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92話 得体の知れない能力

 風の精霊王エアリエル。

 彼の話によると、土の精霊以外は浮遊と呼ばれる能力を持つ。


 蛇のように尻尾を動かして移動する水の精霊でさえ、地面に接しているわけではない。言われてみれば、それもそうかと納得する話だった。


 そして彼の見立てでは、シーレは飛翔という能力に進化した可能性が高い。移動の際にその兆候が見られるのだと興奮気味に語る。


 それだけでも珍しいことではあるが、シーレからはなにやら得体の知れない力を感じるらしい。



「詳しく調べてみよっか。はい、握手」


 右手を差し出すエアリエル。困ったシーレはアルの首筋に隠れた。


(シーレ。大丈夫、怖がる必要はないよ)


 首筋が少しくすぐったい。


(シーレは昔から俺の自慢だったからな。自信を持っていいよ)


 索敵だけは誰にも負けない。

 いくら無能と蔑まれようが、それだけは変わらなかった。



 アルの励ましを受け、恐る恐る手を伸ばすシーレ。ゆっくりと近付いたエアリエルは、差し出された右手を優しくにぎった。


「じゃ、調べてみるね~」


 小さく翅を揺らしながら目を閉じるエアリエル。微かに感じる空気の流れは二体の精霊を優しく包み込む。

 シーレにもう一度大丈夫と伝えたアルは、その様子を静観して待つ。



「ん~~~~~」


 エアリエルの表情が歪む。どんどん険しいものへと変わっていき、顎に手を当て首をかしげた。


「むむっ。……んっ? なんだろ、コレ。ん~……」


 ひとしきり唸ると沈黙し、そして勢いよく息を吸い込んだ。


「やっぱりキミ、凄いよ! だってだって、ボクの知らない能力持ってるんだもんっ!」


 声を弾ませるエアリエル。昂る感情を抑え切れず、クルクルと踊るように宙を舞う。


「どんな能力だったんだ?」

「えっとね~。……なんだろ? ボクも詳しくはわかんないんだけど、なんかね、導いてくれるんだよ! でもね、本人は自覚してないみたい!」


 あやふやな回答を受けたアルは、詳しく聞き出せないかと試みる。断片的な情報を繋ぎ合わせ、納得のいく答えを模索する。



「でもねでもね、心当たりはあるはずだよ! サーチといっしょに使うみたい!」


 得体の知れない能力――。

 それは祭壇まで導いてくれた一本の糸。並びに、奇妙な違和感の正体だった。


 それだけではない。

 過去を思い返したアルには思い当たる節がもう一つあった。

 シーレにすべてを任せて彷徨った【渓谷の洞穴】。メアと出逢った場所まで導いてくれたのだと今になって気付く。



 精霊の王でさえ知らない能力。あとは検証を繰り返して少しずつ把握していくしかないだろう。

 そう結論付けたアルは、続いて契約の意思を問う。


「そろそろ契約したいんだけど、何か問題があったら言ってくれ」

「契約じゃなくて、継承だよ~」


 エアリエル曰く、あと数年もすれば自身の存在が消えてしまう。そうなる前に、シーレに力を継がせたいらしい。


「継承が終わったら、ボクはゆっくりと過ごすよ」


 シーレに確認を取る。少しだけ不安はあるようだが了承を得た。


「大丈夫みたいだ」

「じゃ、始めるよ!」



 四枚の翅を羽ばたかせながら、左手で右の手首をつかんで上へと掲げるエアリエル。すると、彼の周囲に旋風が巻き起こった。

 暫くの(のち)、掲げた右手をシーレに向けて、掛け声ひとつ。


「えいっ!」


 何かを飛ばした気配はないが、転瞬、シーレの体が淡く光る。


「じゃ、あとはその子に聞いてね! あいつら、ホントにひどいんだよ!」


 言いたいことだけ告げたエアリエルは、また「えいっ!」という掛け声と共に封印石を破壊すると、こちらの返事を待たずして消えていった。



「うーん、自由すぎて困った」


 謎を増やして去ってしまったが、今はあまり時間がない。


「仕方ない。急いで帰るか」


 シーレと意思疎通を図りながら帰途につくアルであった。




------




「テュルティは相変わらずだなぁ」


 教会、エリアル支部のとある一室。マクシムは彼女の様子にため息をこぼす。予想通りすぎて安心感を覚えるほどだ。


