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第四話 温室

「俺が首を切られる前……色々あって隠れ家に独りで潜んでいた時があった」


 生首のコスドラスが川面を眺めながら話し始めました。

 ドナトス修道士は『切られる』という言葉に少し引っ掛かりましたが、黙って耳を傾けました。


「あの日、この場所で死んで誰にも見つけられず腐った死体になってしまえば、連中が悔しがるだろうと思ってな。手元にあった酒の類を全部飲み干して……結局死ねなかったが意識を無くして、気が付くと俺は小屋の中にある花園のような場所に座り込んでいた」



 コスドラスは、不思議な温室の中で様々な花に囲まれて座り込んでいました。

 屋根も壁もかすかに虹色に輝く透明の板で出来ていて、外は闇に包まれ何もありません。夜のような空から雪が降っているのが見えてひどく寒そうです。


 温室の中は物音ひとつせず、見たところ灯りも無いのに不思議な光に満ち、色とりどりのたくさんの花々が満開に咲き誇っています。温かな空気と甘く濃い花々の香りに包まれて、コスドラスはここが死後の世界かな……とぼんやりと考えていました。


 すると、どこからか可愛らしい笑い声が聞こえてきました。

「重すぎるわね。出られないわ」

「重すぎるわよ。柵を越えられないわ」

「駄目ねえ、もっともっと軽くならないと」

「でも軽くできるかしら?無理じゃない?」


 訳のわからない言葉にうるさいな、と苛ついたコスドラスは手近の鮮やかな深紅の花を一輪手折りました。


 その時、どこか遠くから澄んだ鈴の音が聞こえてきました。


 シャン……シャン……シャン……。


 驚いて顔を上げると、透明な壁の向こうに、いつの間にか銀の鈴を幾つもつけた漆黒の馬が立っています。馬上には、光を閉じ込めたように輝く銀色の外套を羽織り、銀色の髪を長く垂らした美しい女性が手綱を握っています。彼女はコスドラスを氷のように冷たい青い瞳で真っ直ぐに見据えると、良く通る涼やかな威厳のある声で話しかけてきました。

「お前のいるべき場所はそこか?」


 コスドラスは次の瞬間、強い眩暈に襲われて目を閉じました。

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