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星のまにまに

            序章

 モクモクと灰色の煙が天井に浮かぶのを眺め続けて早数分。


「何も思い浮かばねぇ…この後の流れ」


 書きかけの小説を前に頭を悩ませること、かれこれ何周した事やら。その度にまた一本、もう一本と煙草を吹かしては灰皿に押し潰すこと山の如し。灰皿に目をやると大量に吸い潰した吸い殻が山盛りになっていた。


「はあぁぁ……。こりゃ、肺炎コース真っしぐらか?最近、咳も気になるし…ゲホッ」


 ゲホゴホっと嫌な音を喉から鳴らして徐ろに聴き手にライターを握る。流れるように箱を持ち上げてお目当ての物を抜き取ろうと指を這わす。

数回、空を掻けば中身がない事に漸く気付いた。


「嘘だろ、煙草がねぇじゃねぇかよ…っ。なんで最後の一本で気付かなかったんだ俺は!」


 はあぁぁと大きな溜息を吐きながら再度、天井を仰いで目を瞑りほんの少し頭を悩ませる。このまま寝るか、近くのコンビニまで足を運んでカートンで買いに行くか。ぐるぐると選択を迫られれば答えは一択。

上着を手に取りガタガタと床に鎮座してる物が足に触れては音を鳴らしそれを無視するように玄関の扉を開けた。



 桜が舞い散る季節、世の中は新年度を迎えたばかりのこの時期に俺は着古したヨボヨボの黒長袖とグレーのパンツを身に纏って真夜中の静かな住宅街を歩き進む。

 数日ぶりの外出に喜びなど何も感じる事はなく外の空気に触れながらぼーっと上を見上げる。

都会の街にしてはキラキラ光るお星様に疑問を抱きながら、今日の夜は一段と輝く満点の夜空に目を奪われた。

そんな星々を見ていると昔、母親に言われた言葉を思い出す。


『真澄、あの星たちはね。死んだ人の魂が星になってこの地球に残った人たちを、温かく見守ってくれているんだよ』


 そんな言葉を聞いて幼かった俺はなんて母に返したか思い出せない。今となっては綺麗事のようなその言葉に苛立ちすら感じる。残された者たちを見守ってその後はどうするんだよ。誰かが助けてくれる訳でもなく見守るだけだ、自分が救われる訳でもない。

この憤りを誰かに発散する訳でもなく、舌打ちで抑える。

 コンビニに到着すれば特有のメロディーが流れ、1人のお客として歓迎されると俺は、つかつかとお菓子コーナーに近づき愛用のチョコ菓子を手にレジへ向かう。


「いらっしゃいませ〜。あ、お兄さんお久しぶりですね〜。今日もこの銘柄で合ってますか?」

「あ、はい…それです。いつも、すみません…」

「あはは!なんで、謝るんですか〜!こういう時はありがとうの一言が欲しいですー!」


 レジスタッフのお姉さんは深夜で働いてるにも関わらず、こんな俺にも笑顔を浮かべて明るく対応してくれるので陰ながら応援している謂わば推しのスタッフだった。

少しまるっこくて健康的なボディーをお持ちの彼女はせっせと品物をレジに読み込んでいく。


「2点で6,185円になります!ポイントカードなどはお持ちですか?」

「ないので大丈夫です、電子で支払いを…」

「はい!こちらにタッチしてください〜。レシートはいりますか?」

「大丈夫です、えっと…いつも、ありがとうございます…」

「!、またのご利用をお待ちしております〜!」


眩しい笑顔で手を振る彼女に心臓をグッと鷲掴みされる。締め付けられる感覚に戸惑いを隠せず、ぎこちない笑顔を浮かべながら帰路に着いた。



 偶々、外に出たら推しに会えて今日はなんて嬉しい日なのだろうか。先程まで鬱々としていたのが少しだけ晴れやかになった。

 だが、家に帰ればまたあの暗い部屋に戻るのかと思うと顔に影が掛かる。じっと地面に目線が向いてしまい慌てて視線を上に向けると満点の星空に光が落ちた。


「流れ星…」


 流れ切る前に3回唱えれば、願いが叶う。昔からの言い伝え、おまじないとして古くから愛されているそんな伝承。どの時代から発生したのか分からない。だが、なんとも陳腐なものだろうか。

