけ固まる。
全員が自分を見ている。だけど、その視線には緊張も評価もない。ただ、純粋な“歓迎”の色があった。
「……澤村です。営業として入りました。まだ環境に慣れていませんが、よろしくお願いします」
短くまとめた挨拶に、場があたたかい拍手で応えた。
それだけのことで、胸の内がすこしほぐれていく。
「営業だったら、今度神崎と一緒にプレゼン来てよ。神崎の喋り、かなり自由だけど、評判はいいからさ」
ひげの男性が笑いながら言う。澤村は、軽くうなずいた。
「自由っていうか、センスだから」
神崎が口を尖らせ、桐谷が吹き出した。
その笑いに、つられるように澤村も少しだけ口元をゆるめた。
この空気。
馴れ合いとは違う。仕事の中に、ちゃんと人がいる。思っていた“職場”とは、やはりどこか違っていた。
「……悪くない、かもしれない」
誰にも聞こえないように、澤村は小さくつぶやいた。