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第三話 だんまり

 ドナトス修道士は、水中から生首のコスドラスの髪を掴んで勢いよく持ち上げました。水しぶきが辺りに飛び散ります。


「ちょっと暴れないでください!落っことしますよ!」

「もっと丁寧にやれ!」

「大声を出さないでください。水浴びをさせろ髪を洗えと要求したのはあなたですよ」

「そりゃそうだが、俺は首だけでも息はしてるんだからな」

 ドナトス修道士は周囲を気にしつつ、文句を言うコスドラスの顔や髪を手早く布で拭きました。


 早朝、ドナトス修道士はコスドラスを入れた木箱を背負って修道院を出ました。

 まだ彼と旅を一緒にするかどうかは決めてはいませんでしたが、「長い間洗っていないから髪が気持ち悪い、顔も洗いたいから水浴びさせろ」とコスドラスが木箱を揺らしてうるさく騒ぐので、仕方なく水のきれいな川のほとりで洗ってやる事にしたのです。確かに少々臭いましたからね。


 ドナトス修道士は川のほとりの草地に座り込んで、膝の上でコスドラスの耳の後ろを拭いてやりながらしげしげと観察しました。

 首の切断面はとても固い皮膚のようになっていて、骨などは見えません。傷も無いのでこれなら跳ねて移動しても大丈夫そうです。

 でも顔の唇は荒れていますし、肌も無精ヒゲなどは生えていませんが潤いが無くかさついています。やはり胴体が無いので、皮膚の水気が足りなくなるようです。

 首だけで生きているのがそもそも不思議なのですが、でもコスドラスの存在を神の奇蹟と呼ぶのも何か違うような気がする……。

 どうしてだろう? とドナトス修道士は内心で首をひねりました。


 髪は伸びたりするのかな、とドナトス修道士がついでに木箱の拭き掃除をしながら考えていると、布の上で日光を浴びているコスドラスが、川の向こうに広がる林や草原をじっと見つめているのに気づきました。そうでした、彼は長い間この狭い木箱に閉じ込められていたのです。


 ドナトス修道士は少しだけ声を優しくして尋ねました。

「この聖遺物箱は鍵がありませんが、あなたは開けられなかったんですか?」

「……自分では開けられないようにされていた」

「それはもしやあなたが封印されていたということですか?」

「まあ、そんなところだな。誰が何をどうやったのかは知らないが」

 コスドラスは相変わらず曖昧な返答しかしようとしません。

「どれぐらいの年月、聖遺物箱の中にいたのですか?」

「さあな。今がいつかもわからんし、箱の中では余計に何もわからんさ。あーそれにしてもかなり乱暴だったが、おかげでさっぱりした。次は香りのいい風呂にのんびり入浴させてくれ」


 ドナトス修道士は思い切って言いました。

「コスドラス、はっきり答えてください。なぜ首だけになったのですか?胴体はどこかに葬られているのですか?」

 コスドラスはドナトス修道士の顔を見上げましたが、黙っています。

「修道士は本来他人の過去は詮索しませんし、私はあなたを危険だとは思いません。でも簡単に人目に晒せないなど今後の事を考えれば、素性のわからないまま一緒に旅は出来ません。どうかきちんと話してもらえませんか。話してくれれば、私もあなたの為に出来るだけの事はすると約束します」

 しかしコスドラスはだんまりのままです。


 しばらく待っても答えが無いのでドナトス修道士が溜息をついた時、突然コスドラスが話し出しました。

「昔、奇妙な夢を見たんだ」

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