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第一話 むかしばなし

 昔々のむかしばなし。


 まだ神様の教えが天と地を覆っていた時代。

 ドナトスという名前の若い修道士が杖を持ち、少しの荷物を背負って独りで旅をしていました。


 ドナトス修道士は、とある国の山奥の修道院で修道士たちと暮らしていました。

 ところが、深夜の大火事によって修道院の建物が完全に焼け落ちしてしまったのです。

 結局、修道院はそのまま解散する事になり、修道士たちは各々縁のある近隣の修道院へ移ることになりました。

 けれど一番若いドナトス修道士だけは、遠いアラペトラ国にあるアラペトラ大修道院を訪ねて行く事を決意しました。


 アラペトラ国は全ての聖職者の頂点に立つ教皇が治める、神と教皇のための国です。


 アラペトラ国の中央には、教皇と大勢の聖職者たちが居る信じられないほど巨大な『白の大宮殿』があり、天にも届きそうな鐘楼と壮麗で素晴らしい大聖堂が並び、大聖堂の内部には教皇だけが着座できる眩しいほど光り輝く玉座もあるのです。

 その玉座は、遠い昔に神がその手で直接据えたという伝説がありました。だからこそアラペトラ国は今も神の威光と権威に満ちているのです。


 亡くなった師匠からアラペトラ国を訪問した時の思い出を幾度も聞いていたドナトス修道士は、いつか自分も行ってみたいとずっと憧れていたのです。

 両親のいない彼は子供の頃に志願して修道院に入り、真面目に神への祈りと勉学に日々を捧げてきました。だから、大修道院でも立派にやっていけると思っていました。

 もっと修行して偉くなり、高位の聖職者になれば更に神に近づけるはずだとドナトス修道士は信じていたのです。


 そうしてドナトス修道士は旅に出ました。


 目的地のアラペトラ国までは自分の足で歩いて行かなければなりません。

 修道士は馬や乗り物を使う事は禁止されていますから、長い月日がかかりますがこれも修行です。ほとんど毎日杖をついて街道を歩き続け、夜は修道院や教会に泊めてもらい、時には小さな宿に泊まり、時には野盗を警戒しながら野宿をして、山を越え川を渡り少しずつ進んで行きました。


 そんなある日の事です。

 ドナトス修道士は森に囲まれた小さな村に辿り着きました。


 もう夕暮れ時です。

 ドナトス修道士は、村の中央に見える小さな教会に一晩泊めてもらおうと思いました。

 しかし、近づいてみると教会は荒れ果てていて無人状態なのがわかりました。どうやら過去に野盗に襲われ、全て略奪された挙句にずっと放置された状態のままのようでした。小さな村にも村人にも教会を修復する余裕は無さそうです。

 ドナトス修道士は悲しく思いながらささやかな聖堂の中に入り、藁と小石の散らばった床を踏んで穴の開いた天井を見上げました。


 すると。コトコトというかすかな物音と、人の声のようなものがどこからか聞こえてきました。


 聖堂は空っぽで、祭壇がぽつんと置かれているだけです。

 ドナトス修道士は不思議に思い、かつ身構えました。もしかしたら悪魔か何かの悪戯かもしれませんから。

 物音と声は祭壇の下の方から聞こえてくるようです。誰かが閉じ込められ、助けを求めているのかも?とドナトス修道士は考えました。ならば放ってはおけません。


 荷と杖を床に置き、見た目よりも軽い祭壇を押して動かすと穴があらわれました。

 そして穴の底には、幾つかの宝石と金属の細かい細工で飾られた古びた木箱が置かれていました。

 ドナトス修道士は驚きました。もしやこの木箱は聖遺物箱では?


 戸惑っている間も木箱はカタカタと揺れ、中からかすかに歌声のような音が聞こえてきます。

 しかしやがて歌声は「おーい出せー」という呼び掛けに変わりました。

 どうやら声の主は男性のようです。

 まさか人間がこんな小さな木箱に?と怪しみつつドナトス修道士は穴の縁に座り込むと、思ったより軽い木箱を穴の底から持ち上げて側に置きました。揺れと声が止まり静かになったので、少しためらってから蓋に手をかけると鍵はかかっていません。そっと開くと中を覗き込みました。


 木箱の中から生首がドナトス修道士を見上げていました。


 生首は、両目をまばたきしました。

「はあ、助かった。なんだ坊さんか?とりあえずブドウ酒を一口飲ませてくれよ」


 でもドナトス修道士はその言葉を聞いていませんでした。

 彼は気絶していたのです。


 これがドナトス修道士と生首のコスドラスの出会いでした。

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