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1章:変わった日常

 HRも間もなく終わろうかという時、不名崎ふなさき 芳野よしのは外に目線を逸らす。

 雪も降ろうかと空は曇り、厚着の生徒達が足早に校門に向かう姿を見ていた。

 ふと、校門で佇んでいる1人の女子生徒に視線を移す。

 ———待ち合わせだろうか。

 そこで目線に入った男子生徒が息を切らした様子で彼女の元に駆け寄った。

 「———不名崎ぃ?聞いとるかぁ?」

 不意に担任の田村に自分の名前を呼ばれ、体が一瞬強張る。

 「・・・あ、はい、すいません」

 歯切れの悪い返事を返すと、田村はヤレヤレと言った様子で話を続ける。

 「何度も言うが、()()()()へ近寄るなよぉ。行方不明になって発見された者はおらん。下校時も注意するように!」

 担任の話も終わり、視線を校門に戻すと先程のカップルの姿は無く、白い雪が降り始めていた。


 

 「・・・ただいま」

 玄関をくぐり、つぶやくような挨拶をするが返事は無い。

 電気は消えており、芳野の家は母子家庭だ。今日も母は遅くまで仕事だろう。

 芳野は携帯を確認するが連絡は無い。ここ1年は当たり前の事で寂しさも無い。

 公務員である身分の母は()()()()の件で日々の仕事に追われてるのであろう。

 自室へと入ると、明かりもつけずパソコンを立ち上げる。1年も続けると日課と言ってもいいのかもしれない。芳野は隔離地域に関するスレッドを確認する。


 ———隔離地域。

 今から1年と3か月前に世界各地で発生した災害。全貌は現在に至るまで掴めておらず、日本では都内7か所に発生。球体状の亜空間が突如発生し、半径5kmを()()()()()()

 空間の境界を跨ぐと物質は消え、中の様子は不明。政府主導の下、自衛隊や科学者により内部の調査が行われたが成果は上がっていない。

 現在は隔離地域として、周囲をフェンス等で覆われており、警察や自衛隊によって周囲を監視されている。

 スレッドでは隔離地域出現以降、頻繁な意見交換が行われているが眉唾物も多い。家族や友人、知人が巻き込まれ安否を心配する人達も多く情報を寄せている。

 これまで隔離地域への立ち入りを無断で行う「境界跨ぎ」を実行する人達も現れたが、境界を越えた後の報告は一切現れず、行方不明になっている。

 「今日も大した情報は無い・・・か」

 溜息をつくと、携帯が震える。

 電話がかかってくるのは何時ぶりだろうか。しかし表示されている電話番号は覚えがある。

 ハッと息を飲むと少し、震えた手で電話を取った。

 「芳野か?」

 電話越しでも声を聞き違える訳が無い。

 「真人・・・?」

 ———永遠真人(とわ まひと)。1年ぶりの親友の声は何処か真剣な声色だった。

 「何してたんだよ、お前が居なくなって1年も・・・ッ」

 そう。真人は1年程前に学校を退学し、その後の行方が分からなくなっていた。災害後だった事もあり、周囲にそれを不思議に思う者も少なかった。芳野も強引な真人ならば、そう行動するだろうと納得していた。

 「今、詳しく話してる暇はねぇ。明日16時に俺の家の墓に来い。場所はわかるな?」

 「ちょっ、まってよ・・・・!いきなり何を・・・」

 ・・・プッ。ツー。ツー。 強引に言い残すと真人は電話を切ってしまった。

 突然の事で呆然と切れた画面に見入るしか出来ないでいたが思考は待ってくれない。

 永遠家の墓。

 芳野は1度だけ足を運んだ事がある。真人が行方をくらます、数日前の事だ。


 「・・・何故、澄花が巻き込まれなきゃならねぇ」

 真人は墓石を睨みつけながら、静かに呟いた。

 歯を食いしばり、普段整った顔は怒ってるようにも悔しがってるようにも見える。

 永遠澄花(とわ すみか)

 真人の妹だ。瞳は冷たく切れ長の目、触れれば折れてしまいそうな華奢な身体。艶やかな髪。それらが与える印象は深窓の令嬢のような、100人居れば100人が美人と答える地域では有名な子だった。

 災害発生時に巻き込まれ、2ヶ月が経過した。行方不明という扱いではあるが、真人の両親は何時までもこのままでは、と簡単な葬儀を行った。最後まで真人は反対していたが両親の気持ちも推し量るに余りあるのだろう。外様ではあるが、よく真人と澄花と一緒にいた芳野も参列した。

 「・・・澄花の運命が、こんな不条理でいいはずがねぇ。」

 「真人・・・」

 続ける真人は何か決心をしたような面持ちだった。

 「ここに澄花は居ない。死体が見つかった訳でも無い。今が最悪だと言えるなら、まだ最悪の状態じゃねぇッ!!」

 そう告げた真人は数日後、姿を消した。真人の両親から何度か連絡が来てないか聞かれたが芳野も真人の足取りについては分からないままだった。

 1年経った今になぜ真人が、と考えが募るが答えは出てこない。

 電話のせいだろうか、とても疲れたように感じる。

 芳野は考えるのを辞め、ベッドへ倒れ込む。食事を取る気にもなれず、そのまま眠りについた。

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