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底無し魔力の召喚士~各地に封印された神獣と契約して最強へと至る者~  作者: 半分のリング


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88話 強さの証明

 エリアルに到着したアルたちは、まずはギルドに顔を出した。


「すみません、ギルド証の更新をお願いします」


 月日が経つのは早いもので、期限切れまで十日を切っていた。


「お預かりします。やっぱり、アルさんですか。お久しぶりです」


 アルは記憶を辿ってみるも、その顔に覚えはなかった。

 そもそも親しい間柄のギルド職員はおらず、世間話をしたことすらない。


(ギルド以外の場所で会ったのか……?)


 過去を振り返り、さまざまな可能性を手繰る。何か特徴はないかと彼女を観察する。


 ギルド証を確認した受付嬢は、昔を懐かしむように続けた。


「見違えるように逞しくなられましたね。当時は心配したものですが、大きく成長なされたようで、大変嬉しく思います」


 疑問符を浮かべていたアルであったが、あまり特徴的とは言いがたい声の主をようやく思い出した。


「登録した時の……」

「はい。当時は目も合わせてくれませんでしたよね」


 彼女が言うように、外見に関する記憶は呼び起こせなかった。

 それでも何とか思い出せたのは、僅かに残る声の記憶を辿ったからだ。


 少しだけ気恥ずかしくなったアルは視線を外してしまう。


「ふふっ」


 小さく笑う彼女の胸中を察し、苦笑するアル。当時はずっと下を向き、職員の手や机をぼんやりと眺めていたように思う。


(これじゃ昔と変わらないな)


 エリアルの南門をくぐった時から、アルは見極めようとしていたことがあった。

 大きく成長したのは力だけではない。これまでの旅路の中で、心も強くなったのだと証明したかった。人は変われるのだと示したかった。


 なにより、他でもない自分自身に――。



 襟を正して気合をひとつ。彼女に視線を戻したアルは、失態を重ねないよう胸を張って応える。


「その節は心配をお掛けしました。訳あって戻ってくることになったので、またよろしくお願いします」

「これはご丁寧に。外見だけでなく、内面も――「ゴホン」」


 奥から響いた咳払いに彼女の体が小さく跳ねる。


「では、少々お時間を頂戴いたします」


 どうやら怖い上司がいるようで、彼女は必死にメモを取り始めた。

 混雑しているわけでもないのに随分と厳格な人だなぁと、アルは彼女に同情した。



「追記がないので明日にも交付が可能となります。発行日も明日付けでよろしいでしょうか?」

「いえ、失効日と同日でお願いします」


 最後のダンジョンなので、神獣を見付けてすぐに移動する必要はない。カルロスと合流するのは先延ばしにしても問題ないだろう。

 それに、カルロスに敵の判別という緻密な作戦が遂行できるかは怪しいところ。彼の性格を考慮すると、どうしても成功する未来が見えなかった。




 そんな失礼なことを考えながらギルドでの用事を済ませたアルは、次に武器屋へと向かった。武器のメンテナンスを頼むためだ。


 使用率の一番高い薙刀も見てもらいたかったのだが、渋い顔をする副店長に固く禁じられていた。

 完成品を発表する前に模倣されては困るというのがその理由だ。ギルドからの評価を下げることにも繋がるので、さすがに破る気はない。


 まずは状態を確認してもらうために武器を預ける。ただ待っているだけというのも退屈なので、アルは店内を見てまわることにした。



「これは……」


 とある精霊石の説明書きを読んでいたアルは、その内容に惹きつけられた。

 ショックトリガー。アルが着用する胸当てに利用されている仕組みだが、これを応用した精霊石に懐かしさを覚えた。


「こちらの商品をお求めでしょうか?」

「え? ……いえ、面白い試みですね」


 過去に思いを馳せていたところ、不意に割り込んできた押し売りに近い言葉。それを受けて一瞬動じてしまったアルだが、平静を取り戻してやんわりと断る。

 しかし彼女は止まらない。アルの顔と精霊石、交互に視線を移しながら詳細を語り出した。


「こちらは領主様のご子息、フィンガル様が考案された精霊石でございます。強い衝撃を感知するとウインド・ブラストが発動する仕組みになっており、対象を弾き飛ばす効果が得られます」


 フィンガル・ヴォルテクス。ヴォルテクス家の次男にして、アルの兄にあたる人物だ。


(やっぱりか)


