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底無し魔力の召喚士~各地に封印された神獣と契約して最強へと至る者~  作者: 半分のリング
 

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69話 心を刺激する変人

 想い出は心を豊かにする。


 日常から解放され、普段とは違う時を過ごす非日常。

 それは記憶に強く残り、心を色鮮やかに染め上げる。


 アルが過ごす非日常は、空っぽだった彼の心の中を満たしていく。優しく彩る想い出となっていく。

 これが心を豊かにするものであり、心を育むということである。




「おっ、あれかな?」


 川沿いを進むアルたちの正面に現れた五メートルほどの崖。その上には掘っ立て小屋と思われる木の屋根が顔を出していた。


 小川は崖の手前で左側の山林へと消えていき、道しるべとしての役目を終える。

 それを引き継ぐかのようにして延びる山道を進み、崖の右側へと回り込む。その先に設けられた階段を上り、崖上へと到着したアルは周囲を一瞥した。


「思ってたよりも広いな」


 掘っ立て小屋付近には調理施設や休憩場所のような東屋があり、他にもいくつかの小屋が広場に散見された。

 その広場を流れる小川は中央辺りで池のように膨らみ、そして広場を出るころにはまた小川へと戻る。生け簀のような役割を果たしているのだろう。湖では生け簀を利用していると本にも書かれていた。


 そして掘っ立て小屋から遠い池のほとり。アルから見て右側手前に一人の男が座り込んでいるのが目に留まった。


「とりあえず、あの人に聞いてみるか」


 男に近付き、後ろから声を掛ける。


「すみません。ここにいる人に話を聞けと言われて来ました」

「――んぁあ?」


 妙な言葉を発した男は目をこすった後、ハッとしたように声を上げた。


「べっ、べべ別にサボってたワケじゃねーよ? ちゃんと起きてたし――」


 言い訳をしつつ振り返った男は、アルたちの姿を確認すると安堵のため息を漏らした。


「はぁー。おっかあかと思った。いや、寝てたワケじゃねーからな?」

「驚かせてすまない。ここで話を聞けと言われてな。まだつかみ取り体験はやってるのか?」


 話の深堀りをしてもお互いにメリットはないだろうと、アルは用件だけ伝えることにした。



「あぁ、そっちかー。やってはいるけど、今じゃもう数は少ないし、あんまり捕れねーだろうよ」

「やっぱり、時期が悪いのか」

「そうだなー。この時期は産卵で川下ってくから、その前に水揚げしたばっかだ」

「少しでも残ってるならやっていきたいんだが、大丈夫か?」

「そこの池に残ってるのなら捕ってもええが、なかなか苦労するだろうよ」


 この広い池から見付け出すこともそうだが、捕まえるのも簡単にはいかないそうだ。

 もっと多くの魚が残っていれば、何度も挑戦して捕まえることもできる。が、今の状態では望み薄だと忠告を受ける。

 網の貸し出しも行っているが、それだと面白味はないとのこと。


 それでもいいとアルが答えると、男は何かを呟きながら考え込んだ。


「……時期……連れて……お忍び?」

「どうした?」


 ほとんど聞き取れなかったので聞き返したところ、男は豹変した。


「あ! ようこそですよ、旦那。今ならいい部屋お貸しできますよ! ほら、あの上にコテージが見えるでしょ? 案内しますんで、ささ、こちらへ!」


 そう言って男はそそくさと歩き出した。


「なんだあれ?」


 突然の変わりように呆気に取られるアル。


「卑俗だなー」

「しかし、そう見えないこともないのがまた口惜しいの」


 聞き取れた二人の反応からアルはすべてを察した。



 さすがに飛躍しすぎだろうと。少しだけ不快になったアルは、誤解を解くため男を追いかける。


「何か勘違いしてないか?」

「ええ、わかってますわかってます。おらは何も見てねーんで、ゆっくりしてってくだせえ」


 何が分かっているというのか。

 思い込みの激しい男の誤解を解くのは難しいと判断したアルは、おっかあとやらに頼むのが堅実だろうかと思案する。


(いや、勘違いさせたままのほうが都合がいいか?)