「だって、リーブルに決まったんだもん。ねー!」


 白い野狐の背中を撫でつつ、同意を求めるテュルティ。長い尻尾にはきつね色をした九本の線が入っている。


「一回もダンジョンに行ってないでしょ?」

「ギクッ」


 テュルティの手が止まる。


「気付かれているではないか」

「キュウちゃんっ! しーっ!」

「分かってたことだから、それはいいよ」


 焦るテュルティとは対照的に、マクシムはこれからの予定を冷静に伝える。


「ちょっと、本部に戻ろうと思ってね。せっかく早馬に紛れて抜け出したところだけど――」

「どうしたの?」


 詳しく話しても意味はないだろうと、マクシムは簡潔に述べることにした。


「とにかく、一緒に戻るよ。その前にディロに寄って、ロプトを回収するけど」

「わかったぁ」



 神獣を八体も従えているだろう人物に勝ち目はない。

 ダンジョンにある封印石はすべて回収されたと判断したマクシムは、総力を挙げて事に当たるべく帰還することにした。


 暗部にはアルという冒険者の監視、及び素性の調査を指示している。ただ、派遣された人員が少数なこともあり、見失っても構わないと言い含めた。

 悟られるくらいならば、取り逃がしてしまったほうがいい。人物の特定が完了した今、焦る必要はない。

 それに、風の精霊を常に召喚していると見受けられる。警戒心の強い相手に無理をすれば、仕留める機会を永遠に失ってしまうだろう。



「じゃぁ、行こうか」


 現状を端的に伝えるためには何から話すべきか。マクシムは思考を巡らせながら馬車に乗り込んだ。




------




 わずか二回の探索で祭壇に辿り着いたアルは、ギルド証の受け取り期日までを休息日にして英気を養うことにした。

 一日目は街の内外を散策し、二日目はダンジョン内で能力の検証を。そして本日最終日。特注したリルの武器を受け取るため、武器屋に訪れていた。



「ご要望どおりの形状に仕上げておりますが、なにぶん材質が異なるために色合いも若干異なります。ご了承いただければ幸いです」


 小太刀を受け取ったリルは鞘から引き抜く。光沢の強い刀身はほんのりと青みがかっており、透き通るような輝きでリルの姿を鮮明に映し出した。

 形状は現在使用している小太刀と同じ。刀身の長さや身幅、厚みなどに差異は見られない。


「どう? 違いはある?」

「ちょっとだけ、軽くなった」

「大丈夫そう?」

「うん」


 見た目は申し分なく、重量の違いは気にもならない。まさにこちらの希望どおりの出来栄えだった。

 そしてもう一つ、要求していたことがある。


「鞘から素早く引き抜くことで、ストーン・スキンが発動するよう調整しております」


 精霊石が鞘に取り付けられており、引き抜く際に魔術が発動する仕組みだ。


 リルの戦い方を見ていると、小太刀の耐久力を心配しているのではないか。そう思ったアルは、こうして最高級の物を揃えた。

 精霊石の値段を含めると、鞘のほうが小太刀よりも若干高い。合算すれば、手持ちの武具では最も高価な品だ。

 アルが金欠に陥った原因でもあるため、この事はリルには内緒にしている。




 こうしてエリアルでの用件はすべて終わったので、明日の朝にギルド証を受け取りサディールに向かうだけとなった。


 教会を潰す算段はあちらに任せておけば問題ないだろう。シンシア曰く、アルに求められたのは圧倒的な戦力だ。

 今や伝説となった初代聖王は、広大な土地を荒野に変えてしまうほど苛烈な戦いを繰り広げたとされている。おとぎ話をどこまで信用していいかは分からないが、少なくとも、巨大組織の頂点であることには変わりない。


 リーブルという人物の強さもそうだが、【タルタロス】という召喚獣を封印する能力の対策が求められる。

 数で押し切るのか、封印石を素早く破壊するのか。

 なんにせよ、アルの持つ情報をすべて伝えれば、効果的な手段を考案してくれることだろう。



 そんな他人任せな期待を抱きつつ、何から説明すべきかと思案しながら時を過ごすアルであった。

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