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74話 自信に裏付けられた覚悟

 二泊三日の非日常は、彼の心に彩りを添えた。

 良い事も悪い事も、すべてが彼の糧となった。


 とても有意義な三日間であったが、それはなにも心だけではない。

 新たな加護を得たことにより、アルの劣等感は完全に払拭されていた。


 技術はまだまだ拙いのかもしれないが、思い描いたとおりに体を操ることができている。メアとの手合わせも高い水準に達している。

 逆立ちしても勝てないと思っていた相手と対等に――とまではいかなくとも、そう見える程度には渡り合えている。その事実が自信へと繋がっていた。



 もっとも、メアが本気を出しているのかは分からない。今はまだ、彼女の力を推し量ることはできなかった。恐らく、本人の口から伝えられることもないのだろう。

 ならば、それを暴いてやろうと思った。自分の力で確かめてみたいと思った。


 強くなりたいという想いが。

 強くありたいと願う心が――。

 以前よりも大きく膨らんでいる。


 この三日間で、アルの心境には大きな変化が訪れていた――。





 ギンガの街より南へ。いくつかの丘を越えると辿り着くダンジョン、【大地の裂け目】。丘を越えると言っても尾根道を利用するので、比較的高低差の少ない道を歩いていくことになる。



 緩やかに蛇行する尾根道を進むと、東へ大きく曲がった辺りで見えてきた。


「あれだな。確かに、大地が裂けてるように見える」


 それは遠くからでも確認できるほどに巨大で、両側の谷間にそれぞれ似た亀裂が走っていた。


「あれらに入り口があるのじゃな?」

「あぁ。でも、今日はもう一つ奥の入り口から潜ろうと思う」


 【大地の裂け目】には三つの入り口が存在する。

 ここから見える二つの亀裂に一つずつ、そして最後の一つは南の丘を越えた先にある。


 ギルドで話を聞いたところ、奥の入り口から内部に続く道は広々としたつくりになっている。加えてモンスターの数も多いことから、大人数での探索が推奨されていた。


「久しぶりに効率のいい探索ができそうだからな」


 獅子姿のメアが駆け回れるのではないかとアルは期待を寄せていた。



 そうして尾根道の鞍部(あんぶ)――尾根の低くくぼんだ地点――まで進み、南側の谷をくだる。

 奥の入り口まで繋がる尾根道はないらしく、ここからは丘を登ることになる。


 山と見分けがつかないほどに高くなった丘は、そのぶん傾斜も大きい。蛇行する道を進み、丘の頂上に到着したアルは辺りを見渡した。


「遮蔽物がほとんどないな……」


 人目に付かずにここまで来れないかと確認するが、それは難しいようだ。

 遠回りをすればどうかと考えてみるが、谷間ばかりを通る道は見当たらず、どこかで丘を上る必要が出てくる。となると、周囲より高くなった尾根道を歩く冒険者に目撃される可能性が高い。



「仕方ない。まずは探索に集中するか」


 手前側ふたつの入り口は奥で繋がるという話だ。ならば、こちらまで繋がっていると考えていいだろう。

 一日で網羅してしまえばこの入り口に用はない。亀裂から地下へと続く穴の前にやって来たアルは、少し強気な目標を立てる。



「よし、行こう」


 シーレの能力で内部を確認し、少し先に広間を見付けたアルはダンジョンへと足を踏み入れた。




------




 王都へやって来たラディアンは王への謁見を求めていたが、案内された場所は会議室であった。

 そこには大臣たちだけでなく、エルヴィス・レイモンド伯爵とニコラス・ハーゼル子爵も同席していた。



 軽く挨拶を済ませたラディアンに、一人の男が声を掛ける。


「ご報告いたします。早馬によりもたらされた情報を共有すべく面会を願い出ましたところ、レイモンド伯爵閣下とハーゼル子爵閣下、そろってご到着なされていたようです。この場に居る全員、情報共有は完了しております」


 王都に残してきた文官、サイアスが現状を報告する。うむ、とだけ応えるラディアンに、サイアスはさらに続けた。


「レイモンド伯爵閣下により、教会の調査が進められております」


 二か月以上も前から教会は調査の対象になっていたようで、報告を受けたラディアンは感嘆する。

 カルロスにより(もたら)された情報を伝えた現在は、教会に絞って調査を行っているとのこと。


「こちらが現在までの調査報告書になります。ご一読ください」

「うむ。ご苦労であった」



 それを一瞥したラディアンは、グルーエルによる推測と、それを基にした作戦の修正案を皆に提示した。




------




「メア、止まってくれ」


 メアの背に乗りダンジョンを駆け回ること数時間。シーレの能力で細部を確認していたアルは、その範囲の端に指標となる特殊な構造を捉えた。

 それはダンジョン特有の荒々しいものではなく、滑らかになった表層。祭壇と同じ素材で出来ていると思われる人工物。


「確認するから待ってて」


 そう言ってアルはメアの背中から降りる。

 一瞬捉えたその表層も、今や範囲の外。指向性を持たせたシーレの能力で、もう一度確認するため意識を集中させた。




「どうやら在ったようじゃな」


 人の姿に化けたメアは、アルの顔を見て察する。


「あぁ。間違いない」


 召喚を解いていたテン、エリ、テトの三体を召喚したアルは告げる。


「祭壇を見付けた。少し遠いから、急ごうか」


 そうして一つ手前の分かれ道まで戻り、その先へと足早に進む。複雑に入り組んだ祭壇までの道を、迷うことなく辿る。


 三〇分ほどすると通路は暗くなってきたが、右へ曲がった先から微かな光が漏れていた。それを頼りに奥へと進む。



 行き止まりとなる空間は通路よりも広い。

 壁や地面はその()()()が光を失い、天井から放つ光()()が微かに照らす。


 祭壇は目の前にある。

 何度も見てきた。

 間違いであるはずがない。

 はずなのだが――。


 そこに封印石は見当たらなかった――。




「どうやら一足遅かった、ということじゃな」

「そう……なんだろうな」


 魔鉱石や精霊石は消耗品である。同じ素材の封印石がここで砕け散ったという可能性は、抉られた地面により否定された。



 呆然と立ち尽くすアルに、メアが言葉を掛けた。


「そう気落ちするでない。敵は既に知れておる。取り返す機会も巡ってこよう」


 笑顔を向けるメア。自信に満ち溢れた姿に安心感を覚える。


「全部、倒せばいい」


 無表情のまま言い放つリル。それが容易であると思わせた。


「いつかは戦うことになる相手じゃからの。ついでに助け出せば良かろう」


 妖しく笑うテン。それもそうだと納得する。


「当初の予定通り、目的を果たしましょう」


 優しく微笑むヨル。しかし、空気が一変する。


「そうだな! 貴殿の予定が狂うほどのことではない!」


 大盾を掲げるエリ。次こそ驚異を撥ね除けてほしい。


「次の街でお魚、食べられるといいなー」


 あっけらかんとしたテト。平常通りの様子に、アルは落ち着きを取り戻す。



「みんなの言うとおりだ。目的は何も変わらない。ここに封印されていた神獣には少し待っててもらうことになるけど……」


 そこで一旦言葉を区切り、皆の顔を一瞥していくアル。


 頼もしい仲間に出逢えた。

 支え合い、互いに補い合う存在。

 彼女たちと一緒ならば、どんな事だろうと成し遂げられる。

 心からそう思った。


「近いうちに、すべてを助け出す。邪魔するやつは容赦しない」

「その意気じゃ!」



 こうして新たな問題は発生したものの、それはアルの決意を確固たるものにする結果となった。

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