 人は願わずにいられない。

心がある限り、望みが消えるその時は死のみ。

人はどうして何かに縋る事でしか生きた心地を得られないのだろうか。

全ての人間がそうと言う訳ではないが、俺はその部類に入るだろう。


 "願え"


 ふと頭に過ったその言葉に彼は目を見開く。

そんな物があるわけがない、そんなものはまやかしだ。

諦めを抱いて置きながらも俺は、何故かその言葉に囚われた。

誘われるように現状の変化を、願わずにはいられなかったのだ。


「"どうか、こんなくそったれな人生にも生きる喜びをくれよ"」


 その言葉を皮切りに一つの流れ星が一等、光輝き始めた。それが自分に向かって、赤い炎を纏い勢いよくその星が目の前まで落ちてくる。赤い焔は宙に分散し小さい何かが浮かんでいた。

 

「っ子供…?」


 長く白い髪をひらひらと靡かせながら小さい子供が真澄の前に現れニコリと微笑んだ。


「初めまして、きみの願いを聞いて参上したオーカスだよ。今宵きみは、星々の戦いに勝ち抜くための戦士に選ばれました。どうか僕と一一番星を目指して一緒に戦って欲しい」

「は……?」


 星々の戦いとは何か。願いとは何か。現れたこの子供は一体何者なのか。突然、自分の身に降りかかった突発的な変化に頭が追いつかない。


「何を言っているんだ、お前!?」

「お前じゃないよ、オーカスだ。ほら、オーカスって呼んでおくれ。えっと…、君の名前はなんて言うんだい?」

「……っ、真澄…」

「マスミ!なんて素敵な名前だろう。よろしくねマスミっ、はい友好の証に握手!」


 徐ろに右手を差し伸べる目の前の子供、もといオーカスという少年は無垢な笑顔をこちらに向けながら俺の反応を待っている。

 恐る恐る差し伸べられた小さな手を握れば突然、眩ゆい光が俺たちを覆い尽くした。


「なっ!?なんだっこれ!?」

「これで、"契約"は無事に成立した…。これからよろしくね…________よ」

「は!?何て言った!?おい、契約ってなんだ、よ…」


 目を瞑ってしまうような眩しい光が落ち着くとすかさず、握手した右手をオーカスから離す。するとその瞬間、ぴりりと痛みが走った。

 その箇所に目を向ければ手の甲には『鎖で囲われるようなペンタグラム』のようなアザが浮かび上がっていた。


「なんじゃこりゃぁっ!?おい!なんだこれ!?」

「ふふふ、新鮮な反応だね。それは僕との絆の証、的な?」

「ギャルみたいなノリで誤魔化してんじゃねぇぞ!?詳しく説明しろよっ!」

「はいはい、ちゃんと説明するから抑えて抑えて。これはね…」


 要約するとコレは星隷(せいれい)との契約の証であり、戦いが終わるまで切っても切れない証明らしい。

オーカスが言っていた星々の戦いとはその星隷同士の争いがこれから活発化され、一位の座を狙う者が虎視眈々と今か今かとその機を待っているそうだ。


「待っているって…まだ、戦いは始まっていないって事か?」

「そう!最後の参加者である僕とそのパートナーが決まるまで選星は始まらないんだ」


 にこりと笑うオーカスは幼子が喜ぶようにキャッキャとはしゃぐ。

そうして興奮が冷めやらぬこの少年は何事もなく爆弾を投下した。


「でもこれで安心だね、こうして君とパートナーを組むことが出来たんだ。バトルの参加権が得られたよ!」

「ふ、…っふざっけんなぁぁぁっ!!」


 真夜中の住宅街に響き渡る俺の怒声を、誰も咎める事は不思議となかった。

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