 精霊術だけでなく剣術にまで長けていたフィンガルは、戦闘中に詠唱を行い攻撃と同時に発動させる練習をしていた。

 アルが懐かしさを感じて思いに耽っていたのは、同じことをやろうとしていた人物に心当たりがあったからだ。



「誤動作を起こさないよう様々な工夫がなされており――」


 断ったつもりのアルに、さらなる説明を加える店員。押しが強いと困惑するアルだが、フィンガルの名を聞いて興味津々な顔つきになっていたのだろうと結論付ける。


 今度はきっぱり断ろうと、彼女の説明が終わるのを静かに待つ。



「このように、ご要望どおりの調整が可能となっております」

「とても参考になりましたが、今日は武器のメンテナンスをお願いしに伺いました。なので、精霊石購入の予定はありません」


 目配せをしながら丁寧に、はっきりと意思を伝えるアル。視線を向けた奥のカウンターでは土の精霊を召喚し、武器の状態を確認している。それをハクが興味深そうに眺めていた。


 少しだけ残念そうにする店員と軽く言葉を交わした後、彼女と入れ代わるようにして今度は男の店員がやってきた。


「お待たせしました。どうぞこちらへ」


 促されるまま奥へと向かう。店内に散ったメアたちも、それに気付いて集まってくる。

 全員揃ったところで店員の解説が始まり、一つひとつ手に取りながら状態と処置方法の確認を取る。


 リルの武器以外は損傷具合が軽微なため、明日の夕刻には終わるとのこと。安物の小太刀は金属疲労が激しく火入れをする必要があるそうだ。

 ならばいっその事、新しいものをと特注することにした。



 こうしてほとんどの武器を預けることになったアルたちは、明日を休息日にして今日一日を終えた。




------




 地に片膝を付けるカルロス。手にしていた木剣が宙を舞い、埋め込まれた精霊石が太陽に照らされ強く光る。



「こいつ……マジかよ……」

「これが加護を扱うということだ」


 手の痺れを確認するように視線を落とすカルロス。右手は小刻みに震えていた。


「レオの加護は身体能力系統だったな。狒々もそうだがディートは特別でな。特異技能系統に分類すべきものだろう」

「にしては力も強いじゃねーか。闘士の資質も高いのか?」

「その呼び方はあまり好きではない。だがまぁ、私に肉体強化の才能はない」


 目を見開くカルロス。筋力はこちらのほうが確実に上回っている。それでもラディアンの言が真実とするならば、この結果は信じがたいものであった。



「世間は召喚術を甘く見積もりすぎている。簡単に肉体を強化できる者のおごりだな。身体能力系統ではないディートの加護でさえ、これほどの力を誇るのだ。カルロスよ。レオの加護はそんなものでは収まらない。レオ自身の力が、そうであるように――」


 カルロスに召喚術の何たるかを示すため、ラディアンは決闘を申し込んだ。ローディの提言を採用した形だ。


「卑怯……とは言わないのだな」

「……あぁ。どんな能力だろうが、それがディートの加護なんだろ? これは俺がレオの加護を使いこなせてないのが原因だ。なら、文句なんて言えるわけがねぇ」


 効果はまさに覿面(てきめん)のようで、カルロスが自身を見つめ直すきっかけとなった。


 木剣を弾き飛ばしたディートの加護。その威力に抗いきれなかった自分が悪いのだと結果が示した。

 言い訳など出来ようはずがない。レオの力が本物であると信じて疑わないカルロスは、それだけは認めることができなかった。



「殊勝な心がけだ。私もディートの力すべてを引き出せているわけではない。神獣の力は他と一線を画すものだ。私もまた、精進せねばなるまい。良い試合だった」

「……嫌味か?」

「そんなことはない。見事な打ち込みだった。威力がもう少し高ければ、先に剣を手放していたのは私のほうだろう」


 木剣を握りしめた右手の感覚は失われていた。

 カルロスが放つ一撃は重く、容易に受け止められるものではなかった。


「カルロスよ。お前には伸びしろがある。まだまだ強くなれる。レオの加護が(もたら)す力、その身をもって証明してみせよ」


 眼光炯炯(がんこうけいけい)たる視線でカルロスを見据えたラディアンは、力強い言葉で激励を授けるのであった。

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