 貴族のお忍び旅行を吹聴して回る人はそうそういないだろう。もし何かあったとき、口封じをするのも容易くなる。余計な詮索もされずに済み、待遇にも期待が持てるというもの。


「勘違いさせたままにしておこうか。看過できなくなってから訂正すればいいよ」


 そう結論付けたアルは、男に先導されコテージに到着した。



「ささ、こっちが入り口です。どうぞ中へ」


 コテージは簡素なつくりで貴族が利用するには少し物足りない。高級宿といった具合だろうか。

 それでも広さは充分に確保されており、それでいて清掃は行き届いているので快適に過ごせそうだ。


「必要な物はあとで運び込んでおきますんで、何か欲しいものがあればなんなりと! あ、外の生け簀に魚も入れておきましょうか?」


 コテージは広場から少し距離がある。そのためか、こちらにも生け簀が用意されていた。


「そこまでは必要ないかな。普段通りの体験がしたい。それより料金なんだが」

「給仕人などの有無で変わってきますんで、と言っても繁忙期には掘っ立て小屋に誰かいますが今の時期だと……」


 敬語が苦手であろう男は口調を気にするあまり、説明がたどたどしく判然としない。

 恐らくは貴族向けに用意する付き人。それに加え、普段なら広間でサポートしている人員の配置。一組の客に付きっ切りとなるため、その分が加算されると言いたいのだろう。


「全部こっちでやるから、人はいらない」


 今は手持ちが多いとはいえ、可能な限り安く済ませたかったアルは断ることにした。


「なるほど! 誰にも邪魔されず楽しみたいってことですね! 誰も近付かないようにしますんで、ゆっくりしてってくだせえ!」


 そうして男は走り去ってしまった。



「なんだったんだ、あいつは」

「可笑しな奴じゃったな」

「なんか不安になってきた。料金もまだ聞いてないし、交渉相手変えてほしい」

「僕もあの人、嫌いだなー」

「そうだな、あとで文句を言っておこう」


 必要な物はあとで運び込むと言っていたので、その時に苦情を入れればいいかと気持ちを切り替えることにした。

 せっかくの休息日。台無しにするわけにはいかない。


「とにかく、もう少し中を見てみようか」


 アルたちは吹き抜けに設置された階段を上り、二階部分の確認へと向かった。




------




「ちょっと見てほしい物があるんだけど、いいかな?」


 教会本部へ戻ったロプトは、フロージに小袋の中身を確認してもらう。


「スコルド卿、お前もか」


 それはマクシムが持ち帰った祭壇の一部と同じであり、状況もまた同様であった。


「じゃぁ、こっちは?」

「これは?」

「割れた地面の欠片さ。ほら、光ってないでしょ?」


 ダンジョンの表面は淡い光を放っている。それは魔鉱石と比べると微々たるものだが、その欠片は一切の光を失っていた。

 考えられる原因は一つしかない。しかし、念の為にとそれを確認するため持ち帰ってきたのだ。


「調べさせよう」


 そうしてゲノーモスを召喚し、それは向こうの土ではないことが確認された。


「面白くなってきたじゃないか。やっぱり、こうでないとな」


 土塊が変質するには時間を要する。

 それは魔力濃度によって違いはあるが、回収した場所はダンジョンの中。祭壇のある場所ともなれば、一年あれば事足りる。


 つまり、最近になって封印石が持ち出されたということだ。



「同じ人の仕業だろうね。調べなきゃいけないことがいっぱいだなぁ」


 持ち出された封印石の数。その人物の特定。また、神獣との契約に至ったのかどうか。

 神獣と契約を交わしていた場合、聖王自ら赴かねばならなくなる。それは今のフロージには難しいだろう。


「人物の特定はフルメナス卿に指揮を執らせよう。封印石の件はスコルド卿、お前に任せる」

「フルメナス卿には僕から伝えておくよ。封印石のほうは……マクシムと相談してからでいいかな? せっかく近くに居るんだし、彼の意見も聞いておきたいからね」

「好きにするといい」



 そうして部屋を退出したロプトは、自身の顔が緩んでいることに気が付いた。


「おっと、いけないいけない。気を引き締めていかないとね」


 独り呟きつつ、エーリッヒ・フルメナス大司教の住まう修道院へと向かうロプトであった